JR川口駅、400億円「中距離電車ホーム」は必要か。悲願実現へハードル高く

駅舎新築まで要求されて

JR川口駅の中距離電車に停車させる費用として、JR側が400億円を川口市に提示していたことが明らかになりました。ホーム新設費用としては巨額ですが、必要なのでしょうか。

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お金もスペースも用意して

川口市は人口60万人を誇る中核市です。その玄関口がJR川口駅ですが、停車するのは京浜東北線のみ。1日の平均乗車人員は約84,000人で、浦和駅の約95,000人には及ばないものの、京浜東北線単独停車駅としては大井町駅、大森駅に次ぐ水準で、埼玉県内ではトップです。

そのため、川口市は、東北線・高崎線(湘南新宿ライン、上野東京ライン)といった「中距離電車」の停車を長年にわたりJR東日本に求めてきました。1985年の駅周辺の都市計画決定の際には、駅西口に1700平米のスペースを確保して、中距離電車用のホーム増設に備えています。応分の費用負担も受け入れるとして、市長らが繰り返しJR東日本に要望してきました。お金もスペースも用意して、JRに「停めてくれ」と訴えてきたわけです。

しかし、中距離電車は遠近分離で「遠」を担当しており、「近」にあたる大宮以南の輸送は主目的ではありません。大宮以南では「快速」の役割も担っていますが、川口に停車すると所要時間が伸びてしまいます。赤羽との連続停車になることもあり、JRは要望を拒否してきました。

風向きが変わったのは2018年12月。市長らがJR副社長を訪れ要望したところ、「検討する」旨の回答がありました。その検討結果が、2019年11月にJRから市長らに伝えられています。このときの回答は、湘南新宿ラインは混雑が激しいので無理だが、上野東京ラインなら可能である、という内容だったそうです。建設費用の概算も示されたそうですが、その金額は非公表でした。

川口駅

駅舎建て替え費用も請求

金額が明らかになったのは、2021年4月7日。同日付朝日新聞が、400億円と報道しました。同紙によると、「内訳は、中距離電車停車用のホーム新設に115億円、駅舎の全面建て替えに245億円、関連工事やシステム改修に40億円」とのことです。川口市側は、総費用を200億円程度と見込んでいたとされていますので、想定の倍の請求に腰を抜かしたようです。

ポイントとなるのは245億円の駅舎建て替えです。同駅は1968年に改築されたもので、老朽化が進んでいます。近い将来の建て替えは不可避ですし、JRが自社の意志で建て替えるなら全額がJRの負担になります。その費用をホーム新設に絡めて、川口市に請求したわけです。

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私鉄に流れて減収?

さすがにそれは吹っかけすぎでは、と感じてしまいそうですが、朝日新聞によりますと、中距離電車が停車することで、京浜東北線との乗り換え客が生じるため、現駅舎では捌けなくなるので建て替えが必要になる、という理屈だそうです。さらに、停車によって中距離電車の所要時間が増えることで、私鉄に利用客が流れ減収になるという事情もあり、駅舎費用の全額負担を求めたということです。

上野東京ラインから京浜東北線に乗り換えるなら、川口駅でなく赤羽駅でいいと思いますが、赤羽駅の混雑を避けて川口駅を選ぶ人が増えると見ているのでしょうか。また、混雑と所要時間増を嫌う旅客が私鉄に流れるというのは、東北線方面の利用者の一部が、東武線を選ぶという意味なのでしょうか。

どちらの理由も、百億円単位のお金を請求するには弱いように感じられます。しかし、それでもこの金額を提示したのは、JRとしては、中電停車は乗り気ではないけれど、そろそろ駅舎建て替えをしなければならないので、費用を負担してくれるなら、上野東京ラインだけ停車させてあげてもいいよ、ということなのでしょう。川口市としては憤懣やるかたないと察しますが、実際のところ、JRとしてはその程度の話と判断していると思われます。

費用削減案も

前述したように、この金額が川口市に伝えられたのは2019年11月。それをずっと公表してこなかったのは、公表すれば慎重論がわき上がるため、何らかの対案を考えるまで時間を稼いでいたのかもしれません。

実際、過去の報道によれば、市側は費用削減案をJRに提示してきたそうです。たとえば、ラッシュ時の中電通過案。ラッシュ時に停まらなければ、駅舎の混雑は生じないので、駅舎建て替えが不要になる、という理屈です。実際、中距離電車のラッシュ時の混雑は激しいので、ラッシュ時間帯の通過は現実的にあり得る施策です。

もう一つの案が、中距離電車の専用改札口を作る案。つまり、京浜東北線と中電との乗り換えには改札外を経由しなければならない形にするわけです。乗り換えを不便にすることで、駅舎通過客を抑えるという方法です。

しかし、これらは「奇策」にすぎず、いずれもJR側に拒否されたようです。

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メリットがあるか

なんであれ、ボールは川口市にあります。同市の一般会計予算は約2100億円。400億円はその2割に相当し、一自治体が負担するには大きすぎます。

それだけの投資をする価値があるかは、中電停車でどの程度のメリットがあるかを考える必要があります。

現在、川口駅からの京浜東北線での直通の所要時間は、東京駅まで日中25分、ラッシュ時33分程度です。リニアの始発駅となる品川へは、日中36分、ラッシュ時45分程度です。上野東京ラインが停車すると、東京駅まで日中20分、ラッシュ時23分程度、品川へは日中29分、ラッシュ時33分程度になりそうです。

東京駅まで日中5分、ラッシュ時10分、品川駅まで日中7分、ラッシュ時12分くらい短縮されます。日中の京浜東北線は田端以南で快速運転をしているので、中電利用でも時間短縮効果は大きくありません。一方、ラッシュ時は京浜東北線の快速運転がありませんので、10分以上乗車時間が短縮します。混んでいる時間帯に乗車時間がこれだけ減ると、利用者は助かるでしょう。

千載一遇のチャンス

中電が停まれば、川口駅利用者が便利になることは確かですが、駅の1日乗車者数は8万人。川口市の人口の13%程度にすぎません。中電停車で恩恵を受ける人となるとさらに少ないでしょう。

湘南新宿ラインが停まるなら、山手線西側へのアクセスが便利になりますが、上野東京ラインだけではその効果も限定的です。つまり、直接的なメリットだけを考えれば、400億円の割にあう話とは思えません。

ただ、中電が停車することで、川口駅周辺の利便性が高まれば、駅周辺の開発が進み、地価が上がり、多少なりとも税収増につながるという効果はありそうです。それは多くの市民に恩恵をもたらします。

何よりも、JRが駅舎の建て替えをするタイミングは、数十年に一度だけです。JRが「カネさえ払えば停めてやる」と言っているのであれば、千載一遇のチャンスですので、川口市としてはこれを逃すわけにはいかないようにも思えます。ここで断れば、中電停車は永遠に実現しないでしょう。

「不要」か「必要」かといえば、「必要不可欠とはいえない」プロジェクト。しかし、40年来の悲願を実現できるチャンスを逃すわけにもいかない。新型コロナで再び風向きが変わりかねない状況もあり、市側がどう判断するのか、注目せずにはいられません。(鎌倉淳)

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