山形県は、「山形新幹線米沢トンネル」(仮称)の事業化に向けた検討会議を設置しました。国交省大臣審議官やJR東日本副社長を委員に据えた重量級会議で、実現に向け整備スキームを検討します。いよいよ事業化が視野に入ってきたようです。
整備スキーム検討会議
山形県の吉村美栄子知事は、2025年9月19日の定例会見で、計画中の「山形新幹線米沢トンネル」の事業化に向けた検討会議を設けたと発表しました。名称は「山形新幹線米沢トンネル(仮称)整備スキーム検討会議」です。
文字通り、米沢トンネルの整備スキームを検討する会議で、整備主体や費用負担、必要な政府の予算や税制、制度の枠組みなどを検討します。2025年10月に第1回会合を開き、2025年度内のとりまとめを目指します。
必要な調査は終了
米沢トンネルは、奥羽本線(山形新幹線)の庭坂~米沢間で計画している、全長23kmの新トンネルです。山形新幹線の安全性の向上や高速化を目的としており、事業費は約2,300億円、工期は着工から19年ほどと見込まれています。
山形県とJR東日本が共同で調査を実施しており、2024年度までに事業化に必要な調査は終了しました。ただ、費用負担を含めた整備スキームについては未決定です。今回の設置された検討会議は、そのスキームを話し合うものです。
重量級のメンバー
注目は、検討会議の構成委員です。東京大学名誉教授の森地茂氏を座長とし、国土交通省の足立基成大臣官房審議官、JR東日本の伊藤敦子副社長、山形県の折原英人副知事が参加します。そのほか、山形県市長会、山形県町村会も委員となります。
森地氏といえば、旧国鉄から大学に転じ土木学会会長まで務めた、土木工学の権威です。国交省の足立大臣官房審議官は局次長級で、職階としては、次官級、局長級に次ぐ3番目です。
JR東日本の伊藤氏は代表権を持つ副社長で、財務部長や経営企画部長を歴任し、グループ経営戦略本部長を兼務しています。そして、山形県は副知事というナンバー2を委員に据えました。
たんなる「検討会」というにはメンバーが重量級です。とくにJR東日本は、伊藤副社長という財務畑の代表取締役を出してきていますので、大きな経営判断をする準備があることを示しています。
事業着手へ
これだけのメンバーを揃えて整備スキームを話し合い、年度内にとりまとめをすると、県知事が記者会見で発表したわけです。となると、よほどのことがない限り、事業着手に至るとみてよさそうです。
記者会見で、とりまとめ後の着工見通しについて問われた知事は「今の時点では申し上げられない」と言葉を濁しました。一方で、「錚々たる関係者の皆様にきていただいていますので、しっかり整備スキームについて前に進めていく」と宣言し、事業化に向けた強い姿勢を強調しました。
福島県関係者は?
気になる点があるとすれば、委員に福島県関係者の名前がなかったことです。
米沢トンネルは福島県と山形県の県境につくられます。したがって、福島県も当事者です。整備スキームという重要事項を話し合うのであれば、福島県の副知事も参加すべきではないか、という気もします。
その会議に参加しないのであれば、福島県は事業そのものに参加しないか、参加する場合でもきわめて小さな負担にとどまることを示唆しているのかも知れません。
「骨太の方針」を持ち出して
仮に福島県が米沢トンネルの事業に参加しないか、参加しても大きな負担をしないのであれば、事業費のうち、「沿線自治体負担分」の多くが山形県にのしかかります。
2,300億円という事業費は巨額で、国やJRが相応の負担をしたとしても、山形県の財政には厳しい金額になりかねません。
記者会見で、吉村知事は「政府は骨太の方針2025で、幹線鉄道の高機能に関する調査や方向性を含めた検討など、幹線鉄道の高機能化を検討する動きがある」とも述べました。
政府の大方針に沿って幹線鉄道の高機能化を進めるのだから、相応の補助スキームを作ってくれと、政府に求めていくのかも知れません。
なんであれ、このメンバーで会議をする以上、ある程度「着地点」は見えているはずで、米沢トンネルの事業化は視野に入ってきたといっていいでしょう。(鎌倉淳)