熊本空港アクセス鉄道、肥後大津ルートで実現できるか。事業効果高く

三里木ルートにかえて

熊本空港アクセス鉄道について、肥後大津ルートが再浮上してきました。県の再検討で、事業効果が高いという試算がまとまったためです。

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熊本県が再検討

熊本空港アクセス鉄道は、JR豊肥線と熊本空港(阿蘇くまもと空港)を結ぶ鉄道新線計画です。蒲島郁夫熊本県知事が2018年12月の県議会本会議で建設を進めることを表明し、2019年2月にJR九州と基本合意。三里木駅から分岐するルートの整備効果が高いとし、検討を進めてきました。

しかし、台湾の半導体企業TSMCが原水駅近くに進出するという環境の変化もあり、原水駅や肥後大津駅から分岐するルートを含め、県が再検討していました。

その調査結果について、熊本県の蒲島郁夫知事は9月9日の県議会で、肥後大津ルートの事業効果が高いという試算結果を明らかにしました。

熊本空港アクセス鉄道ルート案
画像:熊本県
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新たな試算

新たに示された試算結果によりますと、概算事業費は肥後大津ルートが410億円と最も安くなりました。需要予測は、肥後大津ルートが1日4,900人で、三里木ルートの5,800人を下回りました。

30年間の費用便益分析(B/C)では、肥後大津ルートが1.03、三里木ルートが1.01、原水ルートが0.72でした。収支採算性については、国と自治体が3分の1ずつを補助する場合に、累積資金収支が黒字になるのは肥後大津ルートが36年、三里木ルートが34年となりました。原水ルートは40年以内に黒字になりません。

こうした調査の結果として、最も事業効果が高いのは肥後大津ルートであるという結論に至ったようです。ただし、知事は「さまざまな観点から総合的に検討する必要がある」と強調し、肥後大津ルートに最終決定したわけではないとしています。

熊本空港アクセス鉄道試算結果
画像:熊本県
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2018年度試算

ここで、過去の調査を振り返りましょう。3つのルートは2018年度にも検討されました。当時の試算は以下の通りです。

熊本空港鉄道延伸ルート比較
画像:大津町

事業費が安いのは肥後大津ルート、利用者が多いのは三里木ルートで、大枠では今と変わりません。

ただ、三里木ルートは途中に県民総合運動公園を経由し、運転免許センターも近くにあることから、空港利用者以外の鉄道利用が見込まれます。こうした優位性も強調され、当時の結論として、三里木ルートに決まりました。

「いったんたちどまる」

しかし、JR豊肥線は熊本~肥後大津間を運行の区切りとしています。そのため、ルート発表後、JR九州の青柳俊彦社長(当時)は、肥後大津ルートを希望すると表明。三里木ルートの場合、空港アクセス鉄道との直通運転を行わない方針を示しました。

2019年度には、熊本県が三里木ルートについて採算性などを含めた詳細な検討をおこないました。しかし、収支採算性で国の補助基準を超えられず、費用便益費については、空港アクセス鉄道の重要な便益である「定時性の確保」が計測できなかったことなどを理由に公表しませんでした。

こうしたことを背景に、蒲島知事は2020年に「いったんたちどまる」と表明。事業化の判断を先送りし、新たに検討委員会を立ち上げて再検討をしていました。

検討委が2021年6月に公表した試算では、三里木ルートについて、1日5,000人が利用すると予測。採算性については、累積資金収支が33年で黒字化すると見込んでいます。また、「定時性の確保」を便益に織り込んだB/Cも公表し、30年で1.04、50年で1.22となり「1」を超えるとしました。

そして、今回、改めて3ルートの調査結果を公表したわけです。

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大差ないけれど

今回の試算結果をみても、採算性に関しては過去の試算結果と大差ありません。肥後大津ルートに関しては、需要予測が2018年度試算より少なくなっていて、TSMC進出による影響を過大に織り込んでいるわけでもないようです。

数字を見るだけでは、特段に肥後大津ルートが優れているとまではいえません。県民総合運動公園を経由しないので、その利用者を見込めないのは厳しい点です。今回の試算をもって、にわかに三里木ルートをやめて肥後大津ルートにする理由が明確とはいえません。

しかし、肥後大津ルートにすれば、JR豊肥線の熊本発肥後大津行き列車をそのまま空港へ延伸することができます。JR九州と直通運転し熊本駅まで乗り入れることは、空港アクセス鉄道として数字以上に重要なインパクトでしょう。

費用便益費で「1」以上の数字が出たことで、事業化へのハードルを一つ超えた印象もあります。

採算性の基準を満たさず

採算性の基準となる累積資金収支については課題が残ります。現行の補助制度を利用するなら、「空港アクセス鉄道等整備事業費補助」(国18%、県18%)と「エコレールラインプロジェクト補助」(車両費、国1/3)の補助金を使えますが、これだけでは累積資金収支が黒字転換しません。

鉄道事業の採択基準は、「累積資金収支が開業40年以内に黒字化」ですので、現行補助金制度を用いた場合は、採算性の基準を満たさないことになります。

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補助金制度を変えられるか

そこで、熊本県は、総事業費の3分の1を国が補助することを求めています。県も同等の3分の1を補助をすれば、累積資金収支は40年以内に黒字転換し、採算性の基準を満たします。

国と県が3分の1ずつ負担するというスキームは公共事業ではよくありますし、鉄道事業では「都市鉄道利便増進事業費補助」や「地下高速鉄道整備事業費補助」が国3分の1の補助率です。したがって、非現実的な想定とまではいえません。

ただ、現時点ではこれら高い補助率の制度は使えないので、国に補助金の制度変更を働きかけていく必要があります。それには政治力が必要で、時間もかかるでしょう。

ということで、熊本空港アクセス鉄道は、今後、肥後大津ルートを軸に検討が進められそうです。実現すれば、熊本駅~熊本空港が直通約40分で結ばれ、旅行者は便利になるでしょう。ただし、着工にこぎ着けられるかは、まだ見通せません。(鎌倉淳)

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