宮崎県が、東九州新幹線について新たな調査をおこないます。これまでの「日豊線ルート」のほかに、新八代から分岐するルートなども調べます。
3ルートを調査
宮崎県内には、現在、新幹線の営業路線はありません。1973年に定められた基本計画線として、福岡市から大分市、宮崎市を経て鹿児島市に至る「東九州新幹線」の構想があるものの、整備計画は策定されておらず、実現の見通しは立っていません。
そこで、宮崎県では、新幹線整備に向けた新たな調査をおこなうことを発表しました。調査するルートは以下の3つです。
①「日豊線ルート」小倉~大分~宮崎~鹿児島中央
②「新八代ルート」新八代~宮崎
③「鹿児島中央先行ルート」鹿児島中央~宮崎
①は、東九州新幹線の基本ルートで、山陽新幹線小倉駅から分岐し、日豊線沿いに鹿児島中央に至ります。②は、九州新幹線新八代駅から分岐し、熊本・宮崎県境を経て宮崎市に至るルートです。③は、日豊線ルートのうち鹿児島中央駅から宮崎市までを先行して整備するプランです。
調査は民間業者に委託し、3ルートそれぞれの所要時間や整備費用、需要予測、費用対効果、並行在来線問題などについて課題を整理します。調査費用として、新年度予算案に3400万円を計上しました。
2016年にも調査
東九州新幹線については、2016年に東九州新幹線鉄道建設促進期成会が「東九州新幹線調査報告書」(野村総研調査)を発表しています。いわゆる「日豊線ルート」に関する内容で、完成した場合、小倉~大分間110kmが31分、大分~宮崎間170kmが48分、宮崎~鹿児島間100kmが29分で結ばれるとしています。小倉~鹿児島中央間は108分です。
需要予測は、人口予測をすう勢通りとした場合、2060年の1日あたりで北九州~大分間が21,020人、大分~宮崎間が7,180人、宮崎~鹿児島間が2,710人です。全区間平均が9,950人と予測しています。
整備費用の総額は2兆6730億円と推計しています。福岡県内が3,050億円、大分県内が9,000億円、宮崎県内が1兆430億円、鹿児島県内が4,210億円です。費用便益比は、2060年から30年で0.88、50年で1.07です。
ただ、全区間計380キロを3兆円足らずで建設するのは、今の時代では無理がありそう。その試算ですら、宮崎県内は1兆円の整備費用がかかるわけで、すぐに実現するとは思えない内容でした。
目玉は新八代ルート
新たな調査の目玉は、新八代ルートでしょう。
詳細な想定ルートは明らかではありませんが、九州新幹線の新八代で分岐し、人吉市、えびの市、小林市を経て宮崎市に至るルートがベースになるとみられます。やや大回りになりますが、都城市に立ち寄る案も検討されるかもしれません。新八代駅~宮崎駅の直線距離は約100キロです。
新八代ルートは、宮崎市と福岡市を短距離で結べるうえ、対博多の所要時間短縮が期待できます。建設距離も短いので、費用面でも有利でしょう。一方、延岡など宮崎県北部を経由しませんので、新幹線の恩恵は県中部に限られます。
また、このルートでは、肥薩線が並行在来線になりそうです。肥薩線は災害による不通が続いていますが、熊本県が復旧への大枠を固めてJR九州と交渉をはじめています。このタイミングで、並行する新幹線の建設案が浮上した場合、熊本県にとってはありがたい話なのか、迷惑な話なのかは、部外者からは何ともわかりません。
鹿児島中央先行ルートの意味は?
鹿児島中央先行ルートは、日豊線ルートのうち、宮崎~鹿児島中央間を先行して整備し、まずは九州新幹線につなげようという案です。直線距離で約90キロと、新八代ルートより短く、県西の中心都市・都城を無理なく経由できることもメリットです。ただ、福岡市へ向かうには大回りで、時短効果は新八代ルートに劣後するでしょう。
宮崎県は、2017年度に日豊線高速化の調査も行っています。一部区間で新たな線路の建設を行い、振り子式の新型車両を導入した場合、宮崎~鹿児島間は41分短縮され約1時間30分になると試算しています。今回の調査は、それを踏まえた内容になりそうです。
鹿児島中央先行ルートは、鹿児島県にとっても姶良・伊佐地域に新幹線ができるという点で、悪い話ではなさそうです。鹿児島空港アクセスの改善につながるかもしれません。
県としての最適ルートは?
宮崎市にとっての最適ルートは新八代ルートでしょう。ただ、宮崎県全体でどのルートが優れているのかは、判断に迷うところです。それを解き明かすのが、調査の目的といえるかもしれません。
ところで、新八代ルートは、東九州新幹線の「福岡~大分~宮崎~鹿児島」の定義から外れるようにも見えます。これについては、「宮崎~鹿児島」を新八代経由で整備すると解釈すれば、「東九州新幹線」とみなすことは可能です。ただし、その場合、宮崎~鹿児島間の日豊線ルートは建設されません。
となると、落としどころとしては、小倉~宮崎を「日豊線ルート」、宮崎~鹿児島を「都城経由の新八代ルート」で建設するという形でしょうか。そのうえで、新八代ルートを先行着手し、日豊線ルートの建設促進運動も続けるという理屈にすれば、延岡市など県北部への言い訳も立ちますし、都城市も納得するでしょう。
これは、あくまで当サイトの勝手な妄想です。
実際の調査結果の公表は2024年度秋頃です。どういう結果が示されるか楽しみです。(鎌倉淳)