2030年度に予定されている北海道新幹線の札幌延伸について、政府は駅間ごとの輸送人員の予測を明らかにしました。全体としては約17,800人で、東北新幹線の盛岡~八戸間程度を予想していることになります。
年間約600万人
政府は、2017年度に行われた北海道新幹線札幌延伸の事業再評価時における、駅間輸送人員の予測値を明らかにしました。日本共産党の紙智子議員の質問主意書に対し、岸田文雄内閣総理大臣名で答弁書を8月15日に公表したものです。
2017年度に公表された北海道新幹線札幌延伸の「再評価報告書」に駅間輸送人員は掲載されていませんでしたが、答弁書により、約620万人~約690万人であることが明らかにされました。
駅間輸送人員がわかれば、各駅間の輸送密度を計算できます。北海道新幹線の駅間輸送人員と輸送密度の予測値は、以下の通りです。
駅間 | 輸送人員 | 輸送密度 |
---|---|---|
新函館北斗~新八雲 | 620万人 | 17,000人 |
新八雲~長万部 | 650万人 | 17,800人 |
長万部~倶知安 | 690万人 | 19,000人 |
倶知安~新小樽 | 660万人 | 18,100人 |
新小樽~札幌 | 630万人 | 17,300人 |
出典:北海道新幹線札幌延伸事業の事業費及び輸送密度に関する質問に対する答弁書。輸送密度は筆者が計算。
輸送量の段差小さく
新函館北斗~札幌間で輸送人員の段差が小さく、全区間でほぼ同じ輸送量であることが特徴的です。多くの旅客が、新函館北斗~札幌間を直通する予測であることを示しています。
そのなかで、最大輸送量となる区間を長万部~倶知安間と予測していることには、やや意外感もありますが、ニセコ地区の集客力を多く見積もっているのかもしれません。
駅間輸送密度の予想は、2012年度の着工時にもおこなわれていて、このときは、新函館北斗~新八雲と、新八雲~長万部が約540万人、長万部~倶知安と、倶知安~新小樽が約550万人、新小樽~札幌が約520万人でした。
5年間で需要予測が全体で大きく増えていて、とくに、長万部~倶知安間は着工時予測より140万人、約25%も増えています。
駅間 | 2012年度 | 2017年度 | 増加率 |
---|---|---|---|
新函館北斗~新八雲 | 540万人 | 620万人 | 14.8% |
新八雲~長万部 | 540万人 | 650万人 | 20.0% |
長万部~倶知安 | 550万人 | 690万人 | 25.4% |
倶知安~新小樽 | 550万人 | 660万人 | 20.0% |
新小樽~札幌 | 520万人 | 630万人 | 21.1% |
出典:北海道新幹線札幌延伸事業の事業費及び輸送密度に関する質問に対する答弁書
全体輸送密度は17,800人
再評価時に需要予測が大きく増えたことについて、国土交通省の上原淳鉄道局長は、2022年5月9日の参議院決算委員会で、「現況を再現するためにモデルをこの時点の最新のデータを用いて見直したことにより鉄道の競争力が高いモデルとなったこと」を理由に挙げています。また、需要予測の際の人口推計に関し、「国立社会保障・人口問題研究所の地域別将来人口が着工時に比べて僅かに大きかったことも一つの要因」とも答弁しています。
2割も需要予測が増える理由として説得力があるかというと微妙ですが、このときの答弁で、上原局長は、新函館北斗~札幌間全体の輸送密度を約17,800人と予測していることも明らかにしていました。
これに関連して、紙議員が駅間輸送密度に関する質問主意書を送り、岸田総理大臣名でその予測を回答したわけです。
盛岡~八戸間並みに
ちなみに、北海道新幹線の新青森~新函館北斗間の輸送密度は、新型コロナウイルス感染症の影響のない2018年度で4,899人でした。札幌延伸後の道内輸送密度が17,800人であるならば、その約3.5倍と見積もっているわけです。
輸送密度約17,800人というのは、2018年度の東北新幹線盛岡~八戸間(17,086人)とほぼ同等です。九州新幹線の博多~鹿児島中央が同年度で19,275人となっていて、これにも近い数字です。
都市圏としての札幌市の強さや、首都圏~北海道の流動の太さを考えれば、不可能という数字ではないと思いますが、若干強気な印象も受けます。
毎時1~2本程度の運行か
JR北海道がこの輸送密度を前提としてダイヤを組むなら、コロナ前の盛岡~新青森間くらいの運行本数を設定することが予想されます。
となると、本州直通の速達タイプと、道内完結の各停タイプを、それぞれ1~2時間に1本程度、運転することになるのでしょう。トータルでは、毎時1~2本程度の運行になるとみられます。
輸送断面が平らなことから、長万部や倶知安で折り返す列車は、ほぼ運転されないとみてよさそうです。(鎌倉淳)