東急蒲田駅と京急蒲田駅を結ぶ「蒲蒲線」計画が動き出します。大田区と都が費用負担に合意し、2030年代の開業を目指すことが決まりました。
東急多摩川線を京急蒲田へ
蒲蒲線は、約800m離れている東急蒲田駅と京急蒲田駅を結んで、最終的には羽田空港への乗り入れを目指す新路線です。総距離は3.1kmです。
東急多摩川線が矢口渡駅と蒲田駅の間で地下に入り、京急蒲田駅を経て、京急空港線の大鳥居駅まで建設する構想です。大田区では、「新空港線」と呼んでいます。
東急多摩川線と京急空港線の直通運転も模索されていますが、東急多摩川線は狭軌(1067mm)、京急空港線は標準軌 (1435mm) と軌間が異なるため、現在の車両では乗り入れることはできません。
直通運転ができなければ大鳥居まで作る意味がありませんので、まずは「第1期事業」として矢口渡~京急蒲田間だけを建設し、東急線と京急線を京急蒲田で乗り換えられるようにします。京急蒲田~大鳥居間は「第2期事業」として先送りします。
負担割合で合意
新空港線(蒲蒲線)の矢口渡~京急蒲田間は、2016年に発表された国交省交通政策審議会答申で「事業化に向けて関係地方公共団体・鉄道事業者等において、費用負担のあり方等について合意形成を進めるべき」と記載されました。
これを受け、旗振り役の大田区が都などと協議を進めてきましたが、2022年6月6日に、大田区と都が、第1期事業の負担割合について合意しました。
合意内容によりますと、総事業費を約1360億円と見込み、国交省の都市鉄道利便増進事業費補助を活用します。この補助制度の場合、国と自治体、鉄道事業者が費用の3分の1ずつを負担するスキームとなり、このうち自治体分について、区が7割、都が3割を負担することが決まりました。
大田区は2022年度中に鉄道会社からも出資を受け、事業主体となる第三セクターを設立する予定で、2030年代の開業を目指す方針を明らかにしました。
東急蒲田駅はどう変わるか
新空港線(蒲蒲線)の整備内容を見てみましょう。
第1期整備では、東急多摩川線の矢口渡~東急蒲田間を地下化し、地下のまま京急蒲田まで路線を延伸する計画です。新空港線(多摩川線)の蒲田駅は、現駅直下の地下駅となります。
新空港線蒲田駅とJR蒲田駅の接続は、地下にコンコースを設けてJR駅に地下改札を作るのではなく、現改札階での乗り換えになるようです。
新空港線整備にあわせて、JR蒲田駅の南口改札を中央改札寄りに移設し、南口改札ラッチ内を拡張します。これにより混雑を緩和し、新たなバリアフリールートも設けます。
東急多摩川線とJR線の乗り換え所要時間は大幅に増え、5分20秒程度になります。その点で、蒲田駅乗り換え客は今より不便になりそうです。
東急プラザ建て替えも
東急の蒲田駅ビル(東急プラザ蒲田)がどうなるかは明確になっていませんが、2022年1月に示された「蒲田駅周辺地区基盤整備方針」によれば、「駅ビルの建て替えにより、駅前空間を充実させる」とあり、東急プラザを取り壊して、新たな駅ビルを建てる可能性が高そうです。
東急に「京急蒲田駅」?
東急蒲田駅から東が新線区間で、大田区役所地下を抜けて、区道を経て京急蒲田駅に至ります。大田区役所の地下には、蒲蒲線用のスペースが確保されています。
蒲蒲線の京急蒲田駅は、区道直下に設けます。現在の京急蒲田駅西口から100mあまり離れた位置に建設されることになり、京急線との乗り換え時間は約6分20秒を見込みます。
なお、新設される京急蒲田駅の正式名称がどうなるかは、興味深いところです。仮に「京急蒲田」となれば、東急線に「京急」を冠する駅名が誕生することになります。
需要予測と費用便益比
最新の需要予測によれば、蒲蒲線の利用者数は1日5.7万人を見込みます。内訳は、航空旅客が1.5万人、都市内旅客が4.2万人です。
費用便益比(B/C)は2.0、累積資金収支の黒字転換年は17年となりました。いずれも鉄道新線事業の基準を満たすのに十分な数字です。
運転計画は?
開業後の運転計画などは未定です。大田区のパンフレットには「東急東横線、東京メトロ副都心線、東武東上線、西武池袋線と相互直通運転が可能」と記載されていますが、多摩川線は最大でも4両編成分のホームしかないので、最低8両編成の東横線車両が多摩川線に入ることはできません。
新空港線の東急蒲田駅、京急蒲田駅は8両編成対応で建設されるでしょうから、多摩川線の他駅を通過すれば、東横線直通列車を運行することは可能です。
とはいえ、東横線の線路容量の問題もありますし、新空港線(蒲蒲線)が開通したとしても、東横線直通の列車が運行されるかは何ともいえません。
東急は前向き
東急電鉄は、2019年に発表した「長期経営構想」で、蒲蒲線を「インフラ強化によるネットワーク機能向上」と位置づけていて、前向きな姿勢です。
羽田空港アクセスの強化は、東急にとって価値あることですので、渋谷~京急蒲田間の直通列車が設定される可能性もあるでしょう。ただ、その場合も、多摩川~京急蒲田間の折り返し列車が主体になるのは間違いなさそうですが。
なんであれ、なかなか進展しなかった蒲蒲線計画が事業化へ向け前進したことは喜ばしいです。推進役の大田区の努力には、素直に敬意を表したいところです。(鎌倉淳)