長崎新幹線が暗礁に乗り上げて。「スーパー特急方式」を見直そう!

200km/h超えれば新幹線

九州新幹線西九州ルート(長崎新幹線)計画が暗礁に乗り上げています。軌間可変電車(フリーゲージトレイン)を導入する予定でしたが、技術開発が事実上頓挫。全線フル規格とミニ新幹線の二択で検討が進みそうですが、どちらも沿線の佐賀県が受け入れる姿勢をみせていません。与党の検討委員会も処理に手を焼き、無期限の先送りの姿勢を示しました。

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フリーゲージトレイン正式断念

長崎新幹線は博多~長崎間を結ぶ整備新幹線です。博多~新鳥栖間は既存の九州新幹線を使い、武雄温泉~長崎間は路線を新設し、2022年度に暫定開業します。残る新鳥栖~武雄温泉間は、在来線の線路を活用し、フリーゲージトレインを走らせる構想でした。

しかし、フリーゲージトレインの開発が遅れ、事実上頓挫。当面は、新幹線と在来線を武雄温泉駅で乗り継ぐ「リレー方式」で開業します。フリーゲージトレインについては、JR九州も運用に難色を示し、2018年7月19日に開かれた与党の整備新幹線建設推進プロジェクトチーム検討委員会で、正式に断念が決まりました。

長崎新幹線ルート
画像:国土交通省

佐賀県のメリット、デメリット

残る選択肢として、与党検討委員会はフル規格新幹線とミニ新幹線を挙げています。

フル規格新幹線の建設スキームは、沿線自治体が新幹線の距離に応じて建設費を負担するルールです。そのため、通過県である佐賀県に1100億円もの負担が生じるうえに、並行在来線がJRから切り離される可能性があります。

佐賀県はフル規格新幹線開業による時短効果の恩恵をあまり受けません。メリットは、新大阪まで直通の新幹線が走ることですが、建設費負担や在来線移管のデメリットに比べて割りにあわない話です。そのため、佐賀県はこれを拒否しつづけています。

一方、ミニ新幹線は在来線の複線のうち、片方を改軌して単線並列にする案が有力で、片方のみ三線軌にする案も出ています。佐賀県のメリットとしてはこれも新大阪まで直通のミニ新幹線が走ることですが、デメリットとして在来線を単線化した場合に運行本数が減り、所要時間が延びることなどが挙げられます。

ミニ新幹線の佐賀県の建設費の負担額は明確ではありませんが、少なくとも300~400億円にはなりそうです。また、新在併用のミニ新幹線には、保守管理が複雑になるなどの問題点もあります。

いずれの案も佐賀県にとって、メリットに比べてデメリットが大きいため、佐賀県が同意する可能性は高くありません。佐賀県の山口祥義知事は、「なぜフリーゲージをやめて2つに絞るのか、違和感がある」と述べています。

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新幹線の押し売り

そもそも整備新幹線は、沿線自治体の求めに応じて建設されるという建前です。佐賀県が「うちの県は要らないです」といっているのに、長崎県や一部政治家が建設を進めようとしている形で、いわば「新幹線の押し売り」状態になっています。

新幹線開業でメリットが大きい長崎県の立場は理解できるにしても、現在の整備新幹線スキームでは、佐賀県の大きな負担の上に長崎新幹線を実現するのは困難というほかありません。整備新幹線の国と地方の費用負担割合は、全国新幹線鉄道整備法施行令において「国にあつては三分の二を、都道府県にあつては三分の一を」と明確に定められていて、建設するなら佐賀県は負担を免れません。

もちろん、政治の力でスキームそのものを変えることは可能です。

しかし、「新幹線が通過するだけの県の負担を軽減する」というスキームを作ってしまったら、北陸新幹線大阪延伸において、京都府や大阪府の負担が軽減されることになってしまいます。今後の基本計画路線でも同じような事態が起こるでしょう。影響が大きすぎるため、整備新幹線スキーム再検討は容易ではありません。

朝日新聞2018年7月20日付は、佐賀県の負担軽減の可能性に触れたうえで、国土交通省幹部のコメントとして「負担軽減は公共事業の前提が変わるのでありえない」と否定しています。

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リレー方式で固定化

いったい、この問題をどう収拾するのか、と全国の関係者は興味深く眺めています。この日の与党検討委員会では、フリーゲージトレインを正式に断念し、フル規格かミニ新幹線かの二択で検討することを決定しました。山本幸三委員長は、「いずれかを選択する必要があることについて合意に至った」と述べています。

一方で山本幸三委員長は、二択の結論を出す時期について、「今はちょっと言えない。特にこれという決め手をもっているわけではない」と発言。議論が袋小路に陥っていることを認めました。そのため、当面は武雄温泉駅で乗り継ぐ「リレー方式」が固定化しそうです。

2022年度の長崎新幹線「リレー方式開業」により、新大阪~長崎間を列車で移動するには、博多(もしくは新鳥栖)、武雄温泉の2ヵ所で乗り継ぎが必要になります。新大阪への直通を願う長崎県の意図に反して、乗り換え回数が増えてしまうわけです。そして、しばらくはその状況が続きそうです。

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「スーパー特急方式」を見直そう

これを改善するために、武雄温泉~長崎間を狭軌で建設できないかと考える人もいるでしょう。いわゆる「スーパー特急方式」です。これなら博多~長崎間を現在の特急車両で直通できますし、高速の新型車両を投入すれば所要時間を短縮できます。

もともと、武雄温泉~長崎間は、「スーパー特急方式」で検討されてきた経緯があり、それに戻すわけです。

政治家が「新幹線」という名称を望むなら、「スーパー特急」に変わる新たな名称を考えればいいだけの話です。たとえば「ナノ新幹線」や「エコ新幹線」にでもしたらどうでしょう。スーパー特急方式でも200km/h以上を出せれば、法令上は新幹線です。

実際のところ、武雄温泉~長崎間の工事はフル規格として進んでおり、いまさらスーパー特急方式に戻すのは困難なようです。そのため、与党検討委でも、議論の俎上にのぼっていません。

ただ、今後、新幹線の建設を全国でさらに進めるなら、「スーパー特急方式」はもっと見直されていいと思います。四国や山陰に本当に新幹線を通すとして、狭軌のまま在来線の一部を高速化改良する方法は、ローカル輸送、貨物輸送と高速鉄道を両立させる形として意味があるからです。

これを機に、スーパー特急方式を「新幹線」の一つの形として、改めて考え直してはいかがでしょうか。(鎌倉淳)

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