弘南鉄道大鰐線、なぜ突然「廃止」されるのか。存続方針だったのに

1ヶ月間に何が?

弘南鉄道大鰐線が廃止される見通しとなりました。沿線自治体は支援継続に前向きな姿勢を見せていましたが、一転して、同社が廃止方針を正式に表明しました。背景に何があったのでしょうか。

広告

支援協議会で廃止表明

弘南鉄道は青森県弘前市を起点に弘南線、大鰐線の2路線を持つローカル私鉄です。弘南線は弘前~黒石間16.8kmを結び、大鰐線は中央弘前~大鰐間13.9kmを結びます。

このうち大鰐線について、弘南鉄道の成田敏社長が、2026年度末をメドとして運行を休止し、最終的に廃止する方針を明らかにしました。

方針が明らかにされたのは、2024年11月27日に開かれた、沿線自治体による支援協議会の会議の席上です。沿線自治体も合意し、大鰐線は2026年度末で、事実上廃止される方針が固まりました。

弘南鉄道大鰐線

広告

あり方を協議

弘南鉄道では、弘南線、大鰐線の両線とも利用者の減少が続いていて、2021年度の輸送密度は弘南線が1,897、大鰐線が400です。沿線自治体は2021年度から10年間に渡る長期支援計画を立てていて、両線の運行費や設備投資費を補助してきました。

ただ、利用状況が悪い大鰐線については、2023年度末に経営改善などの状況とその後の見込みを評価したうえで、「2026年度以降のあり方を事業者と協議する」としていました。

要するに、弘南線は2030年度まで支援するが、大鰐線については、2023年度末までに経営改善の見通しが立たない場合、2025年度末での支援打ち切りも視野に入れる、という話になっていたわけです。

弘南鉄道
画像:国土地理院地図を改変

広告

 

「経営改善の見通し」立たず

その2023年度の決算で、大鰐線の赤字は1億3068万円に達し、収支見通しの1億80万円を約3000万円も上回りました。2023年度の利用者は約27万1000人で、ピーク時の1974年度の389万人に比べ、10分の1以下にまで減少していました。

大鰐線は、2023年度に脱線事故を起こしていて、長期間の不通が発生しています。

利用者減少は、その影響があったとはいえ、決算が見通しより悪く、利用状況の低下が深刻化しているのは否めません。

支援継続の条件だった「経営改善の見通し」が立ったとはいえず、大鰐線の存続は厳しい局面を迎えていました。

そうした状況で、弘南鉄道は、「支援を受けても運行継続は困難」として、事実上の廃止方針を明らかにしました。支援の議論に入る前に、廃線の意向を示したことになります。

理由として、「通勤通学の乗客が減り、さまざまな方策を取ってきたものの、増収が見込めない」ことを挙げています。

広告

支援継続の方向性だったが

大鰐線沿線の基礎自治体は弘前市と大鰐町のみです。大鰐線の支援をめぐっては、2024年6月に弘前市長と大鰐町長が会談し、支援継続の方向性で一致していました。

その理由は、バス運転士不足です。鉄道を廃線にして代替バスを運行しようとすると、運転士不足から、他の路線バスの削減を招いてしまいかねないからです。

それを避けるため、沿線自治体としては大鰐線支援の継続という判断に傾いていました。にもかかわらず、鉄道会社が白旗を掲げてしまった形です。

こうした状況から、大鰐線の廃止発表は、意外感を以て受けとめられました。

広告

計画案は提示されたが

自治体が支援の意向を示しているにもかかわらず、弘南鉄道は、なぜ大鰐線の廃止方針を示したのでしょうか。

じつは、弘南鉄道は、弘前市と大鰐町に対し、10月までに、新たな中長期計画案を提示しています。その内容は明らかになっていませんが、計画案の提示を受けて、10月31日に弘前市長と大鰐町長が協議をしたと報じられています。

その際、市長と町長は、「収支改善のための利用促進策が不十分」という認識で一致し、弘南鉄道に伝えました。弘南鉄道が提示した計画案に不満を示し、さらなる企業努力を求めたわけです。

ただし、両市町としては、この時点でも支援継続の姿勢を打ち出していて、収支が改善される内容であれば大鰐線は存続できる、との考え方を示していました。

実際、弘前市の桜田宏市長は、10月31日の協議後に、「観光客の利用を増やしていくということも存続に対しては必要なことですので、そこを今現在、詰めているところ」と述べていました。存続を前提とした発言です。

広告

1ヶ月後の廃線表明

ところが、その約1ヶ月後に、弘南鉄道の社長が、増収の展望が描けないことを理由に、廃線方針を正式表明したのです。

この一ヶ月間に、両市町と弘南鉄道にどのようなやりとりがあったのか、外部からはわかりません。

外部からわかる範囲で推測すると、自治体としては、過去の経緯から、支援継続には「経営改善の見通し」の提示を条件にせざるを得ません。そのため、より具体的な利用促進策を、弘南鉄道に求めたのでしょう。

これに対し、弘南鉄道としては、自治体が求めるような経営改善策は作れない、と音を上げてしまったようにみえます。

もちろん、自治体に何の根回しもなく、会議当日に突然、廃止宣言をしたのではないでしょうから、事前に伝えてはいるのでしょう。しかし、外部からは、唐突感のある廃線発表にみえてしまいました。

広告

人口減少が厳しく

国立社会保障・人口問題研究所によると、弘前市の生産年齢人口は2020年が96,631人で、2040年に64,767人になると予測しています。大鰐町は、4,262人が2,003人になると予測しています。

両市町合計で2020年に100,893人だったところ、2040年に66,770人になるわけです。20年間で30%以上が減少する見通しで、しかも、それで下げ止まることはありません。

青森県は、全国的にみても、人口減少が激しい地域です。そうしたなか、利用促進策を打ち出したところで、効果は限られるでしょう。

現状の輸送密度が400人程度ならば、2040年には200人台に落ち込むと考えるのが妥当で、収支改善の見通しを示すのは困難です。

大鰐線生産年齢人口
データ:国立社会保障・人口問題研究所
広告

人手不足も深刻で

いっぽうで、鉄道設備の老朽化は進んでいます。また、人手不足も深刻です。

大鰐線は2023年に脱線事故を起こし、国交省から改善指示を受けました。

その指示内容には、「レール摩耗検査の判定が適切に行われていない」「レール遊間検査の結果に基づく必要な整備が行われていない」といった、深刻な状況が記されていて、保線技術を有する人員が不足していることがうかがえます。

指示を受け、弘南鉄道では、JR東日本に技術支援を仰ぎ、検査や修繕の指導を受ける協定を締結しています。

筆者の推測ですが、こうした状況で赤字補填を続けてもらったところで、鉄道設備を安全に維持できるか不安があると、会社側が判断した側面もありそうです。

比較的利用者が多い弘南線に経営資源を集中しなければ、その維持管理にすら手が回らなくなる可能性があったのかもしれません。

広告

JR奥羽線が並行

大鰐線にはJR奥羽線が並行して走っています。奥羽線の大館~弘前間の輸送密度は948(2023年度)です。大鰐温泉~弘前間に限れば、もっと高いでしょう。貨物列車も通る重要区間で、廃止が検討されるおそれはありません。

JRなら、大鰐温泉~弘前間は12分。弘南鉄道の大鰐~中央弘前間は34分です。所要時間では比較になりません。実際に乗ってみても、JRは行き届いた保線で揺れも少なく快適ですが、大鰐線はがたがたと揺れて、お世辞にも乗り心地がいいとはいえません。

大鰐線の起点の中央弘前駅周辺は、昭和時代までは弘前市の中心部でしたが、令和の時代は必ずしもそうではなくなっています。交通の要衝はJR弘前駅近辺になっていて、この点からも、大鰐線の存在価値は低下しています。

利用者の少なさと、人口減少、並行するJR線の存在を考えれば、これ以上、赤字補填に税金を費やすよりは、「次のステージ」に進むという判断に、十分な合理性があります。

それが弘南鉄道の結論だとすれば、尊重に値しますし、だからこそ、弘前市や大鰐町も合意したのでしょう。

広告

なぜ「休止」なのか

「廃止」ではなく「休止」とした理由については、財産処分の問題と報じられています。手続き上の理由で休止から廃止へと段階を踏むだけのことで、2026年度末、つまり、2027年3月末が、事実上の廃止予定日といえます。

廃止まで3年間の余裕を持たせるのは、2025年春入学の高校生が卒業できるまでは、運転するということでしょう。

大鰐線の開業は1952年。開業から75年を以て、その姿を消すことになります。刀尽き、矢折れた印象で、ここまでよく持ちこたえたと敬意を表するほかありません。(鎌倉淳)

広告