北陸新幹線新大阪延伸、全詳細と懸念点。事業費5兆円、「着工5条件」は骨抜きに?

京都駅南北ルートが有力か

国土交通省などが、北陸新幹線敦賀~新大阪間延伸のルート詳細を明らかにしました。建設費は5兆円規模に膨らむ可能性があることも示されましたが、実現できるのでしょうか。内容を読み解いていきましょう。

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敦賀~新大阪間のルート案を公表

国土交通省鉄道局と鉄道・運輸機構は、「北陸新幹線(敦賀・新大阪間)詳細駅位置・ルート図(案)」と題する資料を公表しました。2024年8月7日の与党プロジェクトチームの会合で示したものです。

北陸新幹線の敦賀~新大阪間の延伸については、これまで概略ルートしか示されていませんでした。今回、初めて詳細ルートが公表されたことになります。

公表された詳細ルートは、敦賀駅から東小浜駅付近、京都駅、松井山手駅付近に駅を設け、新大阪駅に至るというもの。途中、京都府の久御山町付近に車両基地を設けます。

京都市内へは、国道162号線に沿う形で右京区から市街地に入ります。京都駅の接着方法は決まっておらず、3つの案が提示されました。

北陸新幹線新大阪延伸ルート
画像:国交省鉄道局「北陸新幹線(敦賀・新大阪間)詳細駅位置・ルート図(案)」

 
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京都駅東西ルート案

東西案は京都駅西側からアプローチして京都駅に接着後、大きく東に膨らんで山科盆地をかすめ、久御山に至ります。

京都駅では地下鉄烏丸線などの既設地下構造物を避けるため、駅が約50mと深くなります。東海道新幹線京都駅の基礎に近い位置で、地下鉄烏丸線を下から支えながら施工しなければならず、工事の難易度は高いです。

こうしたことから、京都駅の工期は28年程度と長くなります。工事期間中、長期にわたり八条通の交通規制が必要です。20年以上も八条通で渋滞が続くとなると、市民からの支持という点でも難易度は高いかもしれません。

ただし、京都駅在来線への乗り換え所要時間は11分と、3案で最も短くなります。総延長は146kmで、概算事業費は3.7兆円です。

北陸新幹線京都駅東西ルート案
画像:国交省鉄道局「北陸新幹線(敦賀・新大阪間)詳細駅位置・ルート図(案)」

 

京都駅南北ルート案

南北案は、三条通から堀川通に沿う形で京都駅と交差し、いったん桂川の西まで迂回した後、久御山に至ります。

京都駅では、在来線、新幹線の直下を抜けた南側に駅を作ります。位置としてはワコール新京都ビルやイオンモール付近の地下を想定しているようで、駅設置には「大型物件の用地協議・取得が必要」としています。深さは20mほどで、東西案に比べれば浅いです。

JR在来線、新幹線とは離れた位置に駅を作るため、工事の難易度は低いようで、京都駅の工期は20年程度と、3案ではもっとも短いです。在来線への乗り換え所要時間は13分。総延長は144kmで、概算事業費は3.9兆円です。

北陸新幹線京都駅南北ルート案
画像:国交省鉄道局「北陸新幹線(敦賀・新大阪間)詳細駅位置・ルート図(案)」

 

桂川駅案

桂川案は京都市中心部には入らず、嵐山付近から桂川駅に至り、なだらかに東南に向かい、久御山に至ります。

桂川駅付近にある、陸上自衛隊桂駐屯地の地下に駅を設けるようです。付近の地下には道路トンネルや雨水トンネルがあり、それを避けるため、駅部は深さ50mに達します。JR京都線に近いため、工事の難易度は高く、26年程度の工期を要します。

桂川駅での在来線乗り換えは10分程度、さらに京都駅までは在来線で9分程度かかります。阪急洛西口駅への乗り換えも15分程度あれば可能とみられますが、資料では触れられていません。総延長は139kmで、概算事業費は3.4兆円です。

北陸新幹線京都駅桂川ルート案
画像:国交省鉄道局「北陸新幹線(敦賀・新大阪間)詳細駅位置・ルート図(案)」

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最有力は南北案か

3つの案を比較すると、費用は最もかかるものの工期が短いの南北案と、費用がもっとも安い桂川案の比較になるでしょう。桂川案は線形が良く総延長も短いため、新大阪~敦賀間の所要時間も最短となります。

ただ、桂川案は、京都駅まで乗り換えの手間がかかる上、地下50メートルで深すぎるとなれば、実用面ではやや不利な印象です。

長期的に見れば、費用が高くても利便性の高い南北案が優れているようみえますので、最有力は南北案になるでしょう。

北陸新幹線新大阪延伸ルート京都市内
画像:国交省鉄道局「北陸新幹線(敦賀・新大阪間)詳細駅位置・ルート図(案)」

 

地下水は「影響なし」

懸念されている地下水の問題については、京都市内をシールドトンネルで建設することにより、「影響は発生しない」としました。

京都市街地の地下水への影響解析を実施したところ、「トンネル設置に伴う地下水位低下域の発生は予測されなかった」とまで言い切っていて、影響を否定しています。

3ルートとも、地下水の保存を強く求める伏見区の酒造エリアを避けており、その点でも影響に配慮した形になっています。

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新大阪駅工事に25年

工期の詳細をみてみると、京都府北部を抜ける長大な山岳トンネルを掘るのに20年が見込まれています。ルート図を見ると、小浜~京都間の約50kmで明かり区間は1か所しかなく、30km級の長大トンネルを掘ることになるようです。そのため、20年という工事期間を想定しているのでしょう。

それよりさらに時間がかかるのが、新大阪駅の工事で、25年を見込んでいます。詳細をみてみると、用地交渉や地盤対策、地下駅構内の安全対策に時間がかかるようです。

さらに、「働き方改革」による影響も全体に及びます。「働き方改革」というと前向きな表現ですが、現実に即してみると、「人手不足」と言い換えていいかもしれません。

北陸新幹線新大阪延伸事業費
画像:国交省鉄道局「北陸新幹線(敦賀・新大阪間)詳細駅位置・ルート図(案)」

 

京都暫定開業も視野か

京都駅のルートばかりがクローズアップされますが、新大阪駅の工期「25年」には注目せざるをえません。京都駅の工事よりも長くかかる可能性があるわけです。

北陸新幹線の小浜・京都ルートが決定したのは2016年で、当時の試算では、工期15年とされていました。比較すると、新大阪まで作るならば、10年程度は工期が延びることになります。

京都市内が南北案で決定した場合、工期は20年です。久御山車両基地まで作れば、暫定開業も可能になるでしょう。となると、工事の進捗や財源の問題によっては、京都暫定開業を視野に入れているのかもしれません。

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費用は最大5.3兆円に

費用については、2016年のルート決定時は2.1兆円が見込まれていました。それが、今回の概算では、3.4~3.9兆円に膨らんでいます。

内訳をみてみると、2016~2024年までの物価上昇が0.6兆円、工事内容の精査などによるものが1.2兆円となっています。

さらに将来の物価上昇を見込むと、東西案が5.3兆円、南北案が5.2兆円、桂川駅案が4.8兆円に膨らむとされました。工事期間が長期にわたるため、インフレの影響は避けられそうもなく、工期の長い東西案の事業費が最大になります。

いずれにしろ、どの案でも最終的に5兆円規模のプロジェクトになる、ということです。

北陸新幹線新大阪延伸工期
画像:国交省鉄道局「北陸新幹線(敦賀・新大阪間)詳細駅位置・ルート図(案)」

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B/Cは示されず

着工の条件となる費用便益比(B/C)については示されませんでした。新幹線建設の条件として、B/Cは「1」以上が求められます。2016年の調査では「1.1」とされていましたが、費用が増大した以上、便益も相応に増えないと「1」を超えることはできません。

便益はインフレでも増えます。したがって事業費増がインフレによるものであれば、便益もインフレで増加し、B/Cが「1」を上回る可能性もあります。

しかし、今回示された事業費増の内訳をみると、インフレよりも工事内容の精査による部分が大きいため、現在の基準で計算すると、おそらく「1」を下回るでしょう。今回、3案を提示しながら、その費用便益比を示さなかったのは、出してしまうといずれの案も基準を下回り、不採用にせざるをえないからとも考えられます。

費用便益比は『鉄道プロジェクトの評価手法マニュアル』に沿って計算されます。マニュアルは現在改訂作業中ですので、新マニュアルが公表された段階で、新たな計算方法に沿って費用便益比を提示するのでしょう。

その数字が「1」を超えられるように、マニュアルが改訂されると思われます。

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財源をどうするか

新幹線建設の財源は、既存新幹線の貸付料を充てた上で、国と自治体が残りを分担します。新幹線貸付料は有限で、2024年度予算で整備新幹線建設に使われているのは918億円です(新幹線建設費の総額は2275億円)。

新幹線建設スキーム
画像:鉄道・運輸機構

貸付料は各路線ごとに30年間一定ですので、急に増やすことはできません。つまり、貸付料は年間1000億円程度で、年を経てもそう大きくは変わりません。

となると、予算を手当てするには、工事期間を延ばす必要が生じます。逆にいうと、今回のルート案で工事期間が長いのは、財源の問題もあるのかもしれません。

工事期間が長引けば、インフレの懸念があります。それを見据えて、5兆円という概算も示されましたが、20年以上先の物価を正確に予測するのは困難です。貸付料が30年間一定である以上、貸付料財源がインフレによる建設費増に追いついていけなくなることも懸念されます。

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地方負担は7000~8000億円?

貸付料の金額を年間1000億円程度と仮定すると、工事期間を25年とすれば、貸付料で手当できるのはおおむね2.5兆円。多めに見積もって3兆円程度がせいぜいでしょう。整備新幹線の建設スキームでは、残りの約2兆円のうち、国が3分の2、地方が3分の1を負担します。

となると、自治体負担は総額7000~8000億円程度が見込まれます。自治体は距離に応じて負担するので、ごくおおざっぱにいえば、福井県と京都府が2000~3000億円程度で、大阪府が1000~1500億円程度となるでしょうか。

現在の制度では、地方負担分の半額程度は、地方債に対する国の地方交付税措置で穴埋めします。つまり、実質的な各府県の負担は、500~1500億円程度にまで圧縮されるとみられます。

京都市は負担できるのか?

基となる5兆円があまりにも大きいので、500~1500億円が小さくみえますが、自治体の予算規模からみれば大きな金額であることに変わりありません。

これを府県内の自治体で分担するので、たとえば京都市のように市域面積が広いと、百億円単位の負担になる可能性があります。1年単位にならしても数億円単位になりそうで、財政難に苦しむ京都市には負担でしょう。

北陸への新幹線を作るために、京都市で年間数億円の予算が、20年間も削られることになるわけです。端から見ても割にあわないような印象です。

今回のルート検討で、便益を上乗せするために京都府北部の美山付近に新駅を設ける案もありましたが、最終的なルート案には載っていません。どうも地元の南丹市が断ったようです。山の中に駅ができることの見返りに建設費負担を求められるのを警戒したからでしょう。

こうした状況を受け、与党側も、自治体負担の軽減策を検討しているようです。福井新聞8月7日付によれば、与党PTの西田昌司委員長は「国の交付税措置率を高めるなどの対応を考える」と述べたそうです。自治体が負担しきれないのであれば、国が実質的に肩代わりをする姿勢を見せたわけです。

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着工5条件を骨抜きに

8月7日の会合後の記者会見で建設費増を問われた西田委員長は、「できるだけ、安く効率よくできたらいいのはもちろんですが、まさに国策なんです。『いくらまでならやるが、いくら以上になったらやらない』とか、そういう判断をすべきものではないわけです。絶対やらねばならない」と強調しました。

「国策だから絶対にやる」「事業費で判断すべきではない」というのであれば、収支採算性や投資効果、安定的な財源などを定めた新幹線の着工5条件を軽視または無視することになり、さすがに言い過ぎにも受け取れます。

ただ、見方を変えれば、着工5条件を実質的に変更する方法を、西田委員長は探っている姿勢を示したともいえます。

くわしくは過去の記事で書きましたが、費用便益比の社会的割引率の基準を変更し、B/Cをかさ上げすることはその一つでしょう。上述した交付税措置の上乗せも同じです。「着工5条件」という大きなルールを変えない形で、着工へのハードルを下げる手法です。

悪い言い方をすれば「着工5条件の骨抜き」ともいえます。

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建設スキームに限界も

ただ、西田氏の手法が一方的に批判されるべきかというとそう言い切れる話でもなく、もともとの整備新幹線建設スキームにも問題があります。「地方自治体が新幹線を欲しがる」前提で作られたスキームですので、今回のようなケースに適用しづらいのは確かです。

西九州新幹線の佐賀県でも「欲しがらない県に新幹線を通す問題」があり、着工5条件を変更しなければ、整備新幹線事業は、今後、立ち行かなくなっていくでしょう。

だからといって、「骨抜き」の形で強行するのが好ましいといえば、意見は分かれるでしょう。なんと言っても5兆円、骨抜きで押し通すには大きすぎる金額です。

西田氏が「国策」とまで言い切るのであれば、「国の政策」として建設スキームそのものの見直しを堂々と議論したうえで決定するのが、本来の姿ではないかという気もします。

いつできるのか?

最後に、北陸新幹線新大阪延伸がいつできるのかについても付記しておきます。南北案の場合、新大阪開業が25年後です。2025年度に着工したとして、新大阪開業が2050年。これが最速です。最速20年後の2045年に京都まで暫定開業することもできます。

ただ、新幹線貸付料の財源は、北海道新幹線札幌延伸工事に押さえられていますので、北陸新幹線が満額使えるのはその開業後です。そこから25年後となると、新大阪開業は2060年ごろになります。

さすがにそれでは遅いので、「貸付料の前借り」といった形で予算を措置するとは思いますが、それでも新大阪までの開業が2050年以降になるのは変わりありません。工事が難航すれば、後ろ倒しもあり得るでしょう。(鎌倉淳)

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