JR九州高速船「浸水隠し」の唖然。「クイーンビートル」運航再開は厳しく

事業そのものが岐路に

JR九州は、子会社のJR九州高速船が運航する日韓航路「クイーンビートル」で、浸水を隠蔽していたことを明らかにしました。航路は当面、運休しますが、運航再開は難しそうです。

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2023年から隠蔽

「クイーンビートル」は、福岡・博多港と韓国・釜山港を結ぶ高速船です。JR九州の完全子会社であるJR九州高速船が運航しています。

JR九州の発表によりますと、「クイーンビートル」の浸水隠蔽は、2023年2月にさかのぼります。

2023年2月11日に船首区画で浸水警報が作動し、海水が浸入しているのを把握。ダイバーがクラック(亀裂)を確認したものの、応急措置をしただけで、九州運輸局やJR九州へ未報告のまま運航を継続しました。

その後、ドック手配や修理計画の説明に九州運輸局を訪問した際、臨時検査の受検と、その結了までの運航停止を指示されました。結果として、「クイーンビートル」は3月4日まで運航を休止しています。

この件で、国土交通省は6月に「輸送の安全の確保に関する命令」を発出。これを受けたJR九州高速船は、7月に改善報告書を国土交通大臣に提出しました。

クイーンビートル

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航海日誌には「異常無し」

ところが、浸水はこれでは終わらず、翌年の2024年2月12日にも少量の浸水を確認します。JR九州高速船は、このときも九州運輸局に報告しませんでした。

一方で、浸水量に関する管理簿を社内で作成し、浸水を認めた場合に浸水量を管理簿に記載する形としました。ただし、航海日誌やメンテナンスログなどには「異常無し」と記載しています。いわば「裏日誌」を作成して浸水情報を隠したわけです。

その後、浸水が常態化したまま運航を継続してきましたが、同年5月27日に浸水量の増加を確認。このときは、浸水警報が鳴動しないよう、警報センサー位置を約60センチも上部にずらす細工をおこなっています。

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抜き打ち検査で発覚

5月30日には、浸水量がさらに増加し、浸水警報が発動したため、ようやく九州運輸局へ報告し、運航停止を決定。修理の後、7月11日に運航を再開しました。

これに対し、国土交通省が8月6日にJR九州高速船を抜き打ちで検査。これまでの隠蔽が発覚し、8月13日より「クイーンビートル」は運航を休止しています。

隠蔽はJR九州高速船の田中渉社長の指示でおこなわれていたとして、JR九州は8月13日付で、同社長を解任しました。

国土交通省が抜き打ち検査をした経緯は定かではありませんが、相次ぐ浸水に同省が疑念を持った可能性のほか、社内から内部告発があったのかもしれません。

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悪質な不正

まとめると、船体に亀裂が入り、浸水が常態化しているにもかかわらず、報告を怠り、応急措置で運航を継続していたことになります。

とくに、「裏日誌」を作成して浸水情報を記録したり、警報装置の位置をずらしたりしていたことは悪質です。JR九州という大手鉄道会社の完全子会社が、こうした安全にかかわる悪質な不正をおこなっていたのは衝撃的で、唖然とするほかありません。

不正を指示したとされる田中社長は、1993年にJR九州に入社。JR九州ファーム代表取締役社長や、JR九州執行役員事業開発本部ホテル開発部長、長崎支社長などを経て、2023年7月にJR九州高速船の代表取締役社長に就任しています。

つまり、JR九州の元役員が隠蔽を主導したわけです。JR九州の社風で育った幹部が安全を軽視する経営を続けていたことが明らかになったわけで、同社の企業風土も問われます。「子会社がやったこと」と、言い逃れできる話ではなさそうです。

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船体にも問題が?

報告を読む限り、「クイーンビートル」の船体そのものにも問題があるようにも感じられます。

「クイーンビートル」は、2020年に竣工したばかりの新造船です。「三胴船」と呼ばれる珍しい構造で、主船体の左右両側に副船体が張り出しています。3つの船体を船橋やデッキなどの上部構造物でつなぐ形です。

ただし、亀裂は三胴船でなくても生じ得ることですから、特殊な構造と浸水が直接関係するのかは定かではありません。

利用者としては、構造がどうあれ、最新鋭の船体で浸水が頻発するのであれば、船そのものの安全性が気になります。亀裂が入りやすい船に乗りたいと思う客はいないでしょう。

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事業そのものが岐路に

大事故が起こる前に、隠蔽が発覚したのは幸いです。しかし、今回の件で「クイーンビートル」は、船体への信頼と、運航会社への信頼を同時に失ってしまいました。

JR九州が今後、高速船事業をどうするかは明らかではありません。

今の船体で運航を再開したとして、また浸水が起こらないとは限りません。「クイーンビートル」は1隻しかありませんので、安全対策を徹底すれば欠航が頻発することになってしまう可能性もあるでしょう。そうなると、事業継続に支障が出ます。

船体を入れ替えるとなると巨費と時間が必要です。国土交通省からも重い処分が出されるでしょう。持ちこたえて会社を維持するだけの価値があるのか。JR九州の高速船事業が大きな岐路に立たされたのは間違いなさそうです。(鎌倉淳)

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