「日本海ミニ新幹線」は実現できるか。新潟県「鉄道高速化構想」の概要

北陸・上越新幹線を直結

新潟県は新潟市と上越地方を結ぶ高速鉄道を検討しています。「日本海ミニ新幹線」ともいえる鉄道高速化構想です。新たに工事費などの試算が発表されましたので、検討中の4案の概要についてまとめてみました。

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高速鉄道ネットワークのあり方検討委員会

新潟県では、新潟市と上越地域を結ぶ鉄道の高速化を図るため、「高速鉄道ネットワークのあり方検討委員会」を設置して、新たな高速鉄道の検討をしています。

この高速鉄道は、北陸新幹線と上越新幹線をつなぐのが目的です。ルートとして、4つの案が提示されていて、2024年3月26日に開かれた第6回会合で、概算工事費や工期などが示されました。

それぞれ1,200億円~2,100億円がかかり、工期は8~17年程度となっています。順に見ていきましょう。

なお、以下で「単線並列」というのは標準軌(新幹線の線路幅)と狭軌(在来線の線路幅)を単線で並べることを指します。三線軌とは標準期と狭軌をあわせた線路です。

E7系

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「信越ミニ新幹線」上越妙高接続案

案1-1は、トキ鉄・JRの上越妙高~長岡駅間をミニ新幹線化するものです。上越妙高~直江津~犀潟間を三線軌とし、犀潟~宮内間を単線並列として標準軌化。宮内~長岡間も三線軌化します。

上越妙高駅と長岡駅では、それぞれアプローチ線を設けて新幹線に乗り入れます。

いわば「信越ミニ新幹線」の上越妙高接続案です。総延長は約86km。実現すれば、新潟~上越妙高間が1時間21分で結ばれ、現状より37分短縮します。工事費は1,200億円、工期は15~17年程度と見積もられました。

新潟県高速鉄道ネットワークのあり方検討委員会
画像:新潟県高速鉄道ネットワークのあり方検討委員会資料

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「信越ミニ新幹線」糸魚川接続案

案1-2は糸魚川~長岡間のミニ新幹線化です。ベースは1-1案と同じですが、北陸新幹線側のアプローチ駅を糸魚川とし、糸魚川~直江津間のトキ鉄を単線並列とします。直江津~犀潟間が三線軌、犀潟~宮内間が単線並列の標準軌、宮内~長岡間が三線軌です。

いわば「信越ミニ新幹線」の糸魚川接続案です。総延長は約117km。実現すれば新潟~糸魚川間が1時間31分で結ばれ、現状より55分短縮します。工事費は1,500億円、工期は19~21年程度と見積もられました。

新潟県高速鉄道ネットワークのあり方検討委員会
画像:新潟県高速鉄道ネットワークのあり方検討委員会資料

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信越線改良案

案2は、信越線改良案です。標準軌化はおこなわず、上越妙高~長岡間の各所で曲線改良をおこない130km/h化します。したがって、ミニ新幹線ではなく、在来線特急が走るだけです。柿崎~柏崎間と越後広田~塚山間は短絡トンネルを整備。高田駅は1線スルー化します。

長岡駅ではアプローチ線を整備し、新在の同一ホーム乗り換えを実現します。

総延長は約82km。実現すれば新潟~上越妙高間が1時間31分で結ばれ、現状より27分短縮します。工事費は2,000億円、工期は13~15年程度と見積もられました。

新潟県高速鉄道ネットワークのあり方検討委員会
画像:新潟県高速鉄道ネットワークのあり方検討委員会資料

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「北越ミニ新幹線」案

案3は、北越急行ほくほく線のミニ新幹線化案です。北陸新幹線上越妙高駅から直通できる短絡線を、上越妙高~うらがわら間約18kmに整備します。この短絡線は、将来、羽越新幹線に転用できるように作ります。

ほくほく線は、うらがわら駅以東を三線軌化します。六日町駅手前で上越線に合流する短絡線を作り、上越線を単線並列にして乗り入れます。浦佐駅では、保守基地を改修して上越新幹線に乗り入れられるようにします。

いわば「北越ミニ新幹線」です。総延長は約72km。実現すれば新潟~上越妙高間が1時間18分で結ばれ、現状より40分短縮します。工事費は2,100億円、工期は8~10年程度と見積もられました。

経路から漏れる柏崎駅を救済するため、柏崎~長岡間に在来線のシャトル列車を走らせます。長岡駅でアプローチ線を整備し、シャトル列車が乗り入れて、新在同一ホーム乗り換えができるようにします。

新潟県高速鉄道ネットワークのあり方検討委員会
画像:新潟県高速鉄道ネットワークのあり方検討委員会資料

 
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調査結果まとめ

以上が、新潟~上越間の鉄道高速化の調査結果です。まとめると、以下のようになります。

○信越ミニ新幹線(上越妙高~長岡)
1,200億円、15~17年、37分短縮

○信越ミニ新幹線(糸魚川~長岡)
1,500億円、19~21年、55分短縮

○信越線改良
2,000億円、13~15年、27分短縮

○北越ミニ新幹線(上越妙高~浦佐)
2,100億円、8~10年、40分短縮

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糸魚川案の効果が高そう

費用便益費(B/C)などの数字は出ていませんが、整備効果が高そうなのは、案1-2の信越ミニ新幹線糸魚川接続案でしょうか。

工事費が1500億円と比較的低廉で、時短効果55分は最大です。上越妙高駅は経由しませんが、市街地の直江津駅に発着できるのは長所です。柏崎駅にも停車できます。文字通り「日本海ミニ新幹線」と称するにふさわしい路線です。

難点は20年前後かかると見込まれる工期。また、貨物列車が多数運行する信越線で、100kmの長さにわたって単線並列にすることが、現実的に問題にならないのか、という疑問もあります。

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北越ミニ新幹線案は工期が短い

つづいて有力なのが、案3の北越ミニ新幹線案でしょうか。工期が10年程度と短く、時短効果も40分とまずまずです。上越妙高~浦佐間の最高速度は130-160km/h程度で見積もられているようですが、標準軌の高架線なので200km/h運転も可能でしょう。その場合、時短効果はもっと高くなります。

貨物列車への影響が小さいのも長所です。北越急行は将来的に経営難が危惧されていますが、その救済策になっている点も、隠れたポイントでしょう。

工事費は2,100億円と高いものの、羽越新幹線の先行着手という側面も含んでの価格です。また、長岡駅のアプローチ線整備費用も盛り込まれているとみられますが、正直なところ、柏崎救済のためのアプローチ線まで整備する必要があるかは疑問で、この金額を削れば、費用面ではもう少し安くなるでしょう。

さらにいえば、ほくほく線は三線軌ではなく、うらがわら以東は標準軌のみにしてしまってもいいかもしれません。その場合、普通列車の運転区間は分断されますが、線路の維持費は安くできそうです。

案1-1と案2は、整備効果が相対的に低そうです。 そのため、今後は、案1-2と案3を中心に、費用対効果などを見定めながら議論が進められていくのでしょう。

ただ1,000億円規模のプロジェクトとなるため、実現は容易ではなく、現時点では、先行きは不透明というほかありません。(鎌倉淳)

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