北海道新幹線「2025年度倶知安先行開業」に意味はあるか。「東京からニセコ」は便利になるけれど

北海道新幹線の新函館以北の延伸について、北海道商工会議所連合会(道商連)が、新函館~倶知安間141.5kmについて、先行開業を働きかけていく方針を固めたそうです。10年後の2025年度の開業を目指し運動を開始します。

北海道新幹線の札幌延伸は「2030年度末」とされていますが、これを5年前倒しして倶知安まで先行開業することに、どんな意味があるのでしょうか。

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東京~倶知安が最速4時間30分台?

北海道新聞2016年1月8日付けによりますと、道商連の高向巌会頭が北海道新聞の取材に答え、「まずは3月の北海道新幹線開業を成功させ、その勢いで25年度に倶知安までの部分開業を目指す運動を起こそうと思っている」と述べたとのことです。

仮に新函館北斗~倶知安間が開業すれば、新幹線で約40分程度で結ばれます。東京~新函館北斗の標準的な所要時間が4時間20分程度ですから、東京~倶知安間は約5時間程度になるでしょう。

2016年3月開業時に、東京~新函館北斗間が最速約4時間2分とされていますので、東京~倶知安間では最速4時間30分台の列車が設定される可能性もあります。

倶知安駅

「リレー特急」は倶知安接続か長万部接続か

一方、倶知安~札幌は特急列車を走らせれば1時間30分程度で走れそうです。倶知安~札幌に「リレー特急」を運行したとして、東京~札幌は最速5時間50分台を実現できるかもしれません。

函館駅~札幌駅の移動については、新函館北斗と倶知安の乗り継ぎで計3時間弱になるでしょう。現在の「北斗」より30分程度の時短になるかもしれませんが、乗り換えが2回も生じるので便利とはいえません。

あるいは、長万部で接続し、「リレー特急」は長万部~東室蘭~札幌となる可能性もあります。その場合、新函館北斗~長万部が約30分、長万部~札幌が約2時間10分となりますが、札幌到達時間は倶知安乗り換えより少し遅くなるかもしれません。

ただ、倶知安駅に在来線との乗り換え設備を整備しても、札幌まで新幹線が延伸開業したら無用になります。長万部駅の場合、新幹線札幌開業後も室蘭方面への乗り換え需要は残りますので、乗り換え設備を整備したら恒久的に使えます。そのため、札幌へのリレー列車との乗り換えは長万部駅を整備するという判断になる可能性もあります。

函館駅~札幌駅の利便性を勘案し「北斗」を現状のまま函館~札幌間で運転継続して、長万部~札幌間で「リレー特急」の役割を担わせる、という形も考えられます。ただ、新幹線開業により函館~長万部~倶知安間が三セクに移管されるのならば、この形は難しいかもしれません。

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ニセコエリアのアクセス改善

さて、道商連はなぜこのような提案をしたのでしょうか。その理由はニセコエリアのアクセス改善にあるようです。ニセコが外国人スキー・スノボ客に人気なのはいまさら言うまでもありませんが、ネックとなっているのが交通機関。新千歳空港からバスで2時間半から3時間程度もかかるので、成田空港や羽田空港経由で外国から訪れるには不便です。

また、ニセコと東京を両方立ち寄りたい観光客にも不便ですし、日本人観光客にとっても、新千歳~ニセコの2時間半は大きなバリアです。

倶知安はニセコへの玄関口です。そのため、新幹線が倶知安まで暫定開業すれば、外国人観光客は、ニセコへの往路または復路に東京に立ち寄ることが容易になるでしょう。東京都内からのニセコへは飛行機でも5時間はかかりますので、新幹線が5時間なら時間的には互角。利便性では新幹線に軍配が上がります。首都圏からニセコへのアクセスが圧倒的に便利になるのは間違いなく、この点に限れば、北海道新幹線を倶知安まで先行開業させる意味はあります。

新函館北斗開業でも新幹線にニセコ観光客が?

日本経済新聞北海道版2016年1月7日付では、ニセコグラン・ヒラフの統括支配人である釜江良尚氏が「来道した外国人から、日本に来たからには新幹線に乗ってみたいという話をよく聞く。ニセコ滞在と首都圏の旅行を組み合わせる訪日客も多」いと述べています。

このインタビューは、北海道新幹線新函館開業に寄せたものなので、倶知安延伸には触れられていません。それでも、釜江氏は「彼らが函館から新幹線を利用する潜在需要はある」と述べています。新函館北斗までの開業であっても、新幹線を利用するニセコの観光客が現れる、という予測です。

ニセコの観光客に、新函館北斗駅を利用してでも北海道新幹線に乗るという需要があるのなら、倶知安まで延伸すればかなりの外国人観光客が新幹線に移ると予想されます。

どれだけの需要があるのか?

問題はその規模です。日本人も含めた倶知安町の宿泊客数は年間49万人、ニセコ町は34万人、あわせて83万人です。1日平均なら2,270人。首都圏から交通機関を使ってくる人をその半分と仮定しても1,000人あまり。「はやぶさ」2列車で十分運び切れてしまう数です。

往復新幹線を利用すると仮定しても、1日の利用者数は2,000人がせいぜいです。手堅く見積もれば1日数百人という試算になるでしょう。ただ、新幹線が開業すればニセコへの訪問客数が増えるでしょうし、予測されている北海道新幹線の利用者数の少なさを勘案すれば、無視できない数といえなくもありません。

5年のために無駄遣い?

そもそも論として、新函館北斗~札幌間の延伸にあと14年もかかるのが遅すぎます。そのため、部分的であっても前倒しで開業させることに意味を見いだすこともできるでしょう。ローカル線を作るのとは違い、札幌までの大動脈を部分的に先に作る話なので、無駄な投資と切り捨てられるものではありません。

一方で、部分開業することにより、たとえば折り返し線の設置や車庫の問題で余分な投資が必要になることが予想されます。たった5年の前倒しのために無駄遣いは避けたいところですし、その出費や準備のために札幌開業が遅れてしまうなら本末転倒です。

結局のところ、余分な出費が許容できる範囲の金額であり、札幌開業の時期に影響を与えないならば、倶知安先行開業に検討に値するといえそうです。みなさんはどうお考えでしょうか。

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