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リニア工事費増で、東海道新幹線値上げ? JR東海、運賃算定方法の見直し求める

当初想定の倍に上振れ

リニア中央新幹線の品川~名古屋間の総工事費が11兆円に膨らむことが明らかになりました。当初想定の倍額で、一企業の投資としては途方もない金額となりました。JR東海は、将来的な東海道新幹線の値上げを示唆しており、利用者の反発を招くかもしれません。

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当初想定の倍額に

JR東海は、2025年10月29日に、リニア中央新幹線の品川~名古屋間の総工事費が、11兆円に上振れする予測を発表しました。従来見込みの7.04兆円から約4兆円も増加します。工事費の上振れは2回目で、当初想定の5.52兆円に比べると、ほぼ倍額に膨らみます。

今回、増額の要因となった項目は、資材や労務費を含む物価高騰の影響が1.3兆円。また、山岳トンネルでもろい地盤の対策が必要になったことなど、難工事への対応が1.2兆円などとなっています。

さらに、今後の物価高騰などにより、工事費の上昇リスクに備えた額として1兆円を計上しました。

中央リニア

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健全経営は維持

JR東海によれば、新たに2.4兆円の資金調達をおこなえば、「健全経営と安定配当」を維持できるとのこと。

ただ、健全経営と安定配当を堅持できない状況も想定しており、その場合は、工事のペースを調整し、十分に経営体力を回復させながら、工事を完成させる方針と説明しました。

開業予定は未定です。今回の試算では開業時期を2035年度としましたが、開業時期の見通しを示したものではなく、試算のための仮定にとどまります。静岡工区のトンネル掘削に着工していないこともあり、開業予定は現時点では見通せないとしています。

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利益の15年分

JR東海の2025年3月期の連結営業利益は7,000億円です。総工事費が11兆円となれば、グループの15年分の利益を投入することになります。当面の財務面で問題がないとしても、トータルでこれだけの費用を投じて大丈夫か、と心配になります。

仮に2035年度に開業できるとしても、近年のインフレをみれば、今後10年で総工事費がさらに上振れする可能性は小さくありません。2035年に開業できなかった場合は、どれほどの負担になるのか、予想は困難です。

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利益率が高く

JR東海は利益率が非常に高い会社です。2024年度決算の営業利益率は38.37%にも達し、JR東日本の13.05%や、JR西日本の10.55%の3~4倍の水準です。これは、東海道新幹線の利益率がきわめて高く、原価率が低いことを意味しています。

一方、鉄道運賃の算定は、総括原価方式でおこなわれます。それゆえに、原価率が低い鉄道会社では運賃値上げがしづらいという事情があります。

インフレが進んだとしても、東海道新幹線の利益率が高すぎるために、JR東海はそう簡単に値上げができないのです。

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値上げ宣言

運賃値上げができないままインフレで工事費が増えれば、リニア建設事業の経営への負担が相対的に重くなっていきます。

そのため、JR東海は、リニアの総工事費増加と工事資金確保の方法とあわせて、「今後インフレの影響を強く受ける場合には、鉄道の運賃・料金への価格転嫁が必要になる」と説明しました。インフレが進めば値上げをするという宣言で、将来的な東海道新幹線の値上げを示唆したと受けとめられます。

値上げに向けて、「インフレによるコスト増を柔軟・簡便に運賃等に反映できるような仕組みづくり」を国などに働きかけていることも明らかにしました。

東海道新幹線は原価率が低すぎて、現行基準ではインフレが進んでも値上げをしづらいので、「柔軟・簡便に」値上げできるよう求めていく、ということです。

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リニアで新幹線値上げ?

現在の総括原価方式で、物価高騰を運賃に転嫁できないのであれば、現行方式に問題があるのは確かでしょう。

ただ、運賃算定方式の問題をリニア工事費の文脈で説明されると、「リニアの建設費が嵩むので、東海道新幹線を値上げする」という印象になってしまいます。実際、そうした側面が強いのも確かでしょう。

そうなると、受け入れがたいと感じる利用者は多いでしょう。リニアの恩恵を将来的に受ける東名阪の新幹線旅客はともかくとして、在来線旅客や静岡県の新幹線旅客が「なぜリニアの工事費を我々が払わなければならないのか」と感じても仕方ないことです。

当然、その程度のことは、JR東海としても想像しているでしょう。それでも、総括原価方式の改定を求めざるを得ないほど、JR東海が危機感を抱いているということです。

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実現可能なのか

リニアはすでに各所で着工しており、工事費が嵩むからといって、事業を中断することは考えにくいです。したがって、品川~名古屋間については、何とか開業にこぎ着けるでしょう。

しかし、その後の名古屋~新大阪間の工事に着手できるかは、不透明感が漂い始めました。

JR東海の丹羽俊介社長は記者会見で、名古屋以西の工事について「できるだけ早期に着手する方針は変わらない」と述べました。既定方針通り、新大阪まで建設するということです。

現時点の発言としては理解できます。ただ、名古屋まで11兆円かかるなら、名古屋~新大阪間でも相応の金額になるのは避けられません。

品川~新大阪間で合計すれば、20兆円級のプロジェクトになるでしょう。本当にそれが実現可能なのか、JR東海も見通しがつかなくなっているのではないでしょうか。(鎌倉淳)

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旅行総合研究所タビリス代表。旅行ブロガー。旅に関するテーマ全般を、事業者側ではなく旅行者側の視点で取材。著書に『鉄道未来年表』(河出書房新社)、『大人のための 青春18きっぷ 観光列車の旅』(河出書房新社)、『死ぬまでに一度は行きたい世界の遺跡』(洋泉社)など。雑誌寄稿多数。連載に「テツ旅、バス旅」(観光経済新聞)。テレビ東京「ローカル路線バス乗り継ぎの旅」ルート検証動画にも出演。