輸送密度100未満のローカル線、8割で「あり方」協議。県境区間に苦慮

輸送密度ランキング2024年版

JR各社が各線区の2023年度の輸送密度を公表しました。輸送密度が100未満のローカル線は、全部で12線区です。うち廃止されたのは1線区。残る11線区でも、8割で「あり方」に関する協議の動きがあります。

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2023年度輸送密度を公表

JR北海道、JR東日本、JR西日本、JR四国、JR九州は、11月8日までに2023年度(2024年3月期)の各線区の輸送密度(平均通過人員)を公表しました。

このうち、輸送密度100人未満は全部で12線区です。表にしてまとめてみましょう。(配信先で表が崩れる場合は、こちらでご覧ください)。

輸送密度100未満の線区全リスト
順位 会社名 路線名 区間 輸送密度(人キロ)
23年度 22年度 増減率
1 西 芸備線 東城~備後落合 20 20 0%
2 陸羽東線 鳴子温泉~最上 51 44 16%
3 津軽線 中小国~三厩 61 80 -24%
4 花輪線 荒屋新町~鹿角花輪 62 55 13%
5 久留里線 久留里~上総亀山 64 54 19%
6 山田線 上米内~宮古 71 64 11%
7 西 木次線 出雲横田~備後落合 72 54 33%
8 根室線 富良野~新得 80 53 51%
9 飯山線 戸狩野沢温泉~津南 84 76 11%
10 米坂線 小国~坂町 86 105 -18%
11 西 芸備線 備後落合~備後庄原 86 75 15%
12 西 芸備線 備中神代~東城 88 89 -1%
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芸備線が2年連続の「20」

JR5社が公表した線区別輸送密度で、最も数字が悪かったのが、芸備線東城~備後落合間の20です。前年度と同じ数字で、増減はありません。一時期は1桁でしたので、それよりは回復しましたが、非常に厳しい数字であることに変わりありません。

芸備線では、すでに備中神代~備後庄原間で再構築協議が開始されています。再構築協議には3年という期間のメドがありますので、2027年ごろまでには一定の方向性が示される予定です。

芸備線

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陸羽東線が51

つづいて、陸羽東線の鳴子温泉~最上間が51でワースト2位。陸羽東線は古川~鳴子温泉間が726とまずまずですが、鳴子温泉~最上間は県境区間ということもあり、利用者が激減します。最上~新庄間も229と高くはありません。

古川~鳴子温泉間の利用者が多いので、陸羽東線全体が廃止されることはなさそうですが、鳴子温泉~新庄間は厳しい数字です。

新庄~余目間を結ぶ陸羽西線とあわせて、東北線と奥羽・羽越線をつなぐ役回りもありますが、その陸羽西線の輸送密度も129と、利用者が少ない状況です。

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津軽線は廃止が決定

ワースト3位には津軽線中小国~三厩間が入りました。前年度比24%減の61です。ただし、この区間は2022年夏の豪雨で被災して、バスによる代行輸送を行っていますので、いわば参考値です。

津軽線は、JR東日本が復旧に難色を示し、自動車交通への転換を提案。地元自治体がこれを受け入れ、廃止が事実上決定しています。

花輪線は全線運転再開

ワースト4位が花輪線荒屋新町~鹿角花輪間。ここも県境区間で、62と低い数字になっています。

花輪線は好摩~荒屋新町間が352、鹿角花輪~大館間が441で、全線通じて296と厳しいですが、いまのところ、あり方に関する協議は伝えられていません。

2022年8月の豪雨で鹿角花輪~大館間が長期運休となったものの復旧し、全線で運転を再開しています。

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久留里線も廃線見通し

ワースト5位は久留里線の久留里~上総亀山間です。JR東日本が協議を申し入れ、地元自治体の検討会が自動車交通への転換という方向性を示しました。

そのため、この区間は、遠からず廃線になる見通しです。

山田線はバス共同経営へ

ワースト6位は山田線上米内~宮古間の71です。上米内は盛岡市郊外ですので、郊外部以外はほぼ全線に渡って利用者が少ない状況が続いています。盛岡~上米内間も227と決して高い数字ではありません。

盛岡~宮古間には都市間輸送の需要がありますが、その役割は並走する「106バス」に譲っています。JR東日本では、「106バス」を運行する岩手県北バスと連携し、山田線の乗車券で急行バスに乗れる実証実験を2024年4月から行っています。

2025年4月からは、盛岡~宮古間で正式に共同経営に移行する予定です。ただし、期間は5年間と限定されていて、5年後にどういう判断になるかは見通せません。

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木次線も「あり方」協議へ

ワースト7位は木次線出雲横田~備後落合間の72。同区間については、JR西日本の山陰支社が「あり方」に関する協議を求める意向を自治体に伝えています。

JR西日本が意向を表明したのが2024年5月で、支社長が7月までに関係自治体の訪問を終えたという報道がありました。

その後、具体的な動きは伝わっていませんが、近い将来に、何らかの協議がおこなわれる可能性が高いでしょう。

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根室線は大幅増で廃止

ワースト8位は根室線富良野~新得間の80です。同区間は2016年の台風で被災し、一部区間が運休。復旧しないまま、2024年3月に廃止されています。

2022年度の輸送密度が53でワースト3位でしたが、「さよなら乗車ブーム」の追い風か、80まで数字を上げて廃線となりました。

ただ、「さよなら乗車」で全国からファンが押しかけてもこの数字、と捉えることもできます。一方、鉄道ファンはフリーきっぷで乗車しますので、輸送密度にきちんと反映されていないのではないか、という疑問もあります。

フリーきっぷ利用者の実態は?

鉄道ファンによる「乗りつぶし」が、ローカル線の利用者をどの程度押し上げるのか、というのは、昔からある議論です。

根室線富良野~新得間の80という数字は、鉄道ファンによる誘客効果に限界があることを示しています。一方で、本当に利用者を数えたら、もう少し高い数字になるのではないか、という指摘もあります。

フリーきっぷの収益は各線に配分される仕組みですが、フリーきっぷ利用者の多いローカル線の輸送密度が、実態から離れている印象もぬぐえません。

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米坂線は長期運休中

ワースト9位は、飯山線戸狩野沢温泉~津南間の84。飯山線は、これまであまり「あり方」に関する議論は聞かれませんが、かなり厳しい数字です。

ワースト10位は、米坂線小国~坂町間の86。米坂線は2022年8月の豪雨で被災し、今泉~坂町間で運休が続いています。そのため、この輸送密度は代行バスによる数字で、参考値です。

JR東日本は、単独での復旧に難色を示していて、沿線自治体と復旧と「あり方」の協議がおこなわれています。

このほか、芸備線備後落合~備後庄原間の86、同備中神代~東城間の88までが、輸送密度100未満の区間です。

全部で12線区

輸送密度100未満の区間は全国で12線区あります。JR東海は未発表ですが、2021年度の鉄道統計年報によれば、同社でもっとも輸送密度が低い名松線は195で、100を割っていることはなさそうです。

12線区のうち、廃止されたのは根室線の1区間。事実上廃止に同意しているのが、久留里線と津軽線の計2区間、再構築協議に入っているのが芸備線の3区間です。

バスとの共同運行に踏み切ったのが山田線の1区間、被災で復旧が見通せないのが米坂線の1区間、JRが協議を申し入れたのが木次線の1区間です。

現在も運行している11線区のうち、8線区で、「あり方」に関わる協議がおこなわれているか、おこなわれようとしています。8割以上の割合です。

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県境線区が残された

目立った動きが見られないのが、陸羽東線、花輪線、飯山線の3線区です。これら3線区は、いずれも幹線をつなぐローカル線の県境区間で、JR東日本に属します。

輸送密度100をわずかに上回る区間でも、こうした県境路線は多くあります。たとえば、北上線ほっとゆだ~横手間は101、磐越西線野沢~津川間は102です。

県境区間は利用者が少ないとはいえ、幹線を連絡するネットワークを構成します。その真ん中だけを廃止するとなると大きな議論になりますし、幹線に接する「根元区間」では、それなりに利用者がいますので、全体を廃止するわけにもいきません。

扱いに苦慮しているが

県境区間が議論から取り残されている点からみて、JR東日本として、その扱いに苦慮している様子がうかがえます。

とはいえ、11ある「100未満の路線」のうち9線区で「あり方」に関する議論が始まっている現状をみると、いずれ、JR東日本でも、県境ローカル線の扱いに「決断」を下さざるを得ないでしょう。そう考えると、いつ、議論が始まってもおかしくはなさそうです。(鎌倉淳)

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