JR九州、長崎新幹線の並行在来線存続を示唆。建設へ前進するか

しびれが切れてきて

長崎新幹線の新鳥栖~武雄温泉間の建設問題で、JR九州が並行在来線の第三セクター移管をしない方針を示唆しはじめました。経営移管がなければ、フル規格新幹線建設のハードルの一つが解消することになります。

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残り51km

長崎新幹線(九州新幹線西九州ルート)は、武雄温泉~長崎間66kmについて、2022年秋にも開業する見通しとなっています。残る新鳥栖~武雄温泉間約51kmについては、地元自治体の佐賀県がフル規格新幹線の建設を要望していないため、現時点で建設のメドが立っていません。

佐賀県が新幹線を求めてない理由は大きく二つあり、ひとつが並行在来線問題です。整備新幹線を新たに建設する場合、並行する在来線をJRから経営分離することについて沿線自治体が同意する必要があります。長崎新幹線の鳥栖~武雄温泉間の並行在来線の区間は明示されていませんが、鳥栖~肥前山口間が該当するとみられます。

もう一つが財源問題で、国交省の試算で佐賀県は実質的に660億円の負担が必要です。つまり、佐賀県としては660億円も負担させられたあげく、在来線の運営まで押しつけられるわけです。にもかかわらず、新幹線による博多までの時間短縮効果が限られるため、割にあいません。

長崎新幹線ルート
画像:長崎県

社長、専務が足並み揃え

この二つのハードルのうち、並行在来線問題について、JR九州が踏み込んだ発言をし始めました。まず、青柳俊彦社長が10月28日の定例会見で、「実態として鹿児島ルートなどで、並行在来線が全て経営分離されたかというと、そうはなっていない」と説明。長崎ルートに関しても、経営分離しない可能性を示唆しました。

さらに、古宮洋二専務が11月2日の佐賀県議会の新幹線問題特別委員会に参考人として出席。「並行在来線について具体的な議論するような段階に至ってない」と述べた上で、「今後の幅広い協議においてフル規格という選択肢にある程度のめどがつきそうな段階で、どのような形で維持できるのか精一杯協議していきたい」と説明。終了後、報道陣に対して「必ずしも経営分離を前提としない」旨を付け加えました。

青柳社長も古宮専務も、フル規格の流れが固まってきた段階で並行在来線維持を決めることを示唆しました。社長、専務が足並みを揃えた発言をしていますので、JR九州として意思統一された見解と考えてよさそうです。フル規格での建設が決まらない中、しびれを切らしての情報発信といえるかもしれません。

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並行在来線の議論は沈静化?

青柳社長が説明したように、九州新幹線鹿児島ルートでは、博多~鹿児島中央間のうち経営分離したのは八代~川内間のみです。長崎新幹線鳥栖~武雄温泉間についても、JR九州が経営分離しないだろうという観測は以前から流れていました。JR九州がこうした観測を「追認」したことで、並行在来線を巡る議論は沈静化していく可能性がありそうです。

ただ、並行在来線がJRとして残ったとしても、在来線特急が存続することは意味しません。特急が残されるとしても限られた本数になるでしょう。古宮専務も「一般的に旅客需要が新幹線に移るため、特急利用者の需要がどう変化するかがポイントになる」と述べ、特急の本数維持を明言していません。

空いたダイヤに快速列車が運行される可能性はありますが、人口減少による将来的な利用者減少を考えると、快速サービスを大きく展開することは難しいでしょう。

また、佐賀~博多間の特急利用者からすれば、在来線特急が新幹線になれば「値上げ」となりデメリットです。一方で、新大阪直通列車が運行されるというメリットも当然あります。

12月までに整理

もう一つのハードルである財源問題についても動きが出はじめました。与党整備新幹線建設推進プロジェクトチーム(PT)の細田博之座長は、10月5日に自民党佐賀県連の代表者と面会した際に、「必ず案を作って代用しないと、これで終わりでは新幹線の構想自体が壊れる。12月末の予算決定までにきちんと整理していきたい」と発言しました。

記者団に対しては、「佐賀県の負担はできるだけ少なくし、県民にとって便利な交通体系にするという難しい方程式を解かないといけない。新幹線を通さないという結論はない」と念押しし、何らかの予算措置をする方針をにじませました。

とはいえ、考えられる方法は多くありません。佐賀県の負担を減らすなら、そのぶんを国が負担するか、長崎県の負担を増やすか、JRへの貸付料を引き上げるか、いう三択しか思い浮かびません。

国の負担を増やすということは、整備新幹線の建設スキームを改めることになり、今後の他の整備新幹線建設にも影響し、話が複雑になります。受益の大きい長崎県の負担増は理にかなっている気もしますが、そう簡単に受け入れられないでしょう。JRの負担については、そもそも「受益の範囲内」という制約があります。

長崎新幹線は、長崎県の受益が最も大きい新幹線なのに、佐賀県を走る区間のほうが長いため佐賀県の負担が長崎県より大きいというアンバランスがあります。このアンバランスが、現状の混乱につながっている大きな要因でしょう。となると、受益と負担を均衡させる仕組みを国が用意するほかなさそうですが、細田座長に名案はあるのでしょうか。(鎌倉淳)

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