北海道夕張市の「マウントレースイスキー場」が、東京の不動産事業者、元大リアルエステートの子会社・元大夕張リゾートに売却されることが決まりました。夕張市が契約を発表しました。
売却先の元大夕張リゾートの経営者は中国人。同社は中国など海外からの集客を目指し、「夕張を第二のニセコにする」と意気込んでいます。新しいオーナーを得て、マウントレースイはどう変わるのでしょうか。
4施設を2億3600万円で売却
夕張市が売却するのは、「マウントレースイスキー場」のほか、「ホテルマウントレースイ」「ホテルシューパロ」、主に合宿向け施設の「ファミリースクールひまわり」の計4施設です。売却額は総額で約2億3600万円です。
これらの施設は、現在、夕張市と指定管理者契約を結ぶ加森観光の子会社、夕張リゾートが運営しています。加森観光との契約は2017年3月までで、同社は運営から撤退する方針を示しており、夕張市は施設の売却先の選定を進めてきました。
しかし、2016年11月の1回目の入札では応札がなく、今回も応札がなければ、最悪の場合、マウントレースイスキー場とホテルは、閉鎖に追い込まれる可能性もありました。その意味で、元大リアルエステートは、夕張市にとって「救いの神」といえます。
「松下系」のスノーリゾート
マウントレースイスキー場は、もともとは夕張市と夕張市出資の第三セクターによって運営されていた小規模なゲレンデです。
1988年に松下電器産業系の不動産開発会社・松下興産が約20億円で施設を買収し、約100億円以上を投じてコースを大幅に拡張。ホテルも建設し、1991年にスノーリゾートとして再開業しました。
ところが、1990年代後半に松下興産が経営難に陥り、2002年に夕張市に施設の売却を打診。夕張市がこれに応じ約26億円で購入し、再び市の施設となりました。2007年に夕張市が財政破綻すると、加森観光が指定管理者として運営を受託しました。
メンテナンス費用だけで62億円
こうした経緯をみると、今回の2億円あまりの売却額は安いようにも見えます。ただ、バブル期に開発した施設は一部が老朽化し、多額の改修費が必要です。夕張市の試算では今後25年間でメンテナンスに62億円のコストがかかるそうです。
実際、落札した元大夕張リゾートでは、当面の改修費などに100億円を投じるとのこと。そう考えれば、元大としても、「安い買い物」というわけではなさそうです。
売却により、夕張市は固定資産税などで、年間6000万円程度の税収を見込んでいます。雇用も守られるため、市にとっては、総合的には悪い話ではないようです。
海外訪問客に向いているゲレンデ
ニセコやルスツといった大規模リゾートがひしめく北海道にあって、マウントレースイスキー場の存在感は大きくありません。本州のスキー・スノボ客が北海道へスキーに訪れるとき、最初の選択肢になりにくいゲレンデです。そのため、マウントレースイは、これまで集客に苦戦してきました。
ただ、ゲレンデはフラットで滑りやすく、内陸部だけに雪質は軽く、初中級者の練習には適しています。スキー・スノボに慣れていない、アジア各国からの訪問客には悪くないスキー場だと、筆者は考えています。
にもかかわらず、現在のマウントレースイでは、外国人の姿が多くありません。ニセコやルスツが外国人であふれているのに比べると、意外なくらい、日本人比率が多いスキー場です。
富裕層を誘致
元大夕張リゾートでは、海外からの集客に力を入れるとしており、ホテルに豪華な別館を建設して富裕層を誘致する計画もあるそうです。
同社の呉之平社長は「夕張は新千歳空港に近い立地が魅力。中国、台湾をはじめ、欧州のスキー客も誘致し、夕張発展の一翼を担いたい。将来は、夕張を『第2のニセコ』にしたい」と抱負を述べました。
いささか大風呂敷にも感じますが、発言を額面通りに受け取れば、マウントレースイは、大きな目標を持つ経営者に恵まれたことになります。
マウントレースイを「第2のニセコ」にするには、スキー場だけでなく、夕張全体の魅力アップも必要です。市とリゾート運営会社が協力して、賑やかな夕張が戻ってくることを期待しましょう。(鎌倉淳)