北海道石狩市が、新たな軌道系交通として都市型ロープウェイの導入について調査します。札幌市方面への軌道系交通機関の整備は同市の悲願ですが、今度は実現するのでしょうか。
「先導的官民連携支援事業」
北海道石狩市は、札幌市の北部に位置する日本海に面した都市で、人口は約5万8000人です。
札幌市に隣接するエリアで都市化が進んでいますが、公共交通機関はバスとタクシーのみ。軌道系交通機関の導入が長年の懸案です。過去に鉄道やモノレールの導入が調査されましたが、採算性の壁が高く実現していません。
そこで、石狩市は、新たな軌道系交通機関の可能性として、都市型ロープウェイの導入を検討します。国土交通省の「先導的官民連携支援事業」に採択され、補助金1394万円を得たことから、今年度から調査に着手します。
都市型ロープウェイは、日本では横浜市の「ヨコハマ・エア・キャビン」で一例があるのみです。
再生エネルギーの送配電も
石狩市の新ロープウェイ構想の特徴は、石狩湾新港でつくる再生可能エネルギーを電源に活用する点です。
同港地域は再生可能エネルギー一大集積地として知られ、木質バイオマス発電所が営業運転を開始し、沖合で大規模な洋上風力発電の計画が立てられています。洋上風力の余剰電力で水素を製造する計画もあります。
新ロープウェイは、こうした再エネを電源として活用するだけでなく、付帯事業として送配電も検討します。
ロープウェイの旅客輸送事業とあわせて、送配電を事業とすることで、採算性を高める狙いのようです。
風雪に強く
ロープウェイは、鉄塔用地を確保できれば架設できるので、導入コストが鉄道やモノレールなどに比べて低いのがメリットです。各地のスキー場で導入されていることからわかるとおり、雪に強く、除雪の必要性がほとんどありません。
風に弱いイメージがありますが、複線式にすれば風に強く、谷川岳や箱根のロープウェイなどで導入されています。谷川岳ロープウェイの場合、運転休止風速は30m/sです。
こうした視点でみれば、風雪の激しい北海道に適した交通機関といえそうです。
石狩新港を起点に
具体的なルートなどは未定ですが、計画の内容から、石狩新港を起点とするのは間違いなさそうです。現時点では石狩市独自の構想ですが、公共交通機関として整備するのであれば、当然、札幌市内を目指すことになります。
理想は、札幌市営地下鉄南北線の終点である麻生駅や、同東豊線の栄町とつなぐことでしょう。石狩市で過去に計画されたモノレール計画も発着地は麻生または栄町でした。導入空間を考えると、幅の広い屯田通り(道道128号線)をたどれる栄町接着のほうが、やや建設しやすそうです。
石狩湾新港~栄町間は、直線距離で約10kmあります。現在、国内最長のロープウェイは新潟県の苗場・かぐら両スキー場を結ぶ「ドラゴンドラ」で5,481mですから、新ロープウェイが同区間で実現すれば、ぶっちぎりで日本最長となります。
長距離ロープウェイという難題
これだけの距離を結ぶ都市型ロープウェイは世界的にも珍しく、思いつくのは、約30kmの都市型索道網を形成するボリビアのラパスくらいです。
裏を返せば、そんな長距離ロープウェイを石狩市で本当に実現できるのか、という疑念も浮かびます。
さらに、ロープウェイはカーブを設定しづらいという課題もあります。カーブに対応したスカイレールのようなシステムもありますが、高コストです。一方で、10kmに及ぶロープウェイを直線だけで架設するのは非現実的です。
「Zippar」が候補か
そこで候補となりそうなのが、Zip Infrastructureというベンチャー企業が開発している自走式ロープウェイ「Zippar」でしょうか。ロープと車両を独立させ、直線部はロープ上を、カーブや分岐の部分ではレール上を走行する方式で、柔軟にルートを設定できるという特徴があります。
まだ実用化に至っていないシステムですが、2025年の大阪万博での運用開始を目指しています。建設費は1kmあたり10億円とされていて、10kmなら100億円程度で建設できる計算です。
駅施設など、実際はもう少しかかるとしても、過去の石狩市の鉄道計画が500億円程度と見積もられ頓挫したことを考えれば、魅力的な低コストです。
新たなロープウェイシステムを導入してコストを下げ、カーブも曲がれるようにし、送配電事業を付帯して採算性を高めるとなれば、かなり野心的な計画といえます。
短距離索道
一方で、既存のロープウェイシステムを導入して、石狩湾新港周辺で短距離の直線索道を設置するという可能性もあります。
その場合は、通勤・通学などにはあまり対応できませんので、公共交通機関というよりは、観光施設の性格が強くなるでしょう。「ヨコハマ・エア・キャビン」に近い形です。
ただ、横浜と違って他に強力な観光資源のない石狩市で、観光ロープウェイが事業として成立するのかは疑問です。また、送配電を付帯事業に据えるのであれば、1~2kmの短距離では意味がないような気もします。
国交省も評価
石狩市は、調査を1年間かけて実施し、その結果によっては、実現に向け事業参画する企業を募る方針です。
補助金を交付する国交省は、調査について、「全国初の小規模な地方公共団体での都市型ロープウェイ事業」と位置づけ、「再生可能エネルギーの地産地消と連携した付帯事業を検討する点」などについて「先導的」としました。
また「他の地方公共団体への汎用性」についても評価しています。国交省として、低コストの都市型ロープウェイを、新たな公共交通機関として広めたいという思惑があるのかもしれません。
最終的にどのような調査結果となり、石狩市が長年の「夢」である軌道系交通機関の導入に向け動き出せるのか、注目せずにはいられません。(鎌倉淳)