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河合チームの検証
「ローカル路線バス乗り継ぎ対決旅 陣取り合戦」第6弾、次は河合チームの検証です。
1日目、不本意なジャンケンに敗れて度会町方面に向かいましたが、このルートも伊勢方面へのバス乗り継ぎではおなじみです。注連指口と栃原の間を歩けば伊勢市と松阪市を乗り継げることは、「バス旅」ファンには常識かも知れません。羽田も「Z」15弾で経験済みですし、河合チームとしては難しくなかったでしょう。
問題は松阪からの西進です。定番の天白乗り継ぎを逸した一行は、柚原から山本へ抜ける難ルートに挑みました。この他にルートはなかったのでしょうか。
松阪からの他ルートは?
松阪から他のルートとして、可能性があるとすれば、飯高方面に進むことでしょうか。
▽1日目(飯高ルート)
松阪駅前15:10→16:39森16:45→17:11林業センター→タクシー10.5km→中村垣内18:37→19:08ひよしのさとマルシェ19:15→19:46榛原駅
このように、林業センターにタクシーを呼べれば、1日目に一気に榛原まで到達できます。とはいえ、松阪駅からバスで1時間半の山奥にタクシーを呼べるかという問題もありますし、沿線自治体(陣)の少ないこのルートをあえて選択する優位性も乏しいので、選択する意味は小さそうです。
松阪から一志方面へ向かうルートも検討してみます。
▽1日目(一志ルート)
松阪駅前15:40→16:26嬉野一志→徒歩5km→川合高岡→タクシー10.3km→マックスバリュ川口17:59→18:58上多気交差点南→徒歩4.3km→伊勢奥津駅(☆津市)→徒歩5.7km→神末小屋
以前は久居からのバスが川合高岡を経由して家城まで走っていたのですが、現在は途中で打ち切りになっています。そのため、一志エリアに出てしまったら、奈良県方面にバスだけで向かうのは困難です。
上記の検討ルートでは、打開策として川合高岡駅で情報収集をして、伊勢奥津のチェックポイントを目指してタクシーでマックスバリュ川口を目指すと仮定しました。その場合、マックスバリュ川口から乗車するバスは、実際ルートで一行が山本で乗車したバスと同じで、伊勢奥津までに実際ルートに収斂します。
飯高ルート、一志ルートを検討してみましたが、実際ルートに優位性があるのは明らかで、河合チームは天白以外の最適ルートを選択したといえそうです。
1日目の大健闘
それにしても、河合チームは1日目によく歩きました。1日目の徒歩距離は机上の計算でで20kmに達します。タクシーを呼びづらい場所を抜けていきましたので、タクシーに乗りたくても乗れなかったという側面はありますが、それにしても大健闘でした。
とくに、伊勢奥津から神末小屋まで夜遅くに歩いてバス停位置と時刻表を確認し、翌朝の備えを盤石にした点は特筆すべきでしょう。
制作側としても、おそらくは伊勢奥津泊を想定していて、神末小屋まで歩くとは考えていなかったのではないでしょうか。
宇陀市の陣に寄っていたら
河合チームは、2日目朝も堅調でした。バスの折り返し時間を活用して御杖村の陣(御杖神社)を確保し、掛西口では短い待ち時間でしっかり曽爾村の陣(屏風岩)も奪いました。
しかし、その後榛原駅へ向かうバスの沿線にあった宇陀市の陣(一如庵)には気付かず、スルーしてしまいます。仮に気付いて下車していたらどうなっていたでしょうか。
一如庵の営業時間は午前11時からなので、降りたとしても開店前です。開店を待って食事をしたとして、以下のようにつながります。
▽2日目
掛西口09:11→09:48自明→徒歩すぐ→一如案(☆宇陀市)→徒歩3.1km→榛原駅→タクシー2.3km、940円→吉隠柳口12:16→12:52桜井駅北口→徒歩3.1km→箸墓古墳(☆桜井市)→徒歩0.6km→箸中13:33→13:53天理駅→徒歩2.4km→天理スタミナラーメン(★天理市)
このように、実際ルートより約1時間40分遅れで桜井駅に到着します。この場合、桜井市の陣を押さえた後、天理の陣(スタミナラーメン)に向かっても着くのは14時すぎ。太川チームは14時頃には着いていたので、後手を踏んでいたでしょう。
ただし、天理を奪われても、2日目14時の段階で太川5、河合7となっていて、河合チームの勝利は揺るがなかったとみられます。つまり、宇陀市の陣は、大勢に影響を及ぼしませんでした。
榛原駅の選択
河合チームで大きなポイントだったのは、榛原駅の選択です。2日目10時ごろに到着し、バス案内所で聞き込みました。案内所では針インターから天理に抜けるルートと、大宇陀方面から桜井に抜けるルートを提案されますが、いずれも乗り継ぎが悪いことも知らされます。
このとき、地図上に描かれているバス路線から、吉隠柳口ルートを羽田が見つけ出し、時刻表も聞き込んだうえで、タクシーを2kmほど急がせ乗り継ぎます。これにより、一気に奈良盆地に躍り出て、天理へ先手を打つことができました。
仮に、河合チームが吉隠柳口へのルートに気付かなかったらどうなっていたでしょうか。まずは、針インターへ向かう乗り継ぎをみてみます。
▽2日目
掛西口09:11→10:01榛原駅10:12→10:46針インター13:02→13:27国道櫟本
このルートは針インターで太川チームの実際ルートに合流します。針インター時点では、太川4、河合5で河合優勢ですが、天理の帰趨によっては互角の勝負に持ち込まれた可能性があるでしょう。
次に、大宇陀方面から桜井へ向かうルートです。
▽2日目
掛西口09:11→10:01榛原駅10:10→10:20野依14:23→14:44桜井駅南口→徒歩3.1km→箸墓古墳(☆桜井市)→徒歩0.6km→箸中16:13→16:40天理駅17:02→17:47県庁前
榛原から大宇陀方面に向かった場合、途中の野依で乗り換えます。ただ、野依での待ち時間が長く、桜井市の陣は確保できるものの、天理の陣を太川チームに奪われます。全体に時間的余裕のない乗り継ぎとなり、奈良市の陣も失えば、河合チームは合計6陣にとどまり敗退していたでしょう。
つまり、榛原からバスだけで乗り継ぐ場合、針へ向かっても大宇陀へ向かってもその後の接続が悪く、敗退する可能性がありました。したがって、タクシーで吉隠柳口へ抜けるルートが最適解でしょう。
吉隠柳口ルートを見つけ出したことで、河合チームの勝利は決定的となったといえます。羽田の的確な聞き込みが、勝利を呼び寄せたといえそうです。
モデルルートを考える
今回のお題である三重・奈良県境越えには、太川チームがたどった「北ルート」と、河合チームがたどった「南ルート」がありました。「陣取り」にはそれぞれのチームに競争相手がいるので、シンプルな「最適解」を提示するのは難しいのですが、現在わかっているチェックポイントだけの情報で、奈良盆地を目指す「モデルルート」を考えてみることにします。
【北モデルルート1】
▽1日目
伊勢市駅08:30→09:01田丸城跡→徒歩0.5km→田丸神社(☆玉城町)→タクシー8km→多気クリスタルタウン前10:40→10:49射和→長新(☆多気町)→相可一区11:50→12:12松阪駅前→ビーフクラブノエル(☆松阪市)→JR松阪駅12:50→13:22天白13:29→13:54三重会館前14:37→15:29平木→タクシー5km→15:45汁付16:10→16:57上野市駅→城下町お菓子街道(☆伊賀市)→上野市駅18:20→18:48国道山添
▽2日目
国道山添08:13→08:42針インター08:43→09:08国道櫟本→徒歩0.2km→天理スタミナラーメン本店(☆天理市)
「北モデルルート1」は玉城町から多気町という序盤にタクシー代をつぎ込むのがキモで、それにより1日目に国道山添に宿泊できれば、2日目は早い時間に天理に到達できます。
【北モデルルート2】
▽1日目
伊勢市駅08:30→09:01田丸城跡→徒歩0.5km→田丸神社(☆玉城町)→徒歩+タクシー、計8km→11:35多気クリスタルタウン前12:07→12:16射和→長新(☆多気町)→相可一区12:50→13:12松阪駅前→ビーフクラブノエル(☆松阪市)→JR松阪駅14:10→14:42天白14:47→15:19三重会館前15:37→16:29平木→タクシー5km→16:45汁付17:13→18:00上野市駅→城下町お菓子街道(☆伊賀市)→上野市駅19:39→20:18名張駅前
▽2日目
名張駅東口07:32→07:54智護神社前→徒歩6.1km→室生地域事務所09:09→09:46榛原駅→タクシー2.3km→吉隠柳口10:37→11:13桜井駅北口
「北モデルルート2」は、1日目は実際ルートとほぼ同じで、名張まで足を伸ばします。2日目は榛原から吉隠柳口ルートを通ると、河合チームがたどった実際ルートに収斂します。
【南モデルルート1】
▽1日目
伊勢市駅08:45→09:10度会町役場前09:45→10:06上田口→徒歩1km→喜多製茶(☆度会町)→徒歩2.2km→hinata(☆大台町)→徒歩1.1km→11:44栃原駅口12:47→13:38松阪駅前14:42→15:21柚原→徒歩6.9km→山本18:38→18:58上多気交差点南→徒歩4.3km→伊勢奥津駅(☆津市)
▽2日目
伊勢奥津駅→タクシー5.7km→神末小屋07:55→08:06神末中村→御杖神社(☆御杖村)→神末中村08:16→09:00掛西口→屏風岩(☆曽爾村)→掛西口09:11→10:01榛原駅→タクシー2.3km→吉隠柳口10:37→11:13桜井駅北口→徒歩3.1km→箸墓古墳(☆桜井市)→徒歩0.6km→箸中12:14→12:34天理駅→徒歩2.4km→天理スタミナラーメン(☆天理市)
【南モデルルート2】
▽1日目
「南モデルルート1」と同じ。
▽2日目
伊勢奥津駅→タクシー5.7km→神末小屋07:55→08:06神末中村→御杖神社(☆御杖村)→神末中村08:16→09:00掛西口→屏風岩(☆曽爾村)→掛西口09:11→09:48自明→一如案(☆宇陀市)→徒歩3.1km→榛原駅→タクシー2.3km→吉隠柳口12:16→12:52桜井駅北口
南ルートのモデルルートは、1日目は最後に無理せず伊勢奥津泊としていますが、そのほかは河合チームの実際ルートと同じです。
両チームがモデルルート1を選択した場合、北ルートが4陣を確保して天理の陣に9時すぎ着(ただし天理の陣の開店は11時)。南ルートが5陣を確保して天理の陣に13時頃着です。
両チームがモデルルート2を選択した場合、北ルートが4陣を獲得して桜井駅に11時すぎに到着します(名張の陣は取れないと仮定)。南ルートは5陣を獲得して桜井駅に13時頃に到着します。
ここに示したモデルルートからは、北ルートのほうが奈良盆地への到着が早く、その後の陣取りでも先手を打てそうです。そのかわり、松阪から奈良盆地までの間で、獲得できそうな陣が少なくなっています。
一方、南ルートは奈良盆地への到着が遅くなる分、途中のチェックポイントが取りやすくなっています。途中の陣取りが、早いルートはしづらく、遅いルートはしやすく配置されていたわけです。ゲームバランスを整えていたのでしょう。
ところが、現実には、北ルートを選択した太川チームが、奈良盆地への先手を許す事態に陥りました。となると、チェックポイントが取りやすく配置された南ルートを選択した河合チームが圧勝となるのは必然で、それが9対5という結果に表れたと言えそうです。
敗因と勝因
今回は山間部を横断するルートが特徴で、バスが途切れる区間をタクシーでどうつなぐかがポイントと思われました。しかし、現実には、タクシーは山間部ではあまり効果を発揮しませんでした。タクシーの車庫から離れているため、呼んでもすぐに来てくれるとは限らないからです。太川チーム敗退の遠因も、山間部に備えてタクシー代を温存したものの、その使いどころを逸してしまった点にあるように思えます。
直接的な太川チームの敗因は、1日目に上野市に泊まり、2日目朝に国道山添を目指してしまったことでしょう。上野市は観光地で宿泊施設が充実しているため泊まるのはよいとして、せめて2日目朝に名張に向かって、曽爾または室生ルートをたどっていれば互角の戦いに持ち込めたのに、と悔やまれます。
対する河合チームは、伊勢市駅、松阪駅で後手を踏んだにもかかわらず、的確なルート取りで陣を増やしました。タクシーを呼べない山間部では、壮健な男3人ならではの脚力を活かしたパワープレイが効果的でした。
とはいえ、榛原駅で針ルートを選択すれば、太川チームと互角に持ち込まれた可能性もありました。そこで吉隠柳口ルートをしっかり発見できたことが、最終的な勝因といえそうです。
河合チームが的確なルート取りを実現できたのは、参謀役の羽田が地図読みと聞き込みで能力を発揮したことが理由でしょう。パックンをゲストに迎えた第2弾のときもそうでしたが、名参謀が参加した場合、リーダーがそれを尊重するためか、河合チームは強いように感じられます。
見方を換えると、今回の河合チームのリーダーは実質的に羽田でした。となると、「ローカル路線バス乗り継ぎの旅」の新旧対決は、羽田に軍配が上がったと言えるでしょう。この勝利で弾みをつけて、「Z」での活躍も楽しみにしたいところです。(鎌倉淳)