赤字ローカル線に新たな支援制度。「特定線区」の再構築に補助金を創設

地域公共交通再構築事業

政府が、地域公共交通に関する新たな支援制度を創設します。「地域公共交通再構築事業」と「エリア一括協定運行事業」で、2023年度に開始します。

新制度は、ローカル鉄道やローカルバスに大きな影響を与えるものです。それぞれの制度について、2回にわたり詳細を見てみましょう。最初は、おもに鉄道の赤字ローカル線を対象にした「地域公共交通再構築事業」です。

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社会資本整備総合交付金

「地域公共交通再構築事業」は、地域公共交通網の維持が難しくなっている地域において、その再構築を図るための支援制度です。地域戦略と連動して、持続可能性、利便性、効率性の高い交通網の構築を目指します。

枠組みとして使用するのは、社会資本整備総合交付金です。同交付金は、道路、河川、港湾といった国交省所管の地方公共団体向け個別補助金を一つの交付金にまとめたもので、2010年度に創設されました。

同交付金は、基幹事業として、道路、港湾、河川、砂防、下水道、海岸、都市公園、市街地、住宅、住環境整備などを設けています。そこへ新たな基幹事業として創設するのが、「地域公共交通再構築事業」です。

簡単にいうと、国交省の総合的な補助制度の対象に、鉄道やバスといった地域交通の再構築事業を加えるということです。

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鉄道・バスのインフラに補助

地域公共交通再構築事業は、地域交通網再構築に取り組んでいる自治体への支援で、インフラの整備費用を補助します。

補助対象となるインフラは、鉄道の場合は駅施設、線路設備、電路設備、信号保安設備などです。バスの場合は、停留所、車庫、営業所、バスロケ施設、EVバス関連施設(発電、蓄電、充電)などが対象になります。条件はありますが、車両に対する支援も可能です。

国交省の例示によれば、鉄道の高速化(軌道強化)、駅の新設・移設・改築、既存施設の撤去、鉄道とBRTの連携、停留所の設置、EVバス充電施設の設置、営業所・車庫の設置、GX/DX鉄道車両の導入、EVバス車両の導入といった用途に使えます。

要するに、鉄道やバスの施設や車両に対して、網羅的に補助をする制度です。こうした制度はこれまでになく、画期的です。

地域公共交通再構築事業 -社会資本整備総合交付金
画像:国土交通省
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特定線区再構築協議会が前提

ただ、補助要件は厳しく設定されています。まず、地域公共交通計画を作成し、地域公共交通特定事業実施計画について大臣認定を受けることが前提となります。

鉄道については、全ての路線が対象になるわけではなく、特定線区再構築協議会(法定協議会)で策定された「鉄道事業再構築実施計画」にかかる路線が対象です。

特定線区再構築協議会とは、輸送密度1,000人未満かつピーク時の1時間当たり輸送人員500人未満の赤字ローカル線について、鉄道事業者または沿線自治体の要請を受けて設置されるものです。第三セクター会社や単一自治体で完結する路線は除外されます。主な対象となるのはJRの閑散線区で、JR側が協議要請をすることで設置される法定協議会といえます。

要するに、鉄道に関しては、輸送密度1,000人未満で、維持についてJRと自治体が話し合いを終え、地域公共交通計画で路線維持の計画を立てた場合に補助対象になる、ということです。

バスについては、特定線区再構築協議会での議論は必要条件ではなく、バス再編などを定めた地域公共交通特定事業実施計画が大臣認定を受ければ対象になります。

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立地適正化計画も

補助のための要件は、まだあります。

地方自治体が作成する、まちづくりや観光などに関する計画において、その戦略の一つとして「鉄道の活用」「バスネットワークの活用」が位置づけられ、そのための実効性のある取り組みが具体的に記載されていることが必要です。

要するに、立地適正化計画(都市計画全体のマスタープラン)などに、鉄道やバスの活用方法を記載しなさい、ということです。

そして、事業の効果を確認するための目標設定も必要です。具体的には、利用者数、事業収支、国や地方公共団体の支出額の目標を設定します。計画の実効性を測るための数値目標が必要、ということです。

さらに、補助対象となる施設の整備を含む利用促進策が、実施計画に具体的に位置づけられていなければなりません。たとえば、ローカル線の駅舎や線路設備に投資するのであれば、それが利用促進にどう貢献するのかを具体的に位置づけなければならない、ということのようです。

支援を受けるための要件は厳しいですが、事業の国庫補助率は2分の1と高くなっています。

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提言を受けて

こうした支援制度の創設は、国交省の「鉄道事業者と地域の協働による地域モビリティの刷新に関する検討会」が、2022年7月にまとめた提言を受けたものです。

この提言では、輸送密度1,000人未満かつピーク時の1時間当たり輸送人員500人未満の鉄道路線について、特定線区再構築協議会を設けて、あり方について検討することを求めています。

特定線区再構築協議会の設置目的は地域公共交通の再構築であり、必ずしも鉄道廃止を前提としていません。協議内容は、おおざっぱに言って「鉄道輸送の高度化による活性化」か、「バス転換による利便性確保」かの、どちらの方針を採るかを決めることです。

提言では、鉄道会社と沿線自治体が協議した結果、鉄道を残すと決まった場合に、国として新たな支援策を整えることも求めています。今回示された新たな支援制度は、提言が求めたものを形にしたということです。

地域公共交通再構築事業
画像:「地域鉄道・ローカル線を巡る最近の動向」(東北運輸局)
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利便性向上には役立つ

新たな補助金では、線路強化や新駅設置、新型車両の導入といった投資に対して、2分の1の国庫補助をします。既存の補助制度では対象にならなかった事業や、対象であったとしても最大3分の1程度だったものが、2分の1になるのですから、ローカル線の高速化や、新駅設置による利便性向上を目指すのであれば、おおいに役立ちそうです。

また、鉄道維持をあきらめて、バス転換する場合は、その転換費用の半分を国が持ってくれることになります。鉄道設備の撤去や、バス車両の導入も補助対象です。

アメとムチ

輸送密度の極端に低いローカル線について、一部の地方自治体は、JRとの協議に慎重です。協議に応じることが、廃止への一里塚になってしまうことがあるからです。

新制度では、協議を終了すれば手厚い補助を受けられる仕組みを整えており、及び腰の自治体の背中を押す形となっています。

しかし、手厚い支援内容とはいえ、インフラ投資の費用の全額を国が負担してくれるわけではなく、地元の自治体も応分の負担をしなければなりません。

また、鉄道を存続するには、上下分離も求められるでしょう。赤字が生じても国による欠損補助はなく、基本的には自治体の負担となりそうです。その意味では「アメとムチ」という、よくある政府の施策とみることもできます。

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「適切な維持」は変更なし

国交省は、新制度の発表にあわせて、JRに対し「現に営業する路線の適切な維持に努める」と求めた2001年の国土交通省告示について、運用方針を変更しない旨を改めて表明しました。

JR各社は国鉄改革の趣旨を踏まえ、ローカル線であっても路線の維持に努めなければならないことは大前提である、と念押しした形です。沿線自治体に対する配慮に見えますが、そればかりでなく、鉄道を廃止した場合でも、バスという形で路線維持に関わることを求めた形です。

鉄道廃止であれ、維持であれ、新制度では高速化や車両更新などの投資をしやすくしています。そのため、ポテンシャルのあるローカル線では、その活用について議論されるかもしれません。

ただ、公表された資料を読む限り、新制度はあくまでも「特定線区」を対象にしたものです。したがって、たとえば輸送密度3,000人くらいの、本当にポテンシャルの大きそうなローカル幹線には適用されないようです。その点では、新制度で設備投資を大がかりにおこなう路線がどれだけ出てくるのか、疑問もあります。

一部の特定線区の利用者数が極端に少ないことを踏まえれば、新制度がこうした路線の「仕分け」に使われるのは間違いなさそうです。令和のローカル線大整理へ向けて制度が整った、とみることもできるでしょう。(鎌倉淳)

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