留萌線・深川~石狩沼田の部分存続は可能か。留萌市内は廃線容認

沼田町は廃止を受け入れず

JR北海道の留萌線の沿線4市町は、同線の沼田町から留萌市までの廃止を容認しました。今後、深川~石狩沼田間の部分存続についてJRと協議することになりそうですが、一部区間を残すことは可能なのでしょうか。

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JR北海道が廃止提案

留萌線は深川~留萌間を結ぶ50.1kmの路線です。2018年度の輸送密度は137にとどまり、年間で6億6000万円の営業損失を出しています。経営難のJR北海道は「単独では維持できない」としてバス転換を求めており、国や北海道も廃線を容認しています。

JR北海道は、廃線後の代替案を地元自治体に示しており、バスの車両購入など初期投資を補助し、バスの新規路線の設定や既存路線の増便を支援することを明らかにしています。深川駅前広場へのバス乗り入れも検討、廃線後の駅舎や線路については、地域振興のため活用できるようにします。

一方でJR北海道は、留萌線を存続させる場合、沿線4市町で総額年9億円の負担金が必要という試算も示しました。さらに、今後20年間でトンネルや橋などの鉄道設備の更新費用が約30億円かかると見積もっています。

留萌線

沼田~留萌間廃止で合意

この問題を話し合うJR留萌本線沿線自治体会議の5回目会合が2020年8月18日に開かれ、沿線4市町の首長が出席しました。

会議は非公開で行われましたが、留萌市の中西俊司市長によると、深川市と沼田町が存続を主張し、留萌市と秩父別町が廃止を受け入れる姿勢を示しました。

結論として、沼田町と留萌市の区間を廃止することで合意。具体的な廃止・存続区間は議論されなかったということです。

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深川~石狩沼田間の存続議論へ

留萌線の駅別乗車人員(2014年~2018年の5年平均)は、秩父別が48.4人、石狩沼田が74.0人、留萌が64.6人です。それ以外の駅は、1日に2人以下しか利用していません。

留萌線駅別乗車人員
画像:JR北海道資料より

また、駅間別乗車人員(2018年特定日)では、深川~石狩沼田間は200人以上ですが、石狩沼田~留萌間は80人程度となっています。

留萌線駅間別乗車人員
画像:JR北海道資料より

これらのことから、部分存続を求める区間は、普通に考えれば深川~石狩沼田間14.4kmとなるでしょう。留萌線は全線で50.1kmなので、約35%の距離にあたります。

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定期利用者の割合の違い

留萌線の駅間通過人員を見てみると、深川~石狩沼田間は定期利用者の割合が高く、半分以上が定期利用者です。一方で、石狩沼田~留萌間は、約8割が定期外利用者です。

留萌線定期券利用者割合
画像:JR北海道資料より

留萌線の月平均定期券販売枚数(括弧内は通学定期)は、秩父別が36.7枚(36.3枚)、石狩沼田駅が52.9枚(51.9枚)、留萌駅が6.7枚(3.8枚)です。

留萌線定期券利用者数
画像:JR北海道資料より

沼田町は通学で留萌線を利用している高校生が多く、とりわけ線区外(旭川市など)への通学利用者が多くなっています。このため、廃線を簡単には受け入れられないのでしょう。

一方、留萌市は、定期外利用者が多いので、廃線となっても学生の通学問題に対処する必要があまりありません。また、2020年3月には深川・留萌道が全通し、札幌方面への定期外利用者は、ますますバスや自家用車が便利になっています。

留萌線は留萌市内の走行区間が長いこともあり、全線存続を求めると、留萌市は年9億円のうち6億円を負担する必要があるとみられています。留萌市としては、そこまでの費用負担をしてまで残す必要はない、と判断したのでしょう。

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運行経費をどう分担するか

要するに、留萌線は石狩沼田以南が通学主力の区間で、以北は観光・用務が主力の路線になっています。石狩沼田を境に、路線の性格が異なるのです。

では、深川~石狩沼田間だけを部分存続することは可能なのでしょうか。

ポイントとなるのは運行経費です。JR北海道は留萌線全線を存続する場合は年9億円の負担が必要と試算しています。深川~石狩沼田間に限った場合、その金額がいくらになるかは不明ですが、距離に比例するなら約3億円となります。固定費を考えれば、それより高くなる可能性もあります。

3億円と仮定して、これを深川市、秩父別町、沼田町で均等負担すれば各自治体で1億円ずつです。

各市町内の走行距離に比例させれば、路線が町内を横断している秩父別町が約2億円程度と過半を負担しなければならなくなる一方で、沼田町の負担は数千万円で済みます。

石狩沼田止まりにした場合、沼田町の駅は1駅だけで、町内の走行区間は1kmあまりにすぎません。そのため、距離に応じた負担では、沼田町が有利で、秩父別町が不利になります。

秩父別町が廃止を受け入れた理由は定かではありませんが、深川市に隣接しておりバス代替しやすいことのほか、存続を要求した場合に応分以上の費用負担を求められかねないと判断した可能性もありそうです。

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更新費用は軽減

JR北海道は、留萌線全線を存続させる場合、今後20年間でトンネルや橋などの鉄道設備の更新費用が約30億円必要とも見積もっています。たとえば第三留萌川橋梁は1919年建造で経年100年を超えており、架け替えや大規模修繕が必要になりそうです。

これについては、石狩沼田~留萌間の山間部を廃止するなら、だいぶ負担は軽くなりそうです。深川~石狩沼田間は平坦でトンネルはありません。大きな橋梁は雨竜川橋梁だけで、同橋梁は1978年建造です。設備更新費用については、大幅な負担軽減となるでしょう。

実際に存続できるのか

「深川~石狩沼田存続案」は、留萌線のうち、距離が長く輸送密度が低く維持費用が高い区間を切り離すものです。実現すれば路線の赤字が減ることは確かでしょう。しかし、単価の高い留萌までの定期外利用者を失うことになります。

深川~留萌間の客がバスに移れば、深川~石狩沼田間の利用者数も減少します。そう考えると、輸送密度は2018年度の137から大きくは改善しないでしょう。

今後、4市町は、JR北海道と具体的な協議を始めるとのことです。留萌市内の廃線については結論が出ましたが、深川~石狩沼田の部分存続については、JR側が改めて運行費用負担の金額を提示することになるとみられます。

その費用負担を沿線3市町が受け入れるのか、受け入れるとしてどう分担するのかが、次の議論になりそうです。

仮に存続すれば、14.4kmのローカル線が道央に残されることになります。ただ、地方の基礎自治体にとって、年間1億円規模の財政支出の負担は大きすぎるとみられます。国や道が費用分担をする姿勢を示していないこともあり、実際に存続できるかは不透明です。(鎌倉淳)

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