福岡地下鉄空港線延伸、調査結果を読み解く。福北ゆたか線へ直通乗り入れを構想

採算性の壁高く

福岡地下鉄空港線延伸構想の調査結果が公表されました。福北ゆたか線への直通運転を構想し、4つのルート案が検討されましたが、いずれも採算性に課題を残しています。

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福北ゆたか線に接続

福岡市営地下鉄空港線は、姪浜~福岡空港間13.1kmを結ぶ路線です。現在は福岡空港が終点ですが、これを延伸して、JR篠栗線(福北ゆたか線)に接続させる構想があります。

この構想について、福岡県は2021年度に予算計上し、ルート案などの基礎調査を実施。その調査結果がこのほど明らかになりました。概要をみていきましょう。

福岡市営地下鉄

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直通運転を想定

公表されたのは「福岡市地下鉄空港線とJR 福北ゆたか線の接続に関する基礎調査」です。同調査では、地下鉄延伸について、速達性、利便性、事業性に主眼を置いて検討しました。

地下鉄とJRの接続駅は、長者原駅または原町駅と想定しました。接続駅は新設せず、JR既存駅のホームに乗り入れる形とし、JR線直方駅まで直通運転を想定します。ルートについては「最短距離」と「中間新駅設置、経由」の2パターンで検討しました。

中間新駅設置案における新駅の位置は明確ではありませんが、おおむね東平尾公園付近と、志免町役場付近を想定しているようです。

建設までの準備期間を9年、建設期間を10年とし、開業年度を2040年度と設定しました。運賃はJR並みの200円、地下鉄並みの300円、西鉄バス並みの400円の3つで算出しています。

運行本数は、既存線の運行本数を維持して、直通列車を上乗せする案(ケース1)と、直通列車と折り返し列車の総数が現状と同じ本数とする案(ケース2)の両案で検討しました。

福岡市営地下鉄空港線延伸
画像:「福岡市地下鉄空港線と JR 福北ゆたか線の接続に関する基礎調査について」(福岡県)より

なお、地下鉄とJRでは電化方式が異なりますが、概算事業費に248億円の車両費が計上されていることから、車両側で対応することを想定しているようです。

詳細は不明ですが、交直両用車か、蓄電池車両などを検討しているとみられます。

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長者原駅接続案

上記のような設定で、具体案を見て行きましょう。

まず、長者原接続案では途中駅なしで最短距離を結ぶ「Aルート」(3.7km)、迂回して途中に2駅を設置する「Bルート」(6.3km)の2案を検討しました。

Aルートは所要時間4分、Bルートは所要時間11分です。需要予測をケース1(運転本数上乗せ)で比較すると、Aルートが1日最大16,500人、Bルートが同17,000人で、Bルートのほうがやや多くなります。

事業費はAルート870億円に対し、Bルートは1,480億円に達します。開業後40年間の収支採算性はAルートが最低で200億円の赤字、Bルートが同680億円の赤字となりました。

原町駅接続案

原町接続案でも、途中駅なしで最短距離を結ぶ「Aルート」(3.2km)と、迂回して途中に2駅を設置する「Bルート」(6.4km)の2案を検討しました。

Aルートは所要時間7分、Bルートは所要時間12分です。需要予測をケース1(運転本数上乗せ)で比較すると、Aルートが1日最大15,700人、Bルートが同16,700人で、こちらもBルートのほうがやや多くなります。

事業費がAルート720億円に対し、Bルートは1,420億円です。開業後40年間の収支採算性はAルートが最低で150億円の赤字、Bルートが同660億円の赤字となりました。

福岡市営地下鉄空港線延伸案
画像:「福岡市地下鉄空港線と JR 福北ゆたか線の接続に関する基礎調査について」(福岡県)より
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黒字化できず

鉄道新線を建設する場合、収支採算性の黒字化予測は不可欠ですが、基礎調査では4案ともその条件を満たしていません。

そのなかで、もっとも採算性に優れているのが原町接続で途中駅がないC案です。したがって、今後もC案が軸となって検討されるでしょう。

ただ、C案は赤字も少ない代わりに需要予測も最低で、全体の運行本数を現状維持とするケース2の場合、1日の利用者数は最低で12,100人にとどまると見込まれました。

新駅を作らないため波及効果も小さいという難点もあります。したがって、需要予測を改善する工夫をしづらい案にも思えます。

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費用負担の問題

実際に建設するとなると、事業主体や費用負担割合も問題になります。

福岡空港駅は福岡市、終点の長者原駅、原町駅はともに粕屋町にあり、途中に志免町を挟みます。中間駅を設けない案では、途中の志免町は経由するけれど駅ができないので、費用負担には応じられないでしょう。

その点、中間駅設置案は、志免町の中心部に駅を作りますので、志免町も費用負担に応じやすいでしょう。

また、東平尾公園付近は福岡市なので、同市も一定の負担する名目ができます。そう考えると、D案も政治的には捨てづらそうです。

ただ、中間駅設置案は建設費が増大し、採算性が悪く、これを黒字化するのは大変そうです。

採算性の壁高く

長者原駅接続案と原町駅接続案の比較では、長者原案は、香椎線とも連絡するので利便性向上の範囲が広がるものの、事業費が高くなるわりに、相応の需要増が見込めません。そのため、建設距離の短い原町駅接続案が優位といえそうです。

JRと地下鉄が直通運転するという前提に立てば、香椎線からの乗り換え回数は、どちらの接続でも変わらないと考えることもできるでしょう。

基礎調査には、疑問点もあります。たとえば、既存のJR駅にそのまま乗り入れる形になっていますが、ホームを増設しないのならば、地下鉄線内からの折り返し列車を捌く場合、ダイヤ上の支障は生じないのでしょうか。

また、248億円という車両費は高く、おそらくは交直車の導入を考えていると思われますが、そんなコストの高い車両を前提にしていいのか、といった指摘もあるでしょう。

福岡県は、この結果を受けて、延伸構想をさらに精査・検討する方針です。

ただ、今回の検討結果を見る限り、どの案であれ、採算性の壁が高いと言わざるをえません。(鎌倉淳)

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