鉄道チームの検証
「バスVS鉄道対決旅」第13弾、続いて、鉄道チームの検証です。鉄道チームの実際ルートを再掲しておきましょう。
▽1日目
福島市役所→徒歩1.4km→曽根田駅10:31→10:45平野駅→徒歩2.4km→11:20☆まるえ果樹園12:03→徒歩6km→13:40庭坂駅16:12→16:49米沢駅→タクシー2.2km、1,060円→17:02☆登起波18:13→徒歩2.2km→米沢駅18:40→19:25山形駅
▽2日目
山形駅07:02→徒歩3.3km→07:45☆沼木温泉→徒歩3.3km→山形駅10:18→10:39天童駅11:51→12:00さくらんぼ東根駅→徒歩5.5km(休憩)→15:10☆松野屋16:09→タクシー29.4km、7,970円→作並駅17:39→18:17仙台駅18:25→18:31国際センター駅→タクシー+徒歩1.1km→18:50仙台城
奥羽線の運休
鉄道チームの最初のポイントは奥羽線でした。山形新幹線アプローチ線工事のため、奥羽線では日中時間帯の普通列車を福島~庭坂間で運休しています。代行バスが走っていますが、鉄道チームは乗車できないルールです。
鉄道代行バスに鉄道チームが乗れないことに違和感を覚える方もいるでしょうが、過去の「ローカル路線バスの旅」シリーズにおいて、鉄道代行バスは乗車可能とされてきました。裏を返せば鉄道チームが代行バスに乗れないことに矛盾はありません。
この最初のトラップを、鬼軍曹はうまく回避しました。福島市役所で情報収集ができたからです。情報を得て、鉄道チームは、第1チェックポイント終了後、福島交通線で福島駅方面に向かわずに、庭坂駅へ徒歩で直行しました。
仙台ルート
このとき、仮に福島駅に戻っていたらどうなっていたでしょうか。福島駅から庭坂駅へ歩くのでなく、仙台経由で米沢に向かった場合、以下のようになります。
▽1日目
まるえ果樹園→徒歩2.4km→平野駅13:07→13:23福島駅13:42→14:16白石駅14:19→15:07仙台駅16:00→17:19山形駅17:35→18:25米沢駅→タクシー2.2km→登起波→米沢駅20:28→21:14山形駅
仙台ルートをたどった場合、米沢駅に到着するのが18時25分となり、実際ルートより1時間36分遅くなります。
ただ、ミッションを終えて米沢駅に戻っても、当日中に山形駅に到着できるので、その後の影響はありません。つまり、仙台ルートでも1日目のミッションをこなして山形市に至ることができました。
言葉を換えれば、まるえ果樹園から庭坂駅まで、約6kmも歩く必要はなかった、ということになります。
庭坂駅で乗れていたら
その庭坂駅までの行程ですが、途中で地図を見誤ったこともあり、最後は息を切らせて走ったにもかかわらず、ギリギリで列車を1本逃してしまいました。逃した12時59分発に乗れていたらどうなっていたでしょうか。
▽1日目
まるえ果樹園12:05→徒歩6km→庭坂駅12:59→13:39米沢駅→タクシー2.2km→☆登起波→タクシー2.2km→米沢駅15:28→16:17山形駅→タクシー3.3km→☆沼木温泉→徒歩3.3km→山形駅
米沢駅と登起波の間で往復ともタクシーを使えば、米沢駅15時28分発に間に合います。さらに山形駅から沼木温泉へも片道タクシーを使えば、16時半頃に第3チェックポイントの沼木温泉に到着することができ、この日のうちにミッションを済ませることができていたでしょう。
この場合、山形市内に泊まったとしても、2日目は天童駅の将棋ミッションからスタートできますので、以下のように乗り継げます。
▽2日目
山形駅07:06→07:27☆天童駅09:04→09:13さくらんぼ東根駅→タクシー5.5km→☆松野屋→タクシー5.5km→さくらんぼ東根駅12:19→12:45羽前千歳駅13:04→14:17仙台駅
このように、仙台駅に14時17分に到着することが可能です。ここまでのタクシー乗車距離は19kmにすぎず、1万円でお釣りがきます。すなわち、上記の乗り継ぎは十分実現可能で、その場合は15時頃に仙台城跡にゴールできていたことになります。鉄道チーム圧勝です。
まるえ果樹園にタクシーを呼んでおいて、庭坂駅までの6kmを乗ったとしても、上記乗り継ぎなら、タクシー代はほぼ1万円で収まったでしょう。若干足らなくなるかもしれませんが、それでも一部を歩けば済む範囲です。つまり、まるえ果樹園にタクシーを呼んで、庭坂駅12時59分の列車に乗れれば、ほとんど歩かずに圧勝できていた可能性があった、ということです。
沼木温泉のタイムリミット
とはいえ、実際に庭坂駅12時59分の列車に乗れたとして、鬼軍曹が米沢以遠のチェックポイント往復に全てタクシー代を投じたかというと、疑問が残ります。
というのも、鬼軍曹はこれまでの対決旅において、序盤はタクシー代を惜しみ、終盤の勝負所につぎ込む傾向があるからです。第12弾のしまなみ海道では珍しく序盤に大盤振る舞いをしましたが、結果として2日目は徒歩地獄に苦しみリタイアしました。その経験を踏まえれば、1日目のタクシー代は節約するかもしれません。
たとえば、米沢駅から登起波往復で、片道のタクシー代を節約したとします。すると米沢発15時28分には乗れなくなり、次の16時27分発になります。
▽1日目
米沢駅16:27→17:17山形駅→3.3km→沼木温泉
放送では明確にされていませんでしたが、沼木温泉でのミッションは18時までに終了するルールになっていました。家庭にお邪魔して名物をごちそうになるというお題なので、やむを得ないことなのでしょう。
そうなると、17時17分に山形駅に到着した場合、その日のうちにミッションをクリアするのは困難です。第3チェックポイントは翌朝回しとなり、実際ルートに収斂します。
18時というタイムリミットは検証動画で初めて明かされました。重要な情報が後出しというのは、出演者も視聴者とも納得しづらい部分があります。とはいえ、先の見通しをはっきりさせすぎると、バラエティとしての面白さや制作上の柔軟性が失われるという事情もあるのでしょう。
なんであれ、庭坂駅12時59分の列車に乗れていた場合、第3チェックポイントを1日目に終わらせ、鉄道チームが圧勝できる可能性はありました。しかし、軍曹のこれまでの傾向を踏まえると、実際の1日目の結果に変わりはなかったのではないか、ということです。
天童駅で乗り遅れていたら
2日目、ハイライトは天童駅でした。第4チェックポイントの難題ミッションをこなして、鉄道チームの3人は駅まで走りに走り、11時51分発の列車に駆け込みます。乗り遅れたら次発は13時10分なので、何としても乗りたかった、という気持ちが痛いほど伝わってくる場面でした。
では、この列車に乗り遅れたら、どうなっていたのでしょうか。おそらくは、13時10分発の列車を待ってさくらんぼ東根へ向かうことはせず、タクシーで第5チェックポイントの松野屋へショートカットしていたことでしょう。この時点で、鉄道チームのタクシー代は9,000円近く残っていましたので、それをケチって2時間を待つ理由がないからです。
天童駅から松野屋までは10.5km。タクシーなら20分ほどで到着します。ここでタクシー代を使う代償として、松野屋から作並駅へのショートカットができなくなります。しかし、より近い仙山線の駅の山寺駅へのショートカットは可能です。熱中症予防の休憩時間を1時間見込んだとして、次のような乗り継ぎとなります。
▽2日目
山形駅10:18→10:39☆天童駅12:00→タクシー10.5km→12:20☆松野屋(休憩含む)14:50→タクシー16.9km→15:20山寺駅16:17→17:13仙台駅
上記の山寺駅16時17分発の列車は、実際ルートで作並駅で乗り逃した列車と同じです。仙台駅到着は17時13分。実際ルートよりも約1時間早いです。すなわち、天童駅から松野屋までタクシーでショートカットし、さらに松野屋からタクシーで山寺駅にショートカットしていたら、鉄道チームは勝利できていた、ということになります。
要するに、天童駅の駆け込み乗車に失敗して乗り遅れていれば、タクシーを使うことで松野屋に早く到着でき、タクシー代が減ってしまったので作並駅へ行くことができなくなって、山寺駅へ向かうことになるだろう、ということです。そうすると、1時間早い仙山線列車に乗れて、勝利できていたわけです。人間万事塞翁が馬、というところでしょうか。
山寺駅へ向かっていたら
現実には、バスチームは、天童11時51分発の列車にギリギリで間に合い、さくらんぼ東根駅から5.5kmを歩いて松野屋に到達しました。バスチームは9,000円近いタクシー代を温存したまま、最終チェックポイントに着いたわけです。
実際ルートでは、このタクシー代を用いて作並駅までダイナミックなショートカットに挑みます。しかし、目標としていた16時37分発の列車を、文字通りタッチの差で乗り逃してしまいました。作並駅から仙台方面は毎時1本の運転で、ここでの乗り遅れが致命傷となり、敗退へつながってしまいます。
このとき、時間的に厳しい作並駅へ向かわないという選択もあったはずです。作並駅16時37分発には間に合わないと観念して、1本遅い列車を受け入れて山寺駅へ向かっていたら、どうなっていたでしょうか。
▽2日目
山形駅10:18→10:39☆天童駅11:51→12:00さくらんぼ東根駅→徒歩5.5km(休憩)→15:10☆松野屋16:09→タクシー16.9km→16:39山寺駅17:16→18:05東北福祉大前駅→タクシー+徒歩、3.9km→18:30仙台城跡
山寺駅から乗車した列車は、実際ルートで作並駅から乗車した列車と同じです。山寺駅を利用すればタクシー代をより多く残せますので、仙山線を東北福祉大前駅で乗り捨てて、タクシーを拾って仙台城へショートカットすれば、ゴール時刻は18時30分頃。バスチームより早くゴールできていました。
東北福祉大前駅でタクシーを拾えるかという問題がありますが、タクシーの電話番号を松野屋で尋ねてメモしておけば、呼ぶことは可能だったでしょう。
すなわち、第5チェックポイントの松野屋から、作並駅に向かわずに山寺駅に向かっていれば、鉄道チームが勝利できていた可能性があった、ということです。
ちなみに、さくらんぼ東根駅から羽前千歳駅を経由して、列車に乗って仙台方面に向かうことも、ルートとしてはあり得ます。ただ、羽前千歳駅での乗り継ぎが悪いので、タクシー代を十分残していた鉄道チームにとって、選択する意味はありませんでした。
仙台駅到着時刻まとめ
ここで、仙台駅到着想定時刻を、バスチームと鉄道チームでまとめてみます。
バスチーム
S:東郷14:19→15:25仙台駅西口
A:東郷16:29→17:25仙台駅西口
C:東郷18:09→19:15仙台駅西口
鉄道チーム
S:羽前千歳14:02→山寺14:12→作並14:38→15:14仙台
S’:羽前千歳15:02→山寺15:15→作並15:41→16:25仙台
A:さくらんぼ東根15:01→15:25羽前千歳16:08→山寺16:17→作並16:37→17:01東北福祉大前→17:13仙台
B:さくらんぼ東根15:58→16:21羽前千歳17:04→山寺17:16→作並17:39→18:05東北福祉大前→18:17仙台
C:さくらんぼ東根16:53→17:16羽前千歳18:07→山寺18:19→作並18:43→東北福祉大前(通過)→19:14仙台
※鉄道チームのS、S’は、さくらんぼ東根からの接続なし。
仙台駅到着時刻で比較すると、バスチームと鉄道チームのSとA、Cの時刻が競っています。
現実的には、バスチームが乗るのはAになる可能性がきわめて高くなっていました。したがって、鉄道チームもAに乗れば互角の勝負で、Bだと劣後する形になっていました。
ただ、バスチームは、現実にも生じたとおり、渋滞による遅延が想定されていたことでしょう。それを考慮すると、A同士では鉄道チームが有利です。
すなわち、鉄道チームがAを実現できれば勝ち、Bになれば敗退というのが、基本的な枠組みだったと考えられます。現実にはバスの遅延が著しかったため、バスチームAと鉄道チームBが互角に近い形になってしまい、鉄道チームはBでも東北福祉大前からタクシーを使えば、勝利できる状況になっていました。
しかし、事前の枠組みを覆すまでには至らず、「鉄道チームがAを実現できなければ負け」という想定内に落ち着いた、という結論になりそうです。
鉄道チームが有利
鉄道チームの直接的な敗因を検討すると、作並駅での乗り遅れです。これに乗れていれば勝っていたので、端的にいえば、松野屋のミッションをあと5分早く終わらせていれば、という話に集約されてしまいます。
ただ、振り返ってみると、ミッションに現実と同じ時間がかかっても、鉄道チームはもっと早くゴールすることが可能でした。そう考えると、今回は鉄道チームに有利な設定だったといえます。
しかも、チェックポイントが比較的駅から近い位置に設定されていて、鉄道チームは、あまり歩かずにクリアできそうな配置に見えました。それだけに、鬼軍曹としては悔しい結果でしょう。
ショートカットの甘い罠
敗れた遠因をたぐると、松野屋から作並駅へ向かう「大ショートカット」に、鬼軍曹が魅入られてしまったことにあるように感じられます。それが表れていたのが、さくらんぼ東根駅から松野屋までタクシーを使わなかったことです。ここを歩いて節約したのは、大ショートカットに心を奪われていたからでしょう。
実際には、天童駅から松野屋、松野屋から山寺駅、東北福祉大前駅から仙台城といった、小さなショートカットを組み合わせるほうが効果的なのですが、ダイナミックな長距離ショートカットは、より魅力的に映ります。しかし、それは甘い罠だったようです。
一方のバスチームは、高島が手堅い試合運びを見せました。1日目の杉の平までは無駄に歩いてしまいましたが、そのほかにミスらしいミスはなく、乗るべきバスを堅実に乗り継ぎました。「バス旅のプロ」太川の代役を十分につとめたといっていいでしょう。
これで、バスチームが7勝6敗と勝ち越しました。次回は太川が戻ってくることでしょう。楽しみです。(鎌倉淳)