北海道新幹線並行在来線、函館~長万部間も危うく。函館線「山線」は大半が廃止へ

沿線利用者が極端に少なく

北海道新幹線の並行在来線のうち、長万部~余市間の廃止が確定しました。残る函館~長万部間と余市~小樽間は未確定ですが、存続へのハードルは高そうです。

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「後志ブロック」会議

北海道新幹線は、新函館北斗~札幌間の延伸工事が進められています。開業時には、並行在来線である函館線・函館~小樽間287.8kmがJR北海道から経営分離される予定で、この区間を鉄道として残すか、バス転換をするかが議論されています。

この問題を話し合うのが、沿線15市町などで構成する「北海道新幹線並行在来線対策協議会」です。協議会は函館~長万部間147.6kmを話し合う「渡島ブロック」と、長万部~小樽間140.2kmを話し合う「後志ブロック」に分けられ、後志ブロックの会議が2021年2月3日に開かれました。

長万部駅

7町が「バス転換」

会議では、これまで判断を保留していた4自治体のうち黒松内町、蘭越町、ニセコ町の3自治体が、それぞれバス転換への支持を表明。すでに長万部町、倶知安町、共和町、仁木町の自治体がバス転換を支持していることから、仁木町以南の7町がバス転換で一致し、函館線長万部~余市間の廃止が確定しました。

他の沿線自治体のうち、余市町は鉄道存続を支持し、小樽市は住民説明会が終わっていないとして判断を保留しています。小樽市が鉄道存続を支持すれば、余市~小樽間のみ第三セクターに転換した上での鉄道維持が模索されます。

しかし、迫俊哉・小樽市長は、財政負担の重さを理由に鉄道維持は困難との見方を示しています。報道各社の取材に対し「住民説明会ではどういう条件ならバス転換を受け入れてもらえるかを投げかけたい」と述べていて、余市~小樽間もバス転換が濃厚となっています。決定は4月以降になりそうです。

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自治体は負担できない

これまでの協議で示された資料によりますと、長万部~小樽間を鉄道で存続する場合、2040年度の単年度収支予測は約23億円の赤字。初期投資の152億円も巨額ですが、単年度収支だけをみても、地方自治体が毎年負担するには大きすぎる金額です。

北海道新幹線並行在来線資料
画像:北海道新幹線並行在来線対策協議会資料

こうした試算を示されては、沿線自治体の多くがバス転換を受け入れるのはやむを得ないというほかありません。輸送密度も余市~小樽間を除けば1,000未満で、2030年度の新幹線開業後は500未満に落ち込むと予想されています。利用者が少ないという現実の前に、住民の反対の声も大きくはなりませんでした。

北海道新幹線並行在来線
画像:北海道新幹線並行在来線対策協議会資料
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全線廃止もやむなく

余市~小樽間については、2018年度の輸送密度が2,144、2030年度の予測が1,493となっていて、それなりの利用者が存在します。一方で、並行するバス路線もあり、その輸送力に余裕があることから、鉄道を廃止しても1日4便程度のバスを増便すれば事足りるという試算も示されています。

余市~小樽間の鉄道を維持する場合、単年度収支で約5億円の赤字が生じると試算されています。第三セクター鉄道で運営するなら、これを余市町と小樽市、北海道が負担することになります。

北海道新幹線並行在来線試算
画像:北海道新幹線並行在来線対策協議会資料

今後の人口減少も考慮すれば、これだけ巨額の赤字を負担してまで鉄道を残すのは難しそうです。となると、小樽市がバス転換容認の姿勢を明確にした時点で、長万部~小樽間の全線廃止が決まりそうです。

長万部~小樽間は、函館線「山線」と呼ばれていて、乗りごたえのあるローカル幹線として知られてきました。まだ最終決定ではありませんが、2030年度の北海道新幹線札幌延伸までに、その全線が姿を消す可能性が高くなってきました。

山線の廃止時期は未定ですが、倶知安町や長万部町は新幹線駅設置にともなうまちづくりの都合で早期の廃止を求めています。そのため、北海道新幹線開業の2030年度を待たずに廃止することも、今後検討されます。余市~小樽間はこうした影響を受けないため、廃止される場合でも2030年度まで営業する可能性が高そうです。

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新函館北斗~長万部間も厳しく

「山線」の議論がヤマを越えたことで、北海道新幹線並行在来線の協議の焦点は、函館~長万部間の存廃に移ります。

同区間については、貨物列車の大動脈であり、鉄道路線そのものを廃止するわけにはいかないという前提があります。

しかし、JR北海道が年間67億円もの赤字(2019年度)を出している区間であり、特急列車を含まない輸送密度は685(2018年度)にとどまります。とくに、新函館北斗~長万部間の輸送密度は191と驚く低さです。

北海道新幹線並行在来線
画像:北海道新幹線並行在来線対策協議会資料

駅間輸送人員を見ると、森~長万部間の1日あたりの定期旅客はほぼ100人以下です。バス2~3台で運びきれるくらいの利用者しかいません。

駅間輸送人員
画像:北海道新幹線並行在来線対策協議会資料

函館~長万部間を第三セクター鉄道で残す場合、毎年20億円前後の単年度赤字が出ると試算されています。

北海道新幹線並行在来線
画像:北海道新幹線並行在来線対策協議会資料

利用者がこれだけ少ない路線に対し、億単位のお金を地方自治体が負担することに合理性を見出すことはできません。となると、函館~長万部間のうち、とくに普通列車の利用が少ない新函館北斗~長万部間については、旅客営業の廃止が現実味を帯びてきます。

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函館~新函館北斗間は残るか

函館~新函館北斗間に関しては新幹線アクセスの役割があり、残る可能性が高いという見立てが多いようです。新幹線の乗り換え客が利用するため、輸送密度は4,000~5,000人程度と見込まれていて、鉄道として存続させるのに十分な数字でしょう。

ただ、試算を見れば、この区間だけでも、旅客鉄道を残せば毎年10億円前後の赤字が見込まれていて、それを誰が負担するのかという問題が残ります。

北海道新幹線並行在来線
画像:北海道新幹線並行在来線対策協議会資料

この試算に対しては、本当に毎年10億円も赤字が出るのか、という疑問がないではありません。比較として道南いさりび鉄道の2016年~2019年の決算を見てみると、以下のようになります。

道南いさりび鉄道資料
画像:北海道新幹線並行在来線対策協議会資料

道南いさりび鉄道は37kmの営業キロで年間20億円程度の費用にまとめ、赤字を2億円以下に抑えています。

これに対し、先の表の函館~新函館北斗間の試算では、17kmで年間24億円程度の費用となっていて、結果として赤字が10億円に膨れあがっています。複線と単線の違いはあるにせよ、なぜキロ当たりの費用がこれだけ違うのか、資料を見るだけではわかりません。

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年10億円を負担できるか

試算の通り、函館~新函館北斗間で毎年10億円の赤字が出るのであれば、それを函館市、七飯町、北斗市と北海道で分担しなければなりません。規模の大きい函館市の存在があるものの、一自治体あたりの負担額は余市~小樽間(5億円)を上回ります。

さらに、試算では初期投資として148億円を計上しています。この初期投資がどこまで地元負担になるのかは定かではありません。こうした金額を前にして、七飯町長は、第8回会合で「お金だけの話だけでいったら絶対バスになってしまう」と発言しています。

ちなみに、前掲した駅間輸送人員を見ると、五稜郭~新函館北斗間の定期旅客は余市~小樽間のおおむね1.5倍程度です。五稜郭~桔梗間で1,603人となっていて、地元利用者に限ればバスで運びきれないほどの人数ではありません。

沿線自治体が財政事情を考えて慎重に判断すれば、函館~新函館北斗間のバス転換もやむなし、という選択は十分にありうるでしょう。実際のところ、北斗市や七飯町は、巨額の負担をして鉄道を残すより、負担のほとんどないバスを選ぶのが合理的に思えます。

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困るのはJR貨物と北海道

ここで浮かぶ疑問として、北斗市や七重町が「負担しきれない」と匙を投げた場合に、JR北海道は、新函館北斗駅を在来線と接続しない新幹線単独駅とすることを受け入れるのでしょうか。2016年にわざわざ電化した五稜郭~新函館北斗間を捨ててしまうのでしょうか。

これはどう考えてもあり得ない話で、函館~新函館北斗間は、旅客維持が前提になっていると思われます。

先述したように、函館~長万部間は、そもそも貨物鉄道としての維持も前提になっています。結局のところ、函館~長万部間の並行在来線を必要としているのは、沿線自治体ではなく、JR貨物やJR北海道ではないか、ということです。

にもかかわらず、赤字の負担が沿線自治体に回ってくるのであれば、理不尽と言うほかありません。いまさらの話ですが、並行在来線のスキームが北海道にあっていないのです。

現在の試算と負担を前提にする限り、函館~長万部間についても沿線自治体はバス転換を選択せざるを得ないでしょう。その判断を受けて、国や道が新たなスキームを考えるのか、はたまた新たな試算を出すのか、それ以外の方法があるのか、見通せません。(鎌倉淳)

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