北陸新幹線「仮称:南越駅」の駅名選定が難しい理由。公表8案の最有力は?

軸がないので選びにくい

北陸新幹線敦賀延伸時に開業する福井県越前市内の新駅(仮称:南越駅)の駅名案が公表されました。8案ありますが、最終的な駅名選定は難しそうです。

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「越前武生」など8案

南越駅は、福井駅~敦賀駅間に設置される新駅です。福井駅から19km、敦賀駅30.2kmの距離にあります。同新幹線敦賀延伸では唯一の新幹線単独駅で、北陸本線武生駅の東5kmに位置します。

仮称は「南越駅」ですが、正式名称は未定です。駅が立地する越前市では駅名候補選定委員会を設置して駅名案を検討していて、2020年5月27日の第2回会合で、候補として8案を選びました。選ばれた駅名案は以下の通りです。

・越前武生
・新武生
・越前市
・南越たけふ
・越前
・武生新
・南越
・越前国府

南越駅舎
画像:越前市

「武生」「越前」「南越」を組み合わせ

駅名案は、大きく3つの要素で構成されています。「武生」「越前」「南越」です。武生はこの地域のかつての都市名。越前は福井県北部の旧国名で、2005年に武生市と今立町が合併して発足した現都市名です。南越は越前南部の地域名で、駅名の仮称です。

8つの案のうち7つは、これら3要素をベースにしたり、組み合わせたりしたものです。最後の「越前国府」がやや異質で、かつて国府が置かれていたとされることに因みます。ただ、国府は遺構が見つかったわけではなく、史跡が観光地になっているわけではありません。

8案の選定は、おおむね「武生」「越前」「南越」をどう組み合わせるか、という話に行き着きます。これはなかなか難しそうで、ネット上の意見を見てもさまざまです。あえていえば、「越前武生」「新武生」「南越たけふ」「南越」の4案を推す声が、比較的多いように感じられます。

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基本方針は?

地元越前市では、6月15日~7月15日にウェブサイトなどで住民の意見を募集します。7月下旬の委員会でさらに5案程度に絞り、8月ごろにJR西日本に提案。委員会の提案を基にJR西日本が2021年春、名称を最終決定します。

ちなみに、越前市の駅名選定の基本方針は以下のとおりです。

① 駅所在地を示すなど具体的な位置情報を持ち、全国の方々にわかりやすい。
② 簡潔で読みやすく、言いやすい。
③ 既存駅(武生駅)との関係性が明確。
④ 丹南地域の玄関口として相応しい。

①と②はおおむね8案すべてが満たしていそうです。③を満たすのは「越前武生」「新武生」「南越たけふ」「武生新」でしょうか。④を満たすのは「越前武生」「越前市」「南越たけふ」「越前」「南越」でしょうか。

つまり、4つ条件を満たすのは「越前武生」「南越たけふ」と思われます。

ちなみに、近隣市町村からは以下のような要望が寄せられています。

・鯖江市…駅名に「鯖江」を入れてほしい
・池田町…意見なし
・南越前町…駅名に「越前」を入れてほしい
・越前町…「越前駅」にしてほしい

鯖江市の要望だけは無視されていますが、「越前」の名称を入れれば、南越前、越前両町の意見は取り入れられます。この点を考慮すると「越前武生」がもっとも優勢です。

ただ、「越前武生」は福井鉄道が現在、駅名として使用しています。その越前武生駅の旧駅名は「武生新」で、これも新駅名の候補に入っています。私鉄が使っていた駅名を新幹線に転用すれば珍しいケースになります。

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新高岡、黒部宇奈月温泉は?

ここで、同様のプロセスで駅名が決まった、北陸新幹線金沢開業時を振り返ってみましょう。新高岡(仮称)、新黒部(仮称)の二つの駅の、JR西日本に提出された要望書の候補は以下の通りです。

・高岡万葉、万葉高岡、新高岡、高岡飛越能、飛越能高岡→新高岡
・北アルプス黒部、黒部、黒部宇奈月温泉、新黒部、にいかわ黒部→黒部宇奈月温泉

新高岡は、「万葉」「飛越能」という要素が採用されませんでした。黒部宇奈月温泉では、「北アルプス」「にいかわ」という要素が採用されず、「宇奈月温泉」という知名度の高い要素が取り入れられました。

軸となる名称がない

上記両駅の駅名候補に共通しているのは、軸となる名称が存在していた、という点です。新高岡には「高岡」、黒部宇奈月温泉には「黒部」という都市名があって、駅名候補の軸になっていました。

南越(仮称)の場合は、軸となる名称が「武生」なのか「越前」なのか「南越」なのかが定まっていません。越前市が合併後の名称で、駅が立地するのは武生市だったことが、話を複雑にしています。

さらにいえば、「越前市」が誕生する際に、合併新市が隣接自治体(越前町)と同じ自治体名にすることに異論が強かったことも、話をさらに複雑にしているようです。

軸がない以上、複数の地名をあわせて最大公約数を探るしかありません。となると、現都市名(越前市)と隣接自治体名(越前町、南越前町)、旧都市名(武生市)を組み合わせた「越前武生」が、周辺の自治体や旧武生市民の意向も含めて、丸く収めやすそうな印象です。

最終決定をするJR西日本も、禍根が残るのを避けたがりますので、周辺自治体の意見も含めて最大公約数を求めるでしょう。つまり、福井鉄道が了承するという条件付きですが、「越前武生」がやはり最有力に思えます。

最後に付け加えると、筆者の予想はだいたい外れます。(鎌倉淳)

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