北海道新幹線の並行在来線問題で、長万部町が「並行在来線の旅客廃止」の方針を示しました。これにより、函館線の存続は厳しい局面を迎えそうです。
対策協議会で議論
北海道新幹線は、新函館北斗~札幌間で延伸工事が進められています。延伸にあわせて、並行在来線である函館線・函館~小樽間287.8kmがJR北海道から経営分離される予定で、この区間を鉄道として残すか、バス転換をするかが焦点になっています。
道と沿線市町村などは、「北海道新幹線並行在来線対策協議会」を設置し、この問題を話し合っています。これまでの試算では、第三セクターとして鉄道を存続させる場合、大幅な赤字が生じることがわかっています。結論は出ていないものの、全線の存続は厳しい見通しとなっています。
「旅客は廃止する方向」
これについて、沿線自治体の一つである長万部町は、広報紙6月号で、長万部町の想定される負担額について記載。鉄道を存続させる場合、赤字を自治体数で割ると、同町の負担額は、函館~長万部間で年間約4.4億円、長万部~小樽間で年間3.4億円にのぼることを明らかにしました。
一方、新函館北斗~余市間をバス転換した場合、負担額は新函館北斗~長万部間で年間3,800万円、長万部~余市間で2,100万円にとどまるとしています。
広報紙7月号では、国縫、中ノ沢、二股駅において、5日間で合計32名の利用者に聞き取りを実施した結果を掲載。「バスの増便があれば代替は可能」といった意見が多かったとしたうえで、「駅利用者が少なく、並行在来線を存続とした場合の負担が大きいことから、並行在来線の旅客は廃止する方向で検討すべき」という方針を示しました。
物流確保は国や道で
広報紙8月号では、寄せられた意見に対して、町の方針を回答。存廃について、「渡島・後志のそれぞれの沿線自治体が参加している『北海道新幹線並行在来線対策協議会』にて検討」とし、他の自治体と足並みを揃える姿勢を示しました。
一方で「新幹線と在来線のある長万部駅の魅力を自ら手放すのはどうかと思う」という意見に対しては、「役場内で費用対効果を含めて検討」と素っ気ない回答。貨物列車の物流に関しては、「北海道物流の確保は国や道で議論が必要」と突き放した姿勢を示しました。
こうしたことから、長万部町としては、長万部以南・以北のどちらの区間についても、旅客鉄道の存続を求めない姿勢を明確にしたといえます。
貨物鉄道としてどう残すか
北海道新幹線並行在来線については、函館~新函館北斗間は、新幹線の連絡線として存続が確定的です。余市~小樽間については、余市町が強く存続を求めていて、調査中です。
残る新函館北斗~余市間の旅客営業について、拠点駅の長万部駅を擁する同町が否定的な姿勢を明確にしたことは、他の沿線自治体に向けて波紋を広げるでしょう。
とくに長万部~余市間については、長万部町以外にも巨額の費用負担に後ろ向きな自治体が多く、貨物営業もないことから、鉄道存続は相当に厳しい状況になったといえます。
新函館北斗~長万部間については、貨物列車の大動脈のため、鉄道を完全に廃止することは現実的ではありません。そのため、貨物を主体とした鉄道として残す方法を模索することになりそうです。
「並行在来線」では維持不能
実際、国交省内では、新函館北斗~長万部間を念頭に置いた新たな枠組みについて検討が行われているようです。つまり、現時点は、「整備新幹線の並行在来線」という既存の枠組みによる、沿線市町が負担する形では、鉄道を維持できないという結論になりつつある段階ともいえます。
今後は、貨物主体のローカル幹線をどう維持するかについて、新たな枠組みを検討することになるでしょう。
もし、国や道の負担で貨物鉄道を残すなら、「ついでに」旅客を残してもよさそうな気がします。国や道でそうした議論になれば、長万部以南の旅客列車維持の可能性が残されているかもしれません。(鎌倉淳)
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