北陸新幹線「はくたか」で、グランクラスの専任アテンダントによる飲料・軽食サービスが廃止されます。サービス縮小は東北新幹線に続くもので、JR東日本が鳴り物入りで導入したグランクラスは、岐路に立たされているようです。
シートのみ営業に
JR東日本とJR西日本は、北陸新幹線「はくたか」のグランクラスで、専任アテンダントによる「飲料・軽食あり」のサービスを、シートのみ営業の「飲料・軽食なし」に変更すると発表しました。
これは、「はくたか」における専任アテンダントサービスの廃止を意味します。サービス廃止は2022年10月1日です。「かがやき」では、これまで通り専任アテンダントによる「飲料・軽食あり」のサービスを継続します。
これにより、2022年10月1日以降にグランクラスで専任アテンダントサービスを実施するのは、東北・北海道新幹線「はやぶさ」のうち東京~盛岡以遠を走る列車と、北陸新幹線「かがやき」のみとなります。
2011年営業開始
グランクラスは、JR東日本のE5系、E7系と、JR西日本のW7系にのみ連結されています。2011年3月、東北新幹線「はやぶさ」にE5系が導入されたのにあわせて営業を開始しました。その後、E5系の運用拡大により「はやて」「やまびこ」でも専任アテンダントによる営業を開始。「なすの」では、シートのみで営業を開始しました。
2014年に長野新幹線(現北陸新幹線)にE7系が導入されると「あさま」もシートのみで営業を開始。2015年の北陸新幹線金沢開業にあわせて、「かがやき」「はくたか」で専任アテンダントによる「飲料・軽食つき」サービスが開始されました。
この時期は、「はやぶさ」「はやて」「やまびこ」「かがやき」「はくたか」で専任アテンダントによるサービスが展開されていたわけで、まさにグランクラスの黄金時代でした。
縮小路線へ
しかし黄金時代は短く、2016年には東京~仙台間の「やまびこ」で専任アテンダントサービスを廃止。2019年には仙台発着の「はやぶさ」でもシートのみ営業に転じるなど、縮小路線が鮮明になりました。
同年に上越新幹線にE7系が投入されましたが、当初からシートのみ営業で、専任アテンダントによる飲料・軽食サービスは見送られました。
2021年3月には、東北新幹線「はやて」「やまびこ」の全列車で専任アテンダントサービスを廃止。そして、今回、北陸新幹線「はくたか」も後を追うことになりました。
敦賀延伸開業前に
北陸新幹線は2024年春に敦賀開業を控えています。「はくたか」が金沢以西に乗り入れるかは定かでないものの、延伸1年半前にグランクラスで専任アテンダントサービスを廃止することは、敦賀延伸でも利用者の回復が見込めないとJRが判断したことを示唆しています。
華やかな延伸開業前に、最上級クラスのサービスを縮小するわけで、厳しい判断と受け止めざるをえません。
近距離の料金が割高で
グランクラスの退潮は、もはや明らかというほかありませんが、その理由はどこにあるのでしょうか。JR東日本は、「はくたか」の専任アテンダントサービス廃止について、「ご利用状況に鑑み」と説明しています。要は、「利用者が少ない」という単純な話です。
利用者が少ない理由もおそらくは単純で、「値段が高い」か「値段に見合わない」のどちらかと、利用者から判断されているのでしょう。
下表はグランクラスのJR東日本エリア内の料金です。近距離の料金がきわめて高く、ある程度の距離を乗らない人には選択肢になりづらい価格設定になっています。
営業キロ | グランクラスA | グランクラスB | グリーン車(参考) |
---|---|---|---|
~100km | 6540 | 4450 | 1300 |
~200km | 8040 | 5950 | 2800 |
~300km | 9430 | 7340 | 4190 |
~400km | 9430 | 7340 | 4190 |
~500km | 10640 | 8550 | 5400 |
~600km | 10640 | 8550 | 5400 |
~700km | 10840 | 8750 | 5600 |
701km~ | 11840 | 9750 | 6600 |
※「グランクラスA」が専任アテンダントサービスつき、「グランクラスB」はシートのみ営業。
つまり、そもそも遠距離客をターゲットにした価格設定なので、近距離や中距離客が多い「やまびこ」や「はくたか」で利用が振るわないのは、当然の話です。JRとしても、ある程度は想定内だったとみられますが、想定以上に利用者が存在しなかったのでしょう。
北陸新幹線の事情
北陸新幹線の場合は、JR東日本とJR西日本の料金が、境界駅の上越妙高で打ち切り計算となるため、乗り通すと高額になるという側面もあります。東京~金沢間(450km)のグランクラス料金(専任アテンダントつき)は15,370円にも達していて、東京~新青森(713km)の11,840円より高くなっています。
東京~金沢間をグランクラスで利用すると、運賃と料金をあわせて29,220円にもなります。これだけ高いと、ターゲットとなる長距離客でも二の足を踏む人が多いでしょう。
もちろん、世の中には、高いサービスが受けられるなら値段など気にしない利用者層は存在します。しかし、ビジネスユースの多い東海道新幹線ならともかく、北陸新幹線では、そういう利用者は多くなさそうです。
収益性でも見劣り
現在のダイヤで、北陸新幹線「かがやき」の定期列車は1日8往復に過ぎません。したがって、今後、北陸新幹線の列車の多くで、グランクラスは「シートのみ営業」になります。
グランクラスの座席定員は18席なので、シートのみ営業の場合、東京~金沢間が満席になっても、料金収入は11,190円×18席=201,420円の収入にとどまります。一方、グリーン車は63席あり、6,990円×63席=440,370円に達します。
グランクラスは先頭車両(12号車)にあるので、客室スペースがグリーン車(11号車)の半分程度です。それを考慮したとしても、シートのみ営業ではグリーン車に比して収益性で劣ります。
シートのみ営業でグランクラスの利用率がグリーン車を下回る場合、JRとしては、グランクラスを存続させる意味が問われてくるでしょう。その点で、グランクラスは岐路に立たされているといえます。
実際のところ、シートのみのグランクラスに乗るくらいなら、グリーン車で十分と考える利用者も多いのではないでしょうか。
東京~札幌を見据え
利用者の視点でいえば、グランクラスの存在価値は、やはり長距離の利用でしょう。同じ列車に4~5時間乗り続ける場合、飲食サービス付きのゆったりしたシートは魅力的です。
その点では、2030年度に予定されている北海道新幹線札幌開業が一つのポイントです。東京~札幌間は5時間程度の所要時間が見込まれていますので、専任アテンダントによる飲食サービスつきのグランクラスは存在価値を高めそうです。JR東日本としても、当然そこを見据えているでしょう。
最高級シートには、鉄道会社のフラッグシップ的な価値もあるでしょう。しかし、シートのみ営業のグランクラスでは、中途半端な印象を否めません。利用率が低迷しているのであれば、短距離で利用しやすい価格設定なども望みたいところです。(鎌倉淳)