北陸新幹線の新大阪延伸で、舞鶴ルートが再検討されることになりました。敦賀から舞鶴を経て京都、新大阪に至るルートですが、小浜・京都ルートや米原ルートを抑えて、浮上してくる可能性はあるのでしょうか。
国交省が3ルートで再試算へ
北陸新幹線の新大阪延伸については、小浜・京都ルートで決定していますが、巨額の建設費がかかることや、環境問題に対する懸念があり、着工に至っていません。
7月の参議院選挙で、米原ルートの再検討を求めた候補者が大勝したことを受け、ルートの再検討が行われる見通しとなってきました。
小浜・京都ルートを推進していた、与党整備新幹線プロジェクトチームの西田昌司委員長は、北國新聞の取材に対し、小浜・京都ルート、米原ルートに加え、舞鶴ルートも含めて、国交省に再試算を指示することを明らかにしました。
再検討により、米原ルートが浮上する条件については別記事にしていますので、ここでは、舞鶴ルートが採用される可能性について考えてみましょう。
舞鶴ルートの経緯
北陸新幹線の舞鶴ルートが検討対象に含まれるようになったのは、2015年に西田議員が、与党プロジェクトチームの委員長に就任してからです。
新委員長になった西田議員は、それまで俎上に上がっていなかった「小浜から舞鶴を経由するルート」を提案。さらに、けいはんな学研都市付近を経由し、天王寺駅から関空までを結ぶ構想を披露しました。

西田氏の選挙区である京都府を南北に縦走し、関西空港アクセス改善も目論む大構想です。
さすがに関西空港に至るルートは廃案になりましたが、舞鶴と学研都市を経由して新大阪に至る案は実際に検討され、2016年に国土交通省から試算結果が発表されています。
その結果は下図の通りです。
B/Cが1に及ばず
簡単にまとめると、建設費と費用便益費(B/C)は、以下のようになります。
■米原ルート(敦賀~米原)
建設費5900億円、B/C2.2
■小浜・京都ルート(敦賀~小浜~京都~新大阪)
建設費2兆0700億円、B/C1.1
■小浜・舞鶴ルート(敦賀~小浜~舞鶴~京都~新大阪)
建設費2兆5000億円、B/C0.7
■小浜・京都・学研都市ルート(敦賀~小浜~京都~学研都市~新大阪)
建設費2兆2900億円、B/C0.9
■小浜・舞鶴・学研都市ルート(敦賀~小浜~舞鶴~京都~学研都市~新大阪)
建設費2兆6700億円、B/C0.6
最も低コストで、費用便益費が高いのが米原ルートという結果となりました。しかし、小浜・京都ルートもB/Cが基準の1をクリアしており、最終的に小浜・京都ルートに決まりました。
小浜・舞鶴ルートは、建設費が2.5兆円と高く、B/Cが1に及ばないため、委員長の提案にもかかわらず、不採用になったわけです。
この調査から9年を経ており、近年の建設費は急騰しています。その状況で、同じような試算をおこなったら、おそらくB/Cが1を上回るのは米原ルートだけになるでしょう。
西田氏は、舞鶴ルートも含めて再試算をおこなうとしていますが、9年前の試算でB/Cが1を下回った舞鶴ルートが、同じ前提で試算をした場合、1を上回る可能性はないといっていいでしょう。
B/Cが1を上回らない限り、整備新幹線の着工条件を満たせません。つまり、前回と同じ経由地なら、舞鶴ルートが採用されることはあり得ません。
舞鶴ルートのメリット
舞鶴ルートのメリットは、近畿地方の日本海側の中核都市である舞鶴市を、高速鉄道ネットワークに取りこめることです。京都府にとっては、北部と京都市を新幹線で直結できます。
また、小浜・京都ルートでは、京都府北部の山岳地帯を長大トンネルで貫きますが、長大トンネルの連続となることから、難工事も想定されています。通過するだけでメリットのない南丹市などは、環境面から反対姿勢を打ち出しています。
舞鶴・京都ルートは、国道32号線におおむね沿っていますので、この北部山地を避けることができます。トンネル主体になることは変わらないでしょうが、小浜・京都ルートに比べれば、工事のしやすいルートになるでしょう。
また、舞鶴~京都間に、途中駅を設けることも可能です。たとえば、京丹波町や南丹市(園部駅付近)に駅を設ければ、一定の利用が見込め、沿線にも恩恵があります。工事に対する沿線自治体の協力も得られやすくなるでしょう。
舞鶴・福知山ルート
舞鶴ルートの問題点は、京都市内を経由しようとすると、大回りにならざるをえない、という点です。前回試算の距離は約190kmで、約50kmの米原ルートの4倍近い長さでした。
では、舞鶴市から京都市内に寄らず、大阪市に直行したら、どうなるでしょうか。直線的に建設すれば、約150kmに収まります。

沿線にメリットのある形でルートを考えると、福知山を経由する形が考えられます。たとえば、「舞鶴~福知山~丹波篠山~伊丹空港~新大阪」のルートを地図上で測ってみると、170km程度です。これでも、舞鶴・京都ルートより20kmも短いです。

距離が短くなれば建設費は減りますし、京都府内の通過区間が短くなるので京都府の費用負担も減ります。かわりに兵庫県の負担が生じますが、兵庫県としては県北へのアクセス改善につながるルートなので、山陰線福知山~城崎温泉間の機能強化とセットなら検討に値するでしょう。
大阪~福知山間を北陸新幹線として整備し、福知山~城崎間をミニ新幹線化すれば、北陸新幹線と山陰ミニ新幹線を同時整備できます。石破内閣が骨太の方針で掲げた「基本計画路線を含む幹線鉄道ネットワークの高機能化」に資する施策です。
伊丹空港に立ち寄れば、新大阪~空港間が10分以内で結ばれるでしょうから、空港アクセスの改善にも役立ちます。
京都市内を通過しないと?
しかし、舞鶴・福知山ルートは、京都市内を通過しません。
仮に北陸新幹線が京都市内を経由しないことになったら、京都市~北陸三県の利用者に向けて、京都~敦賀間の在来線特急を残さなければならなくなるでしょう。それでは、北陸新幹線の整備効果が薄れてしまいます。
京都~北陸間の旅客を取りこめなければ、そのぶん便益も下がりますので、B/Cを下げる要因にもなります。
要するに、京都市内を経由しない北陸新幹線のルートは考えづらいわけです。その点で、舞鶴・福知山ルートは難しいでしょう。
舞鶴を経由するルートは、京都市に寄るには大回りで、寄らなければ整備効果が薄れるという問題があり、採用しづらいという結論になってしまいます。
京都市をめぐるジレンマ
北陸新幹線は京都市内を経由しようと難工事になり、費用もかさみ、反対運動も起こりやすいですが、さりとて京都市を通らないわけにはいかない、というジレンマがあります。
小浜・京都ルートでは、そのジレンマを解決するために、桂川に駅を設置する案を打ち出しました。京都市内の課題を最小限にとどめる方策です。ただ、それでも駅工事に26年を要します。建設費も高く、B/Cをクリアできない状況に陥っているようです。
東海道新幹線の機能強化も検討を
京都市内での工事を避け、京都駅を経由できる唯一の選択肢は、米原ルートで東海道新幹線に直通することです。したがって、もし建設するのであれば、米原ルートにして、リニア開業後に、東海道新幹線に直通する案が、もっとも容易でしょう。
ただ、建設しやすくとも、営業しやすいかといえば、話は別です。東海道新幹線と米原~新大阪間を共用することになるので、ダイヤの制約が厳しくなります。
制約を緩和するには、敦賀~米原間を建設するだけでなく、東海道新幹線の機能強化も必要になります。新大阪駅の別ホームを地下などに設ける、新大阪~鳥飼車両基地間に引き上げ線を新設する、中止となった明石市の車両基地整備を再検討する、といった施策が考えられるでしょう。
こうした費用も米原ルートの建設費に含めて試算し、小浜・京都ルートや舞鶴ルートと比較し、総合的に検討すればいいのではないでしょうか。いずれも難しいのであれば、当面は敦賀打ち切りにするほかありません。(鎌倉淳)