阿武隈急行を残せるか。赤字5億円、地元で議論。年度内にも「在り方」示す

輸送密度1000の路線をどうするのか

阿武隈急行で存廃議論が浮上しています。宮城県側の自治体から存続に対して厳しい意見が出始めました。

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国鉄継承路線を延伸

阿武隈急行は、福島~槻木間54.9kmを結ぶ第三セクター鉄道です。国鉄時代に第一次特定地方交通線に指定された丸森線丸森~槻木間を継承し、1986年7月に開業。1988年7月に福島~丸森間を延伸のうえ、全線を電化しています。2021年度の輸送密度は1,075です。

沿線自治体では、2019年7月に「阿武隈急行線地域公共交通網形成計画」を策定。計画期間は、2019年度から2028年度までの10年間。このうち2023年度までを前期とし、2024年度から後期に入っています。

阿武隈急行AB900系

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柴田町は支援金支払を保留

2024年6月10日には、阿武隈急行が2023年度の決算を発表。乗客数は2022年度より61万人多い190万人となりましたが、2018年度比では57万人少ない状況であることを明らかにしました。

収支面では、約5億1200万円という巨額の営業損失を計上。沿線自治体が欠損補助をしているため、最終赤字は約3500万円にとどまりました。ただし、沿線自治体の一つ、柴田町は欠損補助の支援金約2350万円の支払いを保留しています。

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在り方検討会

沿線自治体では、「阿武隈急行線在り方検討会」を設け、同線の今後について議論しています。検討会は非公開で、議事録や資料なども公表されていません。

福島民友電子版6月1日付によりますと、5月31日に開かれた会合で、宮城県側は、阿武隈急行の代替方法として、気動車、BRT、バス、BRTとバスの併用の4案を提示。電化鉄道維持の場合と比較する考えを示したとのことです。

代替案を提示しているのは宮城県側のみで、福島県側は存続に前向きです。福島民友電子版6月9日付によりますと、福島県は県内の第三セクターや民鉄に対して、「鉄道事業再構築事業」の適用を検討。阿武隈急行も検討対象に含まれるようです。

実際に適用を申請するには、宮城県側と足並みを揃える必要がありますが、福島県としては阿武隈急行を存続させる大方針であることは確かなようです。

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利用状況がいいのは福島県側

阿武隈急行の利用状況をみてみると、比較的まとまった利用のある駅が多いのは福島県側です。県庁所在地である福島駅を起点として発着していることが理由でしょう。

阿武隈急行利用状況
画像:阿武隈急行線地域公共交通網形成計画

宮城県側は角田駅での利用者数が多いものの、それ以外ではあまり利用されていません。

利用区間については、県境で大きく分けられています。このため、宮城県側のみ廃止といった考え方が浮上しないとも限りません。

阿武隈急行利用状況
画像:阿武隈急行線地域公共交通網形成計画

 

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輸送密度1,000の路線をどうするか

車両は経年30年以上の8100系が14両と、2018年度以降に導入した新型のAB900系が6両在籍しています。今後、車両更新を控えて、これまで通り電化設備を維持して電車を走らせるのか、維持するとしても非電化にしたり、所有数を減らすのかも含めた検討も必要になるでしょう。

在り方検討会では、年度内(2025年3月まで)に結論を出す予定です。それに先だって、宮城県では2024年秋をメドに、代替交通に関する検討結果を示します。

人口減少時代を迎え、輸送密度1,000程度の第三セクター鉄道をどうするのか。車両更新をするなら、あと30年は残す覚悟が必要で、難しい判断となりそうです。(鎌倉淳)

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