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「専用道なきBRT」の意味を考える。美祢線方針、路線バスと違うのか

バス高速輸送システムとは

JR西日本の美祢線代替BRTについて、地元自治体は専用道の整備を見送る方針を決めました。費用対効果が低いためですが、「専用道なきBRT」は、ただの「路線バス」ともいえます。どういう意味があるのでしょうか。

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バス転換を受け入れ

JR美祢線は山口県の厚狭~長門市間46.0kmを結ぶローカル線です。2023年6月の豪雨被害で約80箇所が被災し、現在も復旧していません。

JR西日本は鉄道による復旧費を58億円と見積もり、高額なため、代替としてバス高速輸送システム(BRT)による復旧を提案しました。これを沿線自治体が受け入れ、美祢線沿線地域公共交通協議会を設置し、具体的な運行方法などを議論しています。

その第3回会合が2026年3月30日に開催され、BRT専用道の整備について検討結果が報告されました。

美祢線

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費用対効果が低く

専用道については、前回の会合で、費用対効果が小さく、慎重に検討すべきという認識が示された一方で、観光振興の視点で期待する意見も挙がっていました。

今回の会合では、具体例として、於福~長門湯本間13.8kmで専用道の整備を検討しました。それによると、専用道の整備費は100億円を超え、整備しても専用道経由便は一般道より所要時間が5分半ほど余計かかるとのことです。

また、日常利用者にとっては、所要時間の増加や停留所設置の制約など、利便性が低下する懸念があります。ただし、観光客を呼び込む一定の効果が得られる可能性もあります。

こうした検討を経て、得られる効果に対し多大なコストを要するとして、専用道の整備は見送られました。

美祢線BRT検討
画像:第3回美祢線沿線地域公共交通協議会資料

 
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「BRT」に該当しないのでは?

専用道は、渋滞の激しい都市部では時間短縮効果が高いものの、道路が空いている地方部では大きな効果は得られません。走行ルートが固定されますので、集落の中心部などに立ち寄りづらくなり、利便性を低下させる側面もあります。

その点で、美祢線BRTで専用道を整備する意味は小さく、今回の決定は妥当といえます。

とはいえ、専用道を走らないなら、たんなる「路線バス」にすぎません。「BRT」の意味である「バス高速輸送システム」に該当しないのではないか、という意見も出てきそうです。

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国交省のガイドライン

ここで国土交通省の「地域公共交通(BRT)等の導入に関するガイドライン」をみてみます。

ガイドラインでは、BRTについて「走行空間、車両、運行管理等に様々な工夫を施すことにより、速達性、定時性、輸送力について、従来のバスよりも高度な性能を発揮し、他の交通機関との接続性を高めるなど利用者に高い利便性を提供する次世代のバスシステム」と定義しています。

要するに「速達性」だけがポイントではなく、「定時性」「輸送力」「他の交通機関との接続性」などを含めて、「高い利便性」を提供する次世代バスということです。

これを「国交省基準のBRT」と呼びましょう。

BRTの定義
画像:国交省「道路空間を活用した地域公共交通(BRT)等の導入に関するガイドライン」

 
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美祢線BRTの場合

美祢線BRTの場合、PTPS(公共車両優先システム)を導入するほか、「快速ルート」も設定し、速達性を向上させます。

さらに、停留所の増加や、柔軟なルート設定、箱形待合所の設置、交通系ICカードやバスロケーションシステムの導入などにより、利便性を高める予定です。

また、駅を拠点とした観光地などへのアクセス向上も掲げており、他の交通機関との接続性にも配慮します。

こうした総合的な取り組みをみれば、美祢線の代替バスが、「国交省基準のBRT」に適合するのは確かでしょう。「国交省基準のBRT」は、たんなる速達バスを意味するのではなく、「高機能な次世代バスシステム」を意味しているからです。

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補助金に紐付いて

「国交省基準のBRT」は、補助金と紐付いています。高機能な次世代バスを走らせようとするならば、国交省の補助を受けることになりますので、国交省の用語を用いるのは当然といえます。

美祢線沿線地域公共交通協議会は、補助金を前提として議論していますので、専用道があろうがなかろうが、自治体としては「BRT」として扱うことになるのでしょう。

「JR基準のBRT」

国交省の定義とは別に、近年はJRローカル線の転換バスに「BRT」という用語が使われています。嚆矢となったのはJR東日本の気仙沼線・大船渡線BRTです。

気仙沼線・大船渡線BRTは、東日本大震災で被災したローカル線を、鉄道として復旧せずにバス転換し、「BRT」と名付けたものです。両線では線路跡に大規模な専用道を整備しましたので、まごうことなき「BRT」でした。

気仙沼・大船渡線BRTが画期的だったのは、被災したローカル鉄道を復旧せず廃止するにあたり、転換バス(BRT)をJR鉄道線のネットワークに組み込み、同一の運賃体系としたことです。車両はバスであっても、路線は鉄道と同等に扱う、ということです。

市販の時刻表ではJR鉄道路線のページに掲載し、路線図でも他の一般路線バスとは異なる扱いです。その差別化のキーワードとして「BRT」が用いられているわけです。

これは、「JR基準のBRT」といえます。「JR基準のBRT」は、被災して不通となった日田彦山線BRTにも取り入れられました。美祢線でも取り入れられれば、3例目となります。

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本来の言葉の意味とは違う

いずれにしろ、「BRT」という用語は、日本において、その言葉が本来持つ「バス高速輸送システム」という意味とは違う形で使われています。

実際、国交省では、国内BRTを「高い速達性」「高い輸送力」「高い速達性・輸送力」「観光需要等対応」の4類型に分けていて、速達性を絶対条件にしているわけではありません。

むしろ、速達性を備えるBRTのほうがまれで、ガイドライン(2022年)よれば、表定速度25km/h以上は気仙沼・大船渡線、白棚線、オレンジアロー連SANDA、京王電鉄バス(日野)、北九州BRTくらいです。

BRTの4類型
画像:国交省「道路空間を活用した地域公共交通(BRT)等の導入に関するガイドライン」

 
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路線バス不人気の裏返し

現実に運行しているBRTの実態をみれば、その多くが速度面で一般の「路線バス」と大差ありません。違いが目立つとすれば車両で、連接バスを「BRT」と呼んでいるだけと思われるケースもあります。

こうした扱いは、車両の導入時の補助金との兼ね合いで呼ばれているに過ぎない場合も多いようです。ただ、それだけではなく、政治や行政が新たな施策として導入する際に、「路線バス」という用語を避けるための方便という側面もありそうです。

「路線バス」に対する公共交通としての信頼感が低いため、刷新感を狙うなら違う用語が必要なのでしょう。見方を変えれば、「BRT」という用語の流行は、「路線バス」の不人気の裏返しではないか、ということです。(鎌倉淳)

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旅行総合研究所タビリス代表。旅行ブロガー。旅に関するテーマ全般を、事業者側ではなく旅行者側の視点で取材。著書に『鉄道未来年表』(河出書房新社)、『大人のための 青春18きっぷ 観光列車の旅』(河出書房新社)、『死ぬまでに一度は行きたい世界の遺跡』(洋泉社)など。雑誌寄稿多数。連載に「テツ旅、バス旅」(観光経済新聞)。テレビ東京「ローカル路線バス乗り継ぎの旅」ルート検証動画にも出演。