東九州新幹線「久大線ルート」の研究。意外にメリットが多そうで

博多~大分を直結

東九州新幹線について、大分県が「久大線ルート」の調査をおこなっていることを明らかにしました。日豊線ルートに比べ、どのようなメリットがあるのでしょうか。

広告

基本計画路線

東九州新幹線は、福岡市から大分市、宮崎市を経て鹿児島市に至る新幹線計画です。全国新幹線鉄道整備法における基本計画路線と位置づけられています。

詳細なルートは未定ですが、山陽新幹線から小倉で分岐して大分、宮崎に向かう「日豊線ルート」が、概略ルートとして捉えられてきました。2016年に公表された「東九州新幹線調査報告書」でも、小倉分岐を「基礎ルート」と位置づけています。

これに対し、大分県では、新たに「久大線ルート」も候補になりうると見て、日豊線ルートと比較・検討していることを明らかにしました。佐藤樹一郎知事が県議会で答弁したものです。

九州新幹線800系

広告

久留米か新鳥栖で分岐

「久大線ルート」の詳細は明らかではありませんが、文字通り、在来線の久大線に沿って、久留米と大分を結ぶとみられます。九州新幹線から久留米駅で分岐し、途中、日田、玖珠(豊後森)、由布院、別府を経て大分に至るのがベースになるでしょう。

ただ、線形的には、久留米より新鳥栖で分岐するほうが無理がなさそうです。新鳥栖駅は長崎方面への接続を想定して2面4線となっていますので、分岐駅としても適しています。そのため、新鳥栖からうきはを経て日田へと抜ける形が合理的に見えるので、当記事では「新鳥栖分岐案」を軸に検討していきます。

新鳥栖駅から、うきは駅、日田駅、豊後森駅、由布院駅、別府駅を経由して大分駅まで、駅間ごとに直線でつなぐと、合計約106kmです。下図のようになります。

東九州新幹線久大線ルート
GoogleMap

実際には、在来線の駅と駅を直線で結ぶことはできませんので、あくまでも参考ルートです。また、由布院から別府の区間は地温が高いので、トンネルを掘れるかも定かではありません。

広告

日豊線ルートは?

これに対し、従来案の「日豊線ルート」の場合はどういうルートでしょうか。

日豊線ルートは、山陽新幹線からの分岐位置が未決定です。

候補となりそうなのは小倉駅付近か、北九州トンネルの博多方坑口付近の2箇所です。当記事では、市街地での新線建設を避けると予想し、北九州トンネル分岐案を軸に検討します。

仮に、山陽新幹線と北九州トンネル博多方坑口付近で分岐した場合、日豊ルートは田川市をかすめて、中津市から宇佐市を経て大分市に向かうことになるでしょう。

小倉駅から、田川伊田駅、中津駅、宇佐駅、別府駅を経由して大分駅に至ると仮定した場合、駅間を直線でつなぐと、合計約118kmとなります。

東九州新幹線日豊線ルート
GoogleMap

こちらも、実際のルートはもう少しなめらかな曲線を描きますので、あくまでも上図は参考にとどまります。

細かい部分はさておき、おおざっぱな新線の建設距離でみると、久大線ルートは日豊線ルートと互角か、それより短いことになります。

広告

博多までの距離が短く

久大線ルートの最大のメリットは、博多から大分までの距離が短いことでしょう。

博多~新鳥栖間は約26kmなので、新鳥栖~大分間を約106kmと仮定すると、大分~福岡間は約132kmとなります。実際は、地形の制約でもう少し距離が伸びるでしょうから、約140kmと仮定しましょう。

これに対し、日豊ルートの場合、小倉~博多間が約56km、うち、小倉~分岐間が約14kmあります。小倉で乗り換える場合、スイッチバックのロスがあるので、分岐~大分間が118kmとなれば、大分~小倉~博多間が188km程度になってしまいます。久大線ルートより50km近くも長くなるのです。

山陽新幹線との分岐付近に、博多方面への短絡線を設ければ、この距離は短縮できます。大分~博多間が160km程度にはできそうですが、それでも久大線ルートより長いです。なにより、新路線の短絡線を余計に作るぶん、建設費がかかります。

広告

新大阪が遠く

一方、久大線ルートの最大のデメリットは、新大阪方面への距離が長くなることでしょう。

大分~小倉間の距離は、久大線ルートの博多経由なら200kmくらいになりそうです。日豊線ルートなら140km程度で済みそうなので、距離差は約60kmもあります。この距離だけ、大分~新大阪間が遠くなります。

最高速度260km/hの新幹線とはいえ、60kmを走るには15~20分くらいかかります。つまり、大分~新大阪で見た場合、久大線ルートは15~20分くらい、日豊線ルートより余計に所要時間がかかりそうです。

大分~新大阪3時間?

2016年の「東九州新幹線調査報告書」では、大分~小倉(北九州市)間を約31分と見積もっていますので、日豊線ルートでの大分~新大阪間の所要時間は2時間40分程度になります。

これに対し、久大線ルートが20分余計にかかるのであれば、3時間程度になってしまいます。

久大線ルートの博多~大分間は、九州新幹線の博多~熊本間とだいたい同じ距離です。新大阪~熊本間は「みずほ」で3時間程度かかっていますので、この点からも、新大阪~大分を博多経由で走れば、3時間程度という計算で合致します。

ただ、大分空港は大分市内から離れていますし、新大阪~大分間が3時間であれば、航空機に対して、十分「戦える」所要時間といえます。

久大線ルートの場合、博多~大分間は、乗り換えなしで40~50分程度です。高速バスに対して十分なアドバンテージになります。つまり、大分発着でみると、対大阪でも、対博多でも、久大線ルートは価値のある路線になるといえます。

広告

通過都市は?

途中で通過する都市はどうでしょうか。

久大線ルートの場合、大分県では、県西の拠点都市である日田市のほか、国際的な観光地である由布院を新幹線でつなぐことができます。観光的には悪くないルートといえます。

一方、20万人の人口を擁する中津都市圏に駅ができませんから、このエリアへのビジネスには今ひとつのルートです。久大線ルートは沿線住民の少なさが弱点でしょう。

福岡県としては、久大線ルートの場合、福岡県内に駅を作るとすればうきは市です。しかし、うきは市は人口3万人程度で、新幹線を必要とするほどの都市規模ではありません。

日豊線ルートの場合、田川市に駅が作れそうです。田川市は筑豊三都の一つであり、都市圏人口は10万人以上です。新幹線駅は筑豊地方振興に有効でしょう。

筑豊だけでなく、中津に駅ができれば、隣接する福岡県豊前市の利便性も上がります。つまり、福岡県としては、日豊線ルートのほうがメリットは多そうです。

広告

並行在来線問題

並行在来線問題についても考えてみます。

久大線ルートの場合、並行在来線は久大線となるでしょう。久大線のコロナ前の輸送密度(2018年度)は久留米~日田が3,437、日田~由布院が1,756、由布院~大分が2,294です。

並行在来線は第三セクターへ移管されますが、新幹線開業により、さらなる輸送密度の低下が想定されますので、一部区間では廃止も検討されるでしょう。一方、日豊線小倉~大分間は並行在来線に該当せず、JRとして存続となります。

日豊線ルートの場合は、日豊線小倉~大分間が並行在来線の候補です。しかし、JR九州は九州新幹線開業時に博多~熊本間で並行在来線の三セク移管をしておらず、それに倣うなら、日豊線小倉~大分間もJRのまま存続しそうです。

つまり、日豊線ルートの場合、小倉~大分間で並行在来線による移管・廃止は生じない可能性が高いでしょう。

広告

JR九州としては?

JR九州としては、久大線ルートの場合、博多~大分間で山陽新幹線を通らないで済み、ほぼ自社路線だけで完結するのが魅力でしょう。

既存の九州新幹線や、フル規格で作った場合の西九州新幹線とあわせて、「新大阪~博多~熊本・長崎・大分」と、運行系統をシンプルにしやすいのもメリットです。新大阪~大分間の列車に「新大阪~大分」「博多~大分」の旅客を両方載せられるので、乗車率も高くなるでしょう。

日豊線ルートの場合、「新大阪~小倉~大分」の山陽新幹線直通列車と、「小倉~大分」の東九州新幹線内列車で構成されそうです。大分から博多へ向かうには小倉乗り換えの手間が生じますので、高速バスに対して競争力が下がり、旅客を取り込みにくいという難点があります。

つまり、JR九州としては久大線ルートのほうが有り難いのではないか、と思われます。ただ、中津や宇佐などでは、日豊線の特急が減ったうえに新幹線が通らないとなると、需要を取りこぼしかねません。この点はデメリットです。

広告

福岡県は?

まとめてみると、大分県やJR九州にとって、久大線ルートはメリットがデメリットを上回るように感じられます。九州内の新幹線は、対大阪だけでなく、対博多の需要も非常に重要なので、その点で久大線ルートは優れています。難点は約20万人の人口を擁する中津都市圏を通らないことでしょう。

一方、福岡県にとっては、久大線ルートはメリットを見出しにくいでしょう。久大線ルートの福岡県区間は30km以上に達し、その区間は福岡県も建設費を負担することになります。巨額の財政負担をして、駅ができるのがうきは市だけとなると、福岡県のメリットが小さすぎる印象です。

日豊線ルートならば、筑豊地区に初の新幹線駅ができるため、福岡県が新幹線建設費を負担する大義名分が立ちます。

ただ、福岡市が九州の「首都」として拠点性を高めるという点では、久大線ルートのほうが効果が大きそうです。それを評価するのであれば、福岡県として受け入れられるかもしれません。

広告

拡張性でも有利

そもそもの新幹線基本計画に立ち返ると、東九州新幹線は「福岡市から大分市、宮崎市を経て鹿児島市に至る」と定められているので、北九州市(小倉)を通る必要はありません。その点でも、久大線ルートは基本計画の範囲内といえます。

将来的に計画されている四国~九州間(豊予海峡ルート)の新幹線計画が、万一実現する場合も、久大線ルートなら、新大阪から松山を経て博多まで直通列車を運行できるメリットがあります。つまり、将来的な拡張性でも優れています。山陽新幹線が被災したり、建て替えなどが生じた場合に、代替経路になり得るでしょう。

トータルでみて、久大線ルートは、悪くないアイデアに思えます。問題は費用対効果や採算性でしょう。大分県は約1990万円を投じて調査をおこなっていて、結果はこの秋にも発表されるとのこと。内容が楽しみです。(鎌倉淳)

広告
前の記事青春18きっぷ、1日でどこまで行ける?【2023年版】東京、名古屋、大阪発を全チェック!
次の記事『ローカル路線バス乗り継ぎの旅』公式ツアーが登場。当日目的地を聞かされて