北海道石狩市が、導入を検討している都市型ロープウェイに関する調査報告書を公表しました。3つのルート案のうち、石狩新港と麻生駅を結ぶルートが最有力となりそうです。
軌道系交通機関の導入調査
北海道石狩市は、札幌市の北部に位置する日本海に面した都市です。札幌市に隣接しているものの、鉄道が通っておらず、軌道系交通機関の導入が永年の悲願でした。
過去にもさまざまな検討をおこなってきましたが、2023年度から新たな軌道系交通機関の導入の検討を開始。その導入可能性調査の報告書が、このほど明らかになりました。
ルート案は、「手稲ルート」(A案)、「麻生ルート」(B案)、「栄町ルート」(C案)の3つがあります。それぞれ、石狩新港を起点に、JR手稲駅、地下鉄南北線麻生駅、地下鉄東豊線栄町駅を結ぶ形です。
5つのシステムを調査
報告書では、導入可能性のある交通システムとして、普通鉄道、モノレール、LRT、都市型自走式ロープウェイ、BRT(BHLS)の5つを候補に挙げました。
そのうえで、都市型自走式ロープウェイに費用、実装難易度、環境負荷、定時性の4項目で高評価をつけ、総合的にもっとも高い評価を与えています。
都市型自走式ロープウェイとは、Zip Infrastructure社が開発中のZipparという車種です。既存のロープウェイと違って曲線敷設が可能な点が特徴ですが、これまでに導入された事例はありません。
この調査自体がZippar導入を念頭に置いたものなので、それに高評価が付けられるのは当然といえます。導入する前に、他のシステムとの比較もしたという、いわばアリバイ調査です。
麻生ルートは1日約1万人
ということで、調査の本題はここからです。
報告書によると、3つのルート案の総延長はいずれも12~13km程度で大差ありません。途中駅は手稲ルート9駅、麻生ルートと手稲ルートが12駅です。駅位置の詳細は明らかではありません。
想定利用者数(平日乗車人員)は、手稲ルートが2,704人、麻生ルートが9,986人、栄町ルートが1,960人です。年間乗車人員は、手稲ルート76万人、麻生ルート305万人、栄町ルートが58万人となります。
麻生ルートは平日に約1万人、年間平均で1日約8,400人の利用者を見込む計算で、他ルートに比べて圧倒的な数字となりました。
概算事業費は266億円
概算事業費は、手稲ルート232億円、麻生ルート266億円、栄町ルート252億円です。利用者数が多く見込める麻生ルートでも概算費用はそう高くありません。
乗車人員に大差がついた一方で、事業費の差が小さいと、ルート選定が論争になる可能性は低いでしょう。すなわち、石狩市の都市型ロープウェイは、麻生ルートが最有力というか、決定的といってよさそうです。
途中駅は1kmごと
まとめると、石狩市の軌道系交通機関は、Zipparを石狩新港~麻生間で導入する、という案で進められそうです。
麻生ルートの詳細は明らかではありません。公表された資料によると、中間12駅で、半径100m以下の曲線数が11か所となっています。緩やかなカーブはなく、交差点で曲がるだけのルートを想定しているようです。
石狩新港と麻生駅を結ぶだけなら、もっと曲線を減らすことはできます。
直線的に敷設可能なところに、あえて11か所も急曲線を入れたということは、おそらくは道路の導入空間を勘案しながら、利用者を多く見込める経路を選んだのでしょう。駅間距離も短く、約1kmごとに駅を設けて、こまめに沿線住民を拾っていく形を想定しているようです。
報告書では、検討の視点として「札幌市との接続性の確保」「市内の移動需要の喚起」「交通結節点との一体的な整備」「新港地域の交通利便性向上による就業環境向上」などを挙げていますので、こうした需要に対応できるルートになるのでしょう。
下図は、石狩新港から麻生駅までのルートをおおざっぱに当て込んだものです。これで12.5kmです。なお、この図は実際の想定ルートとはおそらく異なります。
導入空間
導入空間については、広い4車線道路であれば中央分離帯に設置します。中央分離帯がない4車線道路や2車線道路では道路構造の変更や、場合によっては用地買収が必要になります。
また、中央分離帯があっても、分離帯部分に下水管が敷設されている場合もあります。その場合は、支障物を移設しなければなりません。また、冬季の堆雪幅を確保する方策も必要です。
採算性は?
事業採算性については、公共事業として整備した場合、いずれのルートについても、単独で投資回収までを求めることは難しく、公共負担が必要となります。
その金額は、40年間で手稲ルート501億円、麻生ルート248億円、栄町ルート543億円です。最も公共負担が低いのは麻生ルートとなり、この点からも優位性が高いといえます。
採算性を改善させるためのスキームも検討しており、上下分離の三セク運営かPFI(BT+コンセッション)方式に優位性があるとしています。
三セク上下分離か、PFI形式なら、40年間で10億円程度の公共負担ですむ、という試算です。
なお、費用便益比ついては記述が見当たりませんでした。
市内に試験線建設の可能性も
ロープウェイの経路は石狩市内で完結せず、半分程度は札幌市にかかります。そのため、実現には札幌市の協力が不可欠です。また、導入が想定されるZipparは、過去に導入事例がありません。
こうしたことから、報告書では、今後の検討課題として、北海道や札幌市との協議、Zipparの試験施工などを挙げています。これに従うなら、今後、石狩市内でZipparの試験線が部分的に建設される可能性もありそうです。(鎌倉淳)
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