日産自動車が「手放し運転」の新車を発表し、国会では自動運転の安全基準を定める改正道路運送車両法が成立しました。高速道路の自動運転を可能にする「レベル3」の車両は、2020年にも登場する見通しです。長距離運転の負荷が和らぐため、マイカー旅行者にとっては朗報ですが、鉄道には逆風になるかもしれません。
「手放し運転」実現へ
スバルの「アイサイト」や、トヨタの「セーフティセンス」など自動車の運転支援装置は、近年急速に広まってきました。
現時点でも、全車速追従機能付クルーズコントロールやレーンキープアシストの備わったクルマなら、高速道路ではドライバーがハンドルに手を添えているだけで、運転操作をほとんどせずに、先へ進むことができます。
日産では、高速道路の同一車線内でハンドル操作が不要になるという「プロパイロット2.0」を開発したと発表。2019年秋に日本で発売する「スカイライン」に搭載する予定です。高速道路での「手放し運転」が、限定的ですが実現する見通しとなりました。
改正道路運送車両法とは
2019年5月17日には、自動運転の実用化に向け安全基準を定める改正道路運送車両法が成立。高速道路での自動運転の実現に向けた法的環境が整いつつあります。
改正道路運送車両法の最大のポイントは、クルマに搭載されている自動運行装置が、保安基準の対象になることです。保安基準とは、クルマの構造や装置など技術的な要件の基本となる法令で、これまで自動運転を支えるシステムは対象になっていませんでした。
これからは、プログラムで作動する運行装置が保安基準に加わり、自動運行装置が使用される条件(走行環境条件)を国土交通大臣が定めることになります。
今国会では、道路交通法の改正案も審議されていて、緊急時に人が自動運転システムに代わって運転することを前提に、現在は禁止されているドライバーのスマートフォンの利用などが、一定条件下で認められるようになります。
技術の進歩に較べて遅れていた法整備が、ようやく追いついてきたことで、今後、自動運転や運転支援装置が、自動車の設備として標準化していくとみられます。
驚くほど疲れない
現在販売されている最新の運転支援装置でも、高速道路ではハンドル操作をほとんど行わずに、自動車を一定速度で走らせることができます。遅い車が前に現れたら、自動的にブレーキをかけて減速し、前車との距離を一定に保って走り続けてくれます。ウィンカー装置を動かすだけで、システムが自動で後方確認し、車線変更までしてくれます。
こうした最先端の運転支援装置を体験した人なら、それがいかにラクか、ご存じでしょう。
筆者も最新の「アイサイト」で高速道路を走ったことがありますが、驚くほど疲れませんでした。いままでは、クルマは運転が疲れるので、200km以上の中距離移動には鉄道を主に利用していましたが、これからはクルマの使用割合を増やそう、と思ったくらいです。
現状は「レベル2」
それでも、現状の自動運転は「レベル2」と言われる段階です。自動車がカーブを勝手に曲がり、ブレーキをかける能力があっても、ドライバーはハンドルに手を添えていなければなりません。
運転支援装置は、あくまでもドライバーのハンドル操作やブレーキを「サポート」するものであって、基本は人が運転するというスタンスなのです。
2020年に「レベル3」
しかし、次の段階の「レベル3」では、システムが基本的な運転操作を行い、状況に応じて人が運転に介入する形になります。
高速道路では完全に手放しで、アクセルにもブレーキペダルにも足を掛けずに運転できます。基本的にはドライバーは座っているだけ。国土交通省は、高速道路における「レベル3」の自動運転を、2020年をメドに実用化する姿勢を示していて、日産に限らず、主要自動車メーカーはすでに技術開発のメドを付けています。
つまり、いよいよ、高速道路ではシステムがクルマを運転してくれる時代になってきたわけです。
やがて標準装備になっていく
こうした自動運転のシステムは、当初はグレードの高いクルマにのみ導入されていくとみられます。しかし、やがて低価格帯のクルマでも標準装備になっていき、レンタカーやカーシェアでも広まっていくでしょう。そうなると、旅行者が気軽に利用できるようになります。
旅行者は長距離ドライブがしやすくなりますので、旅の目的地がいまよりも遠くに広がりそうです。また、たとえば、これまで「鉄道+レンタカー」を選択していた利用者が、旅の最初からレンタカーを選択するようになるかもしれません。
さらなる自動車シフト
その場合、クルマとの速度差の小さい在来線特急が、影響を受ける可能性が高そうです。特に、高速道路の整備が進み、高速鉄道の整備が遅れている北海道や四国などでは、さらなる「自動車シフト」が進むかもしれません。
過疎地では、一般道でも自動運転が先行して解禁される気配があります。その点でも北海道や四国の鉄道には逆風になりそうです。
旅行者にとって、自動運転は移動の負担を軽減してくれる楽しみな技術です。しかし、地方鉄道の利用者減につながるなら、単純には喜べないかもしれません。(鎌倉淳)