北海道新幹線の計画上の終点は旭川です。現在は札幌までの延伸工事が進められていますが、その開業が視野に入ったことで、旭川延伸へ向けた動きも出てきています。
北海道新幹線の計画区間
北海道新幹線は新青森~旭川間が計画区間で、このうち新青森~札幌間が整備計画区間、札幌~旭川間が基本計画区間です。現在事業着手しているのは、整備計画区間の新青森~札幌間のみです。
札幌までの延伸開業は2031年春が予定されています。数年遅れる見込みですが、それでも2030年代半ばには工事が完了しそうで、札幌延伸開業が視野に入る段階になりました。
それにあわせて、将来の旭川延伸を求める声が上がり始めています。2021年には、北海道新幹線旭川延伸促進期成会が設立され、建設促進運動が開始されました。
「旭川新幹線」の概要
ここでは、北海道新幹線旭川延伸を、「旭川新幹線」と呼ぶことにします。
旭川新幹線について公式に決まったことは何もありませんが、期成会がウェブサイトで延伸の概要と整備効果を示していますので、その内容をみてみます。
まず、札幌~旭川間の鉄道旅客需要についてですが、北海道新幹線(函館~札幌)や西九州新幹線(鳥栖~長崎)に匹敵します。整備計画路線に匹敵する輸送量が期待される、ということです。
旭川新幹線の所要時間
東京~旭川間の所要時間ですが、最高速度が360km/hの場合で4時間25分、260km/hの場合で5時間50分とされています。なお、現状は9時間23分です。
現在建設中の北海道新幹線札幌延伸開業時点では、東京~札幌間の目標が4時間30分とされています。そのため、東京~旭川間4時間25分はちょっと無理そう。ただ、東京~札幌間で4時間30分が実現すれば、東京~旭川間で5時間あまりにはできそうです。
ちなみに、最高速度260km/hの場合で、旭川~札幌間は35分、旭川~函館間は1時間38分、旭川~仙台間は4時間07分とされています。最高速度360km/hなら、旭川~札幌間は29分、旭川~函館間は1時間14分、旭川~仙台間は3時間4分です。
利用者は50%増
駅間通過人員は、旭川~滝川間で8,734人、旭川~岩見沢間で9,866人、岩見沢~札幌間で9,945人になると予想しています。
新幹線整備により、おおよそ50%増えるという見込みです。
旭川新幹線のルート
期成会によると、旭川新幹線のルートは、現在の函館線に沿って、最高速度360km/hが可能になるよう、できるだけ直線的に設定します。
路線は単線です。駅位置、駅数については、現在の特急停車駅、人口集積度、在来線との接続を考慮して設定します。
いちばん気になる途中駅の位置は政治的な問題でもあり、ぼやかされています。候補となるのは冒頭の図のとおり、岩見沢、美唄、滝川、深川の4駅でしょうか。
「次のリスト」に乗り遅れまいと
新幹線の基本計画路線は全国で11路線あり、その多くの沿線で「整備新幹線」への格上げを求める運動が始まっています。旭川延伸に向けた期成会設立は、その波に乗り遅れまい、という動きとみられます。
現段階で即座の着工を求めているわけではなく、「次のリスト」に盛り込まれることを目的とした運動に見受けられます。
実際に建設するとなれば採算性が問われますし、財源や並行在来線の問題も生じます。「次のリスト」に盛り込まれたとしても、着工へのハードルは低くありません。
JR北海道の在来線高速化構想
いっぽう、JR北海道は2026年までの中期経営計画のなかで、在来線の高速化構想を掲げました。函館線札幌~旭川間については、現在1時間25分の所要時間を最速60分にすることを目指します。
JR北海道の構想は、在来線の高速化であって、新幹線建設ではありません。
新幹線計画路線に並行する在来線で高速化を掲げたことは、「新幹線建設ではなく、在来線改良で高速化を実現する」という宣言にも受け取れます。
在来線高速化が都合がいい?
JR北海道が、このタイミングで、遠い将来の目標として在来線高速化を掲げたのは、旭川新幹線建設運動の動きが影響しているのかもしれません。
背景として、仮に旭川新幹線を建設した場合、並行在来線の扱いに困る、という点が挙げられます。輸送密度からすれば、函館線岩見沢~旭川間の維持が困難になりますが、廃止となると、旭川で接続する富良野線や宗谷線、石北線が宙に浮きます。
いっぽうで、並行在来線をJRが維持すれば赤字が増えるだけです。JRとしては、新幹線を作るより、並行在来線問題が生じない在来線高速化のほうが都合がいい、ということでしょう。
札幌駅のホーム容量問題
さらにいえば、北海道新幹線札幌駅ホームの問題もあります。札幌駅ホームは在来線ホームの東側、創成川上に作られますが、2面2線にとどまります。
フル規格の新幹線を旭川方面へ伸ばすのであれば、ホーム容量が足りなくなるおそれがありますし、車両運用もしづらそうです。しかし、駅南側にビルを建てることもあって、ホームを増設するスペースはなさそうです。
つまり、JRとして、旭川延伸に備えてホーム用地を確保していないように感じられます。ホーム用地の心配のない在来線高速化案のほうが、JRとしては好都合でしょう。
在来線で最高速度200km/h?
ただ、在来線高速化は必ずしも新幹線計画と相反するものではありません。
というのも、国土交通省は、『幹線鉄道ネットワーク等のあり方に関する調査』において、新たな新幹線整備手法として、在来線改良による高速化を検討しているからです。その目標は最高速度200km/hです。
JR北海道は、この方式で「旭川新幹線」を実現しようとしているのかもしれません。
札幌~旭川間で最速60分というのは、360km/h新幹線の29分より長いものの、十分に短い所要時間です。在来線改良でそれを実現できるのであれば、フル規格の新幹線を追い求める必要性は小さくなります。
言い方を変えれば、JRの構想は、新幹線の基本計画路線を在来線改良に落とし込む内容といえます。となると、将来的には、「北海道新幹線旭川延伸」と「函館線高速化」の計画が一体になる可能性もあります。
一方で、期成会が構想する札幌~旭川間29分は夢がある数字です。「単線新幹線で360km/h運転、ノンストップ」というような前提条件で試算されているようで、難しそうですが、不可能とまではいえません。
いずれにせよ、札幌~旭川間の高速化が、北海道の鉄道において次の課題であることは確かです。フル規格を単線で作るのか、在来線を高速化するのか。長い議論になりそうです。(鎌倉淳)