関空特急「はるか」に大阪駅直結効果。JR特急利用者数ランキング2024年新春版

「こうのとり」には暗雲

JR各社が2023-2024年末年始の特急列車の利用状況を発表しました。新型コロナ禍からの回復が鮮明になる一方、能登半島地震と羽田空港衝突事故が発生し、一部の列車が影響を受けました。

JR在来線特急の利用者数の詳細をランキング形式で見ていきましょう。一部快速列車も掲載しました。

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年末年始の利用状況

JR各社は列車利用状況の統計を「年末年始」「ゴールデンウィーク」「お盆」の3期のみ発表します。このうち「2023-2024年末年始の利用状況」がこのほど発表されましたので、各社の情報をまとめて、「年末年始の在来線特急利用者数」をランキングにしてみました。

2023年12月28日~2024年1月4日の8日間の統計です。

はるか281系

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在来線特急利用者数ランキング2024年新春版

順位 列車名 区間 利用者数(万人) 前年度比 2018年度比
1 あずさ、かいじ、富士回遊 八王子~相模湖 24.3 112% 104%
2 ひたち、ときわ 我孫子~土浦 19.9 113% 101%
3 ひたち、ときわ 土浦~水戸 18.5 114% 102%
4 サンダーバード 京都~敦賀 16.8 100% 83%
5 リレーかもめ、みどり 鳥栖~江北 15.6 109% 80%
6 マリンライナー 児島~宇多津 11.7 116% 94%
7 ソニック 小倉~行橋 11.5 113% 85%
8 あずさ 甲府~上諏訪 11.2 109% 100%
9 成田エクスプレス 千葉~成田空港 11.0 125% 87%
10 しおかぜ、南風など 岡山~児島 8.9 104% 87%
11 ひたち、ときわ 水戸~高萩 8.5 112% 102%
12 はるか 日根野~関西空港 8.0 176% 107%
13 カムイ・ライラック・オホーツク・宗谷 札幌~岩見沢 7.3 106% 81%
14 踊り子、湘南 横浜~熱海 7.2 125% 87%
15 しらさぎ 米原~敦賀 6.8 99% 81%
16 北斗、すずらん 東室蘭~苫小牧 6.5 114% 89%
17 しおかぜ 児島~宇多津 5.9 108% 91%
18 しおかぜ、いしづち 多度津~伊予三島 5.6 106% 88%
19 しなの 名古屋~多治見 5.6 110% 96%
20 ひたち 高萩~いわき 5.1 111% 116%
21 くろしお 和歌山~箕島 4.6 110% 78%
22 ひだ 美濃太田~下呂 4.1 107% 91%
23 きのさき、まいづるなど 二条~亀岡 4.0 102% 72%
24 やくも 岡山~新見 3.9 109% 81%
25 しなの 松本~長野 3.7 106% 91%
26 おおぞら、とかち 南千歳~トマム 3.5 109% 90%
27 わかしお 蘇我~大網 3.0 107% 85%
28 南風、しまんと 多度津~阿波池田 2.7 99% 85%
29 こうのとり 大阪~三田 2.7 94% 62%
30 いなほ 新潟~村上 2.6 96% 73%
31 しおさい 千葉~佐倉 2.6 121% 101%
32 スーパーはくと 姫路~上郡 2.2 110% 89%
33 しらさぎ 名古屋~大垣 2.1 95% 81%
34 スーパーはくと 智頭~鳥取 1.9 111% 87%
35 宇和海 松山~宇和島 1.8 108% 74%
36 草津・四万 高崎~渋川 1.6 84% 70%
37 南風 児島~宇多津 1.6 100% 90%
38 日光、きぬがわ 大宮~栗橋 1.4 104%
39 うずしお 高松~徳島 1.3 101% 85%
40 ひたち、ときわ いわき~原ノ町 1.2 110%
41 南紀 松阪~紀伊長島 0.9 111% 88%
42 ひたち、ときわ 原ノ町~仙台 0.9 114%
42 ふじかわ 富士~富士宮 0.8 106% 87%
44 しまんと、あしずり 高知~窪川 0.8 97% 72%
45 ふじさん 御殿場~山北 0.7 116% 96%
46 スーパーいなば 智頭~鳥取 0.6 108% 79%
47 スーパーおき 新山口~益田 0.5 98% 77%
48 しらゆき 直江津~長岡 0.5 91% 63%
49 サンライズ出雲・瀬戸 静岡~浜松 0.5 101% 101%
51 さざなみ 蘇我~五井 0.4 103% 81%
52 つがる 弘前~青森 0.4 97% 74%
53 いなほ 酒田~秋田 0.3 100% 73%
54 リゾートしらかみ 秋田~青森 0.2 146% 93%
55 うずしお 児島~宇多津 0.1 98% 93%
56 伊那路 豊川~本長篠 0.1 99% 81%

※マリンライナー、リゾートしらかみは快速列車。
※ひたちのいわき~仙台間は2018年度の運行なし。
※日光・きぬがわの2018年度比は不明。

上記のランキングは、JR各社から広報発表された数字をまとめたものです。JR各社によって、区間選定の基準などがばらばらであることをご承知おきください。列車によっては複数区間でランキングに入っています。

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能登半島地震の影響

今回の年末年始期間の調査対象日は12月28日(木)~1月4日(木)の8日間。新型コロナの影響もなくなり、JR各線とも帰省客で賑わいました。ところが、1月1日に能登半島地震、2日に羽田空港衝突事故が起きたことで、一部の線区や列車が大きな影響を受けました。

まず、北陸方面の「サンダーバード」「しらさぎ」では、利用者が伸び悩みました。「サンダーバード」の場合、対前年度比では100%ですが、対2018年度比では83%にとどまっています。

地震の影響を受けなかったエリアでは対2018年度比100%を超えてる列車もあるだけに、北陸特急が受けた打撃の大きさがうかがえます。

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羽田空港事故の影響

羽田空港事故に関しては、新幹線と接続して東京への流動を構成する一部の在来線特急で、利用者増の影響があったようです。

たとえば、羽田~札幌の代替ルートの一部である室蘭線特急「北斗、すずらん」(東室蘭~苫小牧)は6.5万人の利用者数で、対前年度比114%と好調でした。

函館線特急「カムイ、ライラック」(札幌~岩見沢)が同106%、石勝線特急「おおぞら、とかち」が同109%なので、それらと比較しても数字が良く、欠航で乗れなかった航空客を取り込んだことがうかがえます。

ただ、目に見える程度の数字を残したのはそれくらいで、他にも「やくも」「ソニック」などが空路の代替ルートとして機能したはずですが、数字としては大きく現れていません。

空路の代替にならない列車には、ほとんど影響はありませんでした。新幹線と比べて在来線特急は走行距離が短いこともあり、空路で欠航が相次いでも、受け皿になりにくいのかもしれません。

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「あずさ」「ひたち」など好調

そうした状況で、在来線特急の利用者数首位は、いつものとおり、中央線特急「あずさ、かいじ、富士回遊」(八王子~相模湖)で、24万人を記録しました。対前年度比112%と好調です。

2位の常磐線特急「ひたち、ときわ」も20万人近くの利用者数で、同114%と堅調。在来線特急の両横綱ともいえるこれらの列車は、いずれも新型コロナ前の2018年度を上回りました。

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「はるか」に大阪駅直結効果

大きな伸びを見せたのは空港特急です。なかでも関空特急「はるか」は8万人の利用者数で、対前年度比176%という伸びをみせました。対2018年度比でも107%で、新型コロナ禍前を上回っています。

「成田エクスプレス」は11万人で、対前年度比125%と好調。ただ、対2018年度比では87%にとどまり、コロナ前を超えられていません。

関西空港と成田空港の利用状況を見てみると、関西空港の2023年11月の発着回数は14,394回で、2018年11月の16,338回の約88%。成田空港の2023年11月の発着回数は 18,465回で、2018年11月の20,821回の約88%。つまり、航空便の回復率は関空も成田もほぼ同じです。

そのなかで、「はるか」がコロナ前の実績を超えてきたのは、2023年3月に始まった大阪駅への乗り入れ効果でしょう。「はるか」が発着するうめきたホームは、JR神戸線・京都線などと離れているとはいえ、「大阪駅直通」により、人気が高まったことが推察されます。

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「草津」は伸び悩み

対前年度比で伸び悩んだのは、高崎線特急「草津・四万」。わずか84%にとどまっています。2023年3月ダイヤ改正で、651系7両からE257系5両へ減車のうえ、全車指定席化されたことが理由とみられます。

対2018年度では70%にとどまり、首都圏特急では最低水準です。減車、指定席化という制約は厳しいので、今後、増発がなければコロナ禍を超えるのは難しそうです。

「こうのとり」に暗雲

近畿圏では、福知山線特急「こうのとり」が、対前年度比94%と伸び悩みました。コロナ前の2018年度に比べると62%にとどまり、落ち込みから抜け出せていません。「こうのとり」は、新型コロナ禍後の回復が最も芳しくない列車のひとつです。

山陰線特急「きのさき、まいづる」も、対2018年度比72%と振るいません。総じて、北近畿方面の特急は伸び悩んでいます。

北近畿方面の特急は2021年3月に全車指定席化されました。手軽に乗れなくなったことで、利用に影響している可能性はあります。同時期に全車指定席となった紀勢線特急「くろしお」も、対2018年度比78%で、北近畿方面よりマシですが、やはり苦戦が続いています。

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高速道路の影響も?

ただ、全車指定席化はJR東日本で先行していますが、これまで利用者減少の傾向はみられていません。近畿圏だけ全車指定席化による利用者減が生じるのもおかしな気がします。

となると、全く別の理由かもしれません。考えられるのは、高速道路の整備です。

北近畿方面は北近畿豊岡道路が整備中で、2020年に但馬空港まで高速道路が延伸しました。豊岡市中心部まで約6kmの距離です。

南紀方面は近畿自動車道が2015年にすさみ南まで開通し、2021年には紀伊田辺まで4車線化が完了しています。大阪市内から紀伊田辺まで、道路の流れがスムーズになりました。

高速道路整備が進むと、在来線特急の利用者は減少が避けられません。近畿圏の在来線特急の回復の悪さは、高速道路利用のマイカーに旅客が流れてしまったことも、大きな要因といえそうです。

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「リレーかもめ」もいまひとつ

長崎線特急「リレーかもめ、みどり」なども、いまひとつ伸び悩んでいます。鳥栖~江北間の利用者は15.6万人で、対2018年度比で80%にとどまります。

この数字を見る限り、西九州新幹線開通により、博多~長崎間で利用者が増えたようには感じられません。所要時間短縮のメリットよりも、チケット価格上昇や乗り換えの手間といったデメリットが上回っていると、利用者の多くが判断している可能性もありそうです。(鎌倉淳)

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