「函館バスと具体的な議論」へ。北海道新幹線並行在来線問題、次の局面に

バス運転手不足の懸念も

北海道新幹線札幌延伸にかかる並行在来線問題で、北海道は函館バスと具体的な協議に入ることを明らかにしました。いっぽう、沿線自治体からは、鉄道の維持に対する期待の声も漏れました。

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北海道新幹線並行在来線対策協議会

北海道新幹線は、新函館北斗~札幌間の延伸工事が進められています。開業時には、並行在来線である函館線・函館~小樽間287.8kmがJR北海道から経営分離される予定で、この区間を鉄道として残すか、バス転換をするかが議論されています。

この問題を話し合うのが、沿線15市町などで構成する「北海道新幹線並行在来線対策協議会」です。協議会は函館~長万部間147.6kmを話し合う「渡島ブロック」と、長万部~小樽間140.2kmを話し合う「後志ブロック」に分けられていて、後志ブロックでは、すでに長万部~小樽間のバス転換を決めています。

函館~長万部間の存廃は未決定で、この問題を話し合う渡島ブロックの第10回会議が2023年12月27日に開かれ、その資料と議事録が公表されました。

H5系北海道新幹線

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収支を再試算

会議ではこれまで、①第三セクターによる鉄道維持②全線バス転換③函館~新函館北斗間は鉄道維持(新函館北斗~長万部間のみバス転換)の3パターンを想定し、移管後30年間の収支を試算してきました。

第10回会議では新たな試算結果が示され、①の30年間の累積赤字が744億円、②が同106億円、③が390億円余りとなることが明らかにされました。

過去の議論で、収支の厳しさから全面的な鉄道維持は困難という認識が広がっていますが、新たな試算でも鉄道維持の数字が大きくは改善しませんでした。

また、函館市は函館~新函館間の維持を求めていて、新たに就任した大泉市長も新幹線の函館駅乗り入れを主張していることから、函館~新函館北斗間の鉄道維持は既定路線です。

したがって、現状では②の「新函館北斗~長万部間のみバス転換」が最有力の選択肢となっています。

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バス運転手は7割が50歳以上

しかし、昨今のバス運転手不足は広く知られたところです。バス転換を決めたとして、本当に実現できるのか、という懸念もあります。

道南エリアの地域公共交通計画の資料では、道南地域の広域路線にかかるバス運転手数は、2018年の273人が2022年に209人まで減少しています。

年齢構成としては、50歳以上が70%を占め、30歳台以下は2%にとどまりました。

採用に力を入れているとはいえ、この人員構成では、北海道新幹線開業時にバス運転手をどれだけ確保できるか、定かではありません。

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函館バスと協議へ

この懸念は自治体間でも共有されています。今回の会合では、沿線をエリアごとに分けたバスの運行計画も明らかにされましたが、現実に運転手を確保できるかは見通せません。

会議では、座長の北海道交通企画監が、渡島・檜山地域の基幹的なバス事業者である函館バスと「具体的な議論に入る」ことを明らかにしました。

函館バスとの協議で「地域の実情に配慮した検討を進めていきたい」としており、試算で仮定したバス運行が実現可能かを含めて議論することになりそうです。

一方、自治体側は、2024年度から、議会や地域住民との意見交換をしながら、自治体としての方針をまとめていく段階に入ります。

バス事業者との協議と、自治体内での議論を踏まえて、2025年度中に、協議会としてバス転換か鉄道維持かの方針を決定します。

函館~長万部間の北海道新幹線並行在来線問題は、いよいよ具体論で検討する局面に入ったと言えます。

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「鉄路維持に意義」という意見も

鉄道を維持する場合は、在来線を第三セクターで運行することになります。

議論のなかで、八雲町長は、自らが列車に乗ったときの体験を披露。「乗客の6割、7割がインバウンドの客、観光利用」と明かしたうえで、「函館・長万部間には大沼という観光を抱えていて、観光という面でも鉄路を残すことも意義があるんじゃないか」と意見を述べました。

函館~長万部間に関しては、貨物輸送で鉄道を残す方針は固まっています。鉄路を残すのであれば、観光客向けの旅客列車を残してもいいのではないか、という期待です。

現時点では一首長の期待にとどまるようですが、バス転換が現実的に困難と判断された場合に、こうした意見に賛同する声が増えるかもしれません。(鎌倉淳)

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