JR東日本が気仙沼線と大船渡線の鉄道復旧を断念。「JRが黒字企業だから廃止」となってしまうのか

東日本大震災で被災したJR気仙沼線と大船渡線について、JR東日本が鉄路復旧を断念し、バス高速輸送システム(BRT)として存続させる方針を固めたようです。国土交通省で2015年7月24日に開かれる沿線自治体首長会議の第2回会合で提案する見通しです。河北新報などが報じました。

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仮復旧としてBRTを運行中

気仙沼線と大船渡線は東日本大震災で大きな被害を受けました。大船渡線の気仙沼~盛間と気仙沼線の柳津~気仙沼間は、現在も不通が続いていて、JR東日本は仮復旧としてBRTを運行させています。

気仙沼線と大船渡線を合わせた復旧費用は1,100億円と見込まれています。このうち現状復旧費用は430億円で、これについては、JR東日本はその負担に前向きのようです。しかし、残る670億円は線路の高台移設など、安全確保のための費用であり、JR東日本は行政による負担を求めています。

これに対し、国はJR東日本が黒字会社であることから、同社への支援には否定的です。一方で、670億円もの巨費を地元自治体が負担するのは困難です。結局、誰が費用負担するのかで折り合わず、次の会議では、JR東日本がBRTを継続し本復旧とする案を沿線自治体に提示するようです。

気仙沼駅

鉄道軌道整備法の「赤字要件」

鉄道が災害で不通になった場合に、国が支援する法的根拠は主に鉄道軌道整備法です。助成対象は「洪水、地震その他の異常な天然現象により大規模の災害を受けた鉄道であつて、すみやかに災害復旧事業を施行してその運輸を確保しなければ国民生活に著しい障害を生ずる虞のあるもの」(第三条)です。

ただし、補助対象企業は限定されていて、「該当する鉄道の鉄道事業者がその資力のみによつては当該災害復旧事業を施行することが著しく困難であると認めるときは、予算の範囲内で、当該災害復旧事業に要する費用の一部を補助することができる」(第八条)と定めています。

逆にいえば、鉄道事業者がその資力のみによって災害復旧事業を施行することが可能な場合は、国は費用負担をしないのです。実際の運用としては、災害発生以前の3年間の各年度において、鉄道会社に損失が生じていることが補助条件になっています。これを「赤字要件」といいます。

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東日本大震災後の新制度

鉄道軌道整備法の災害復旧補助は、復旧費用の4分の1を国と関係地方自治体が負担し、残り2分の1を鉄道事業者が負担するというスキームです。

しかし、それでは東日本大震災後の鉄道復旧が進まないので、新たな制度が設けられました。新制度では、自治体が被災した施設を復旧の上保有した場合、国と自治体の補助率が2分の1ずつとなり、鉄道事業者は復旧費用を負担する必要がありません。これにより、三陸鉄道や仙台空港鉄道など第三セクター鉄道の復旧が可能になりました。

また、2分の1となった自治体の負担(協調補助分)についても、震災復興特別交付税により措置されています。要するに、国が丸抱えの復旧となったのです。

同時に、鉄道軌道整備法の鉄道会社の赤字要件も緩和され、被害額に比較してその利益額が微少であると認められる場合には、東日本大震災に限り補助の対象とする、などの基準緩和措置が講じられています。

さらに、岩手開発鉄道や仙台臨海鉄道に対しては、中小企業庁による「中小企業等グループ施設等復旧整備補助事業」による支援も講じられています。

こうしたさまざまな補助スキームを使って、東北のローカル鉄道は東日本大震災の被災から復活しています。JR東日本は、これらの補助スキームから漏れた唯一の鉄道会社といっていいでしょう。

1,100億円は高すぎて

JR東日本は2015年3月期決算で、3,619億円もの連結経常利益を上げています。これだけの黒字企業に補助金を出す必要があるのか、という考え方は理解できます。

一方で、元国営とはいえ、現在は民間企業となっているJRに、赤字確実のローカル線の復旧費用を1,100億円も負担しろ、というのも無理難題に思えます。

東日本大震災から4年も経つのに、この問題の解決策は見つかっていません。その結果、もっとも経営体力のあるJR東日本の路線だけが復旧されず、事実上の鉄道廃止に至る可能性が高くなってきました。「JRが黒字企業だから、被災ローカル線は廃止」という構図にも見えてしまいます。なんだか奇妙な話です。

ただ、一番の問題は、総額1,100億円という復旧費用の金額なのでしょう。JRが負担するにしろ、国が負担するにしろ、さすがに高すぎます。冷静に考えれば、1,100億円を投じて赤字ローカル線を作り直すことに、意味を見いだすことは困難です。となると、BRTによる本復旧もやむを得ない、という結論になるのでしょうか。

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