災害で運休中の肥薩線が、復旧後に、くま川鉄道との直通運転を検討しています。新八代への直通も目指していて、新八代から人吉を経て、湯前に至る直通特急が運行される可能性がありそうです。
アクションプランの素案公表
肥薩線は、八代~隼人間124.2kmを結ぶ、JR九州の鉄道路線です。2020年7月の九州豪雨で被災し、八代~吉松間86.8kmで不通が続いています。
2024年4月に、熊本県とJR九州が、八代~人吉間51.8kmについて、上下分離で復旧することで基本合意しました。現在、復旧に向けた協議が続けられています。
2024年12月13日に開催されたJR肥薩線検討会議の第9回会合では、「JR肥薩線復興アクションプラン」の素案が示され、了承されました。アクションプランでは、肥薩線八代~人吉間の復旧後、新八代駅とくま川鉄道への直通運転を実施する方針が盛り込まれました。
国鉄時代は博多行き急行も
くま川鉄道は、人吉~湯前間24.8kmを結ぶ第三セクター鉄道です。かつては国鉄湯前線でしたが、特定地方交通線に指定され、民営化後の1989年に第三セクター化されました。
旧国鉄の路線同士なので、くま川鉄道とJR肥薩線は、線路が連続しています。国鉄時代は実際に直通運転も行われていて、博多~湯前間を運行する列車も設定されていました。
しかし、湯前線がJRから経営分離されたことで、直通列車も廃止されてしまいました。
肥薩線復旧後に、くま川鉄道との直通運転を再開すれば、肥薩線沿線からくま川鉄道沿線や、くま川鉄道沿線から八代方面への利便性が向上します。
新八代発着に
被災前の肥薩線の列車は、八代駅発着が基本でした。一部が新八代駅へ直通していたものの、本数は少なく、新幹線からの乗り換えは不便でした。
アクションプランでは、復旧後、新八代駅への直通列車を大幅に増やす方針です。肥薩線を新八代駅まで直通運転とすることで、新幹線アクセス線としての機能を強化しようという狙いです。
両方向への直通化により、肥薩線は「新八代~人吉~湯前」という系統になります。
アクションプランでは、「地域を代表する観光列車の導入」も謳っており、新八代発湯前行きといった観光特急列車が、新幹線接続で設定されるかもしれません。
費用やダイヤは未定
課題は費用です。直通のための初期投資のほか、運営を継続するための維持費も必要です。その金額については精査中で、現時点では明らかになっていません。
想定ダイヤなども未定で、今後、利用者のニーズなどを探りながら、決定していくようです。
SL人吉の展示施設も
復旧にあわせて、人吉駅周辺も整備します。観光的な目玉は、SL人吉の動態保存と、展示施設の整備です。
現在、SL人吉は、人吉駅前で展示されています。これを動態保存とする計画を立てていて、駅前の60mほどが走行範囲になる構想です。
周辺には、人吉鉄道ミュージアムMOZOCAステーション868や、人吉機関庫、転車台もあります。そうした施設との連携や、新たな展示施設の整備も検討します。
駅位置の変更、集約も
肥薩線八代~人吉間の復旧予定は2033年度です。JR九州の古宮洋二社長は、1月23日の記者会見で、復旧にあわせて、駅位置や数を変更する可能性があると発言しました。
被災前の利用状況に応じて、駅の集約と再配置を検討しているとみられ、3月末までに熊本県と交わす最終合意に盛り込むようです。
「金を出す」ので実現
肥薩線の新八代駅直通や、湯前線直通は、被災前から要望はあったようです。しかし、実現してこなかったのは、利用者が少なく、発生する費用をJRが回収できないためでしょう。
被災後の復旧にあたり、そうした費用は、基本的には自治体が負担することになりました。つまり、自治体が「金を出す」ことによって、実現することになるわけです。
新八代駅で新幹線と接続する優等列車ができれば、人吉や湯前から、博多方面へのアクセスが大きく改善するでしょう。
今後、バス運転士不足が深刻化するなかで、高速バスの代替となる役割を果たすかもしれません。(鎌倉淳)