JR西日本「危ういローカル線」はどこか。社長が今後のあり方に踏み込む

予断は許さず

JR西日本の長谷川一明社長が、定例会見で「ローカル線の今後のあり方」について踏み込んだ発言をし、地元との協議を求める方針を示しました。存廃が問われそうな「危ういローカル線」はどこでしょうか。

広告

10年後の未来が1年で

JR西日本の長谷川社長は、2021年2月18日の記者会見で、新型コロナ感染症拡大後、「10年後の未来が1年で来た状況であり、一過性ではない行動変容が拡大しつつある」との認識を示し、「構造改革の加速とさらなるコスト削減が不可欠」と危機感を露わにしました。

そのうえで、ダイヤの一層の見直しを表明。1年後の2022年春のダイヤ改正はもちろん、「一部前倒しすることも視野に入れ検討」するとも述べ、異例の秋ダイヤ改正もありうることを明らかにしました。

そして、冒頭に記したローカル線について発言。「これまで内部補助によって成り立ってきたローカル線の今後のあり方について課題提起をスピードアップ」すると踏み込みました。地域の関係者と議論し、「持続可能な地域交通を実現していきたい」とも述べ、利用者が少ないローカル線について、廃止も含めてあり方の見直しを進めていく方向性を明確にしました。

キハ120芸備線

輸送密度の低いローカル線

JR西日本は、これまでにもローカル線の整理を進めてきました。国鉄民営化の1987年度以降、特定地方交通線や新幹線の並行在来線なども含め16線区を廃線にしています。近年では、2018年4月1日に三江線(三次~江津)を廃止。さらに、吉備線のLRT化などについて、地元と協議を進めています。

それでもJR西日本は、依然として多くの赤字ローカル線を抱えています。輸送密度が低い区間をピックアップすると、以下のようになります。

JR西日本・輸送密度の低い線区
路線名 区間 輸送密度
(人/日)
芸備線 東城~備後落合 11
芸備線 備中神代~東城 81
大糸線 南小谷~糸魚川 102
福塩線 府中~塩町 162
因美線 東津山~智頭 179
木次線 備後落合~宍道 190
芸備線 備後落合~三次 215
山陰線 益田~長門市 271
姫新線 中国勝山~新見 306
山陰線 長門市~小串・仙崎 351
越美北線 越前花堂~九頭竜湖 399
姫新線 上月~津山 413
小野田線 小野田~居能など 444
美祢線 厚狭~長門市 478

※輸送密度は2019年度。「データで見るJR西日本2020」より

広告

中国山地の路線が厳しく

ご覧の通り、数字が厳しいのは中国山地に張り巡らされた各線です。芸備線の東城~備後落合間の輸送密度「11」はJR全社で最低で、残っているのが不思議に思える数字です。この区間を含めて、芸備線は備中神代(新見)~三次間が、「あり方」の協議の対象になる可能性が高そうです。

芸備線と接続する路線も、輸送密度が低くなっています。府中で接続する福塩線(府中~塩町)は「162」、備後落合で接続する木次線(備後落合~宍道)は「190」、新見で接続する姫新線(中国勝山~新見)は「306」です。

これらの路線がすべて廃止された場合、東西方向は三次~新見~中国勝山、南北方向は府中~塩町~備後落合~宍道で鉄道網が失われてしまう可能性もあります。中国山地の中央部の鉄道が、ばっさり消えてなくなってしまうのです。

芸備線とは離れていますが、因美線の特急が走らない区間(東津山~智頭)も「179」と低く、存廃の議論となりそうな区間です。

岡山・鳥取県以西の中国山地区間で確実に残りそうなのは、特急が運行する因美線(智頭~鳥取)、伯備線(倉敷~米子)、山口線(新山口~益田)のほか、福塩線(福山~府中)、芸備線(広島~三次)、可部線(横川~あき亀山)くらいでしょうか。

JR西日本中国地方路線図
画像:「データで見るJR西日本2020」より

大糸線、越美北線も

そのほか、山陰線の益田~長門市~小串・仙崎間も、輸送密度が300前後で厳しい数字です。

北陸エリアでは、大糸線の糸魚川~南小谷が、輸送密度「102」ときわめて低いうえに、JR西日本の在来線ネットワークから孤立してしまっているため、危うく感じます。越美北線(越前花堂~九頭竜湖)も「399」と厳しい数字です。

最近のJR各社で、鉄道廃線が具体的に議論されるのは、輸送密度200~300を下回るくらいからなので、400~500あれば当面は安泰という見方もあるかもしれません。

しかし、気をつけなければならないのは、ここに記した数字は2019年度の輸送密度だということです。新型コロナが襲った2020年度には数字が激減しているのは間違いありません。今後の「ニューノーマル」の状態によっては、2019年度まで500程度の輸送密度だった路線が、協議を求められそうな輸送量に沈む可能性も十分あるでしょう。

長谷川社長は記者会見で「かなりの線区で問題を抱えている」とも述べていて、相当数の路線が協議対象になることを示唆しています。バス転換だけでなく、LRT化も検討するそうですが、LRT化は一定の輸送量がある都市近郊の路線に限られ、上記のローカル線は全てバス転換が議論の中心になりそうです。

新型コロナウイルスの収束後、どの程度、利用者が戻るかにもよるでしょうが、予断は許さない状況といえます。(鎌倉淳)

広告