ここ数年、登山者が急増している富士山に、転機が訪れそうです。富士山が、まもなく世界遺産に登録されることが確実になったからです。2013年6月16日から開かれるユネスコの世界遺産委員会で正式に決まります。
世界遺産に登録されれば、富士登山者がさらに増えることが予想されます。そうでなくても、夏の富士山はすでに登山者でパンク状態。さらに増えれば環境問題も悪化しますし、事故も増えるでしょう。そのため、地元自治体などで登山の規制をする動きが出てきています。
ひとつが入山料徴収の動き。地元の調整は進んでいませんが、試験的に数百円の入山料を徴収する方向のようです。
もうひとつが、日帰り弾丸登山の自粛要請。危険性が高く事故が多いという理由で、夜間日帰り登山を自粛を求めたものです。山梨・静岡両県知事名で、観光庁長官に要請しました。自粛という名称ですが、多くの旅行業者は従わざるをえず、旅行会社に対しては事実上の規制になると思われます。
この二つがいまの富士山登山規制の大きな動きですが、おそらくどちらもたいした効果は生まないでしょう。数百円の入山料で登山者数を抑制できるだけの効果は見込めません。登山者数を減らすには、1人7000円程度の設定にしなければならない、という試算も発表されました。
また、弾丸登山は、旅行者の支払は往復のバス料金だけなので、「ツアー」を自粛させたところで、バスが動いていれば規制に限界があります。まさか、夜8時頃に富士登山口に発着するバスを禁止するわけにもいかないでしょう。バスを規制すればマイカーでの訪問者が増え、それはそれで問題になります。
とどのつまり、現在検討されている規制案では、富士登山に大きな変化はなく、登山者だけが増えていく、という事態になりそうです。
ただ、ひとつ疑問があります。現在の富士登山の問題点は、本当に登山者数だけなのでしょうか。
実際に富士山に登ってみるとわかりますが、登山道の混雑を巻き起こしているのは、「御来光登山者」です。つまり、山頂近辺で御来光を見る、ということが目的になっている登山者が多いため、明け方の山頂付近がきわめて混雑しているのです。
七合目や八合目の山小屋を早朝出発し、午前中に登頂し、午後下山する、というスケジュールなら、それほどの混雑ではありません。問題は御来光を目指して登る夜間登山者数が多すぎる、という点にもあるような気がします。
従って、もし規制をするのなら、九合目以降の夜間登山には入山料を課す、という方法も有効ではないかと考えます。「お金払うくらいなら、御来光は八合目で見よう」という人が増えそうです。
ところで、役所の視点からすれば、富士登山で解決すべき問題点は「登山者数の抑制」であることがうかがえます。登山者数が増えれば事故も増えますし、屎尿処理などの環境維持も難しくなりますから、それが問題なのは理解できます。
しかし、登山者の視点からすれば、富士登山でもっとも改善が必要なのは、山小屋の質でしょう。横になるのがやっとのスペースに、登山者をひたすら押し込む山小屋は、日本を代表する国際的観光地としても恥ずかしいとしか思えません。
そもそも睡眠不足による事故を予防するというのなら、弾丸登山の規制よりも、安価で快適な山小屋の充実のほうがよほど重要に思えてなりません。もし、入山料を設定するのなら、ぜひ山小屋の改修補助に使って欲しいものです。山小屋のバイオトイレの充実などにも補助を出せば、環境維持に役立つでしょう。