埼玉高速鉄道、岩槻延伸開業はいつになる? 建設費大幅増で難局に

5割増しに

埼玉高速鉄道の岩槻延伸計画について、さいたま市は2023年度中の事業化要請を延期しました。建設費の大幅増などが理由です。延伸計画は難局にさしかかりましたが、実現できるのでしょうか。今後の見通しをみてみましょう。

広告

さいたま市長が延期表明

埼玉高速鉄道は、赤羽岩淵~浦和美園間14.6kmを結ぶ第三セクター鉄道です。岩槻を経て蓮田まで延伸する計画があり、このうち浦和美園~岩槻間7.2kmについて、早期の事業化を目指しています。

さいたま市の清水勇人市長は、2021年に市議会で「2023年度中の事業化要請を目指す」と表明。事業化に向けた準備をすすめてきました。

ところが、2023年度末が迫った2024年1月24日の市議会地下鉄7号線延伸事業特別委員会で、概算建設費が大幅に増えることが明らかになりました。これを受け、清水市長は事業化要請の延期を表明。延伸実現が遠のきました。

埼玉高速鉄道
画像:埼玉県
広告

途中2駅を設ける計画

埼玉高速鉄道の岩槻延伸については、2018年の「地下鉄7号線延伸協議会報告書」で、概要が示されています。

それによると、浦和美園~岩槻間に、さいたまスタジアム前と中間駅の2駅を設け、概算建設費は860億円と見積もられています。キロ当たり119億円です。

埼玉高速鉄道延伸
画像:さいたま市
広告

「速達性向上計画」のための調査

さいたま市では、建設に際し、都市鉄道等利便増進法に基づく「速達性向上事業」として国の補助を要請する方針を示しています。補助が得られれば、国が建設費の3分の1を負担するため、沿線自治体の負担は3分の1に軽減されます。

同法の補助を得るには、「速達性向上事業計画」の策定が必要で、さいたま市では事業化要請に先立ち、その素案の作成をおこなっています。

素案の作成を終えた後、鉄道事業者に事業化の要請をおこない、受諾した事業者が国に事業認定を申請するという流れです。

埼玉高速鉄道事業化フロー
画像:さいたま市
広告

不確定要素がある

「速達性向上計画」には、概算事業費や工期などを精査して記載する必要があります。そのため、さいたま市では、鉄道運輸・施設整備支援機構(鉄道・運輸機構)に精査を委託。2023年9月までを調査期限としていました。

ところが、鉄道・運輸機構は計画内容に「不確定要素がある」と指摘。「不確定要素がある場合には、その分のリスクを安全側に見込んだ算定にならざるを得ない」として、概算事業費が高額になる見通しを伝えました。

これに対し、さいたま市は調査委託期間を24年1月末までに延期し、追加調査を依頼していました。その結果がまとまり、2024年1月24日の市議会で報告されたのです。

広告

概算事業費が5割増

報告によれば、概算建設費は、2018年試算の860億円から440億円も増え、1300億円となります。約5割の増加です。この金額は2022年4月の価格を基準として、利息や建設期間中の物価変動は考慮していません。

工事費のうち、増加の割合が高いのが高架橋やトンネルなどの土木費。380億円が620億円となり、約6割も増えています。また、軌道や電気工事を含む設備費は230億が350億円となり、約5割増えています。

埼玉高速鉄道延伸
画像:さいたま市

概算建設費の変動要因でもっとも大きいのが、建設内容の見直しや設計変更です。高架橋の杭基礎の見直し、橋梁構造の変更、 トンネル躯体寸法の見直し、岩槻駅の建設計画変更などにより、210億円も増えることとなりました。増加額440億円に占める割合は48%です。

また、人件費増や資材価格増の、いわゆる社会的要因は150億円で、増加額に占める割合は34%。働き方改革や耐震基準の改定といった法令変更による増額は約55億円で、13%を占めます。

一方で、高架橋の構造変更や埼玉スタジアム駅の配置計画変更などで、約70億円のコストを縮減しています。

埼玉高速鉄道
画像:さいたま市
広告

自治体負担は430億円に

総額として860億円が1300億円に増えたことで、都市鉄道等利便増進法の適用を前提とした場合に、沿線自治体の負担は約290億円から約430億円となります。

また、概算工期に関しては、これまで7年とされていたところ、昨今の人手不足が今後も恒常的に継続すると仮定した場合、18年程度となるとしました。

技術支援を要請

こうした調査結果をうけ、さいたま市では、整備計画、収支計画、運行計画について、「課題解決」が必要としました。

具体的には、施工方法の再検討や、将来の物価上昇に見合う運賃改定率の設定、自動運転技術の導入に関する検討などです。

こうした検討には専門的な情報や知見が必要です。そのため、さいたま市では、鉄道・運輸機構と埼玉高速鉄道に対し「技術的な協力・支援」を要請します。

要請内容は「整備計画、収支計画、運行計画等の深度化に向けて、鉄道事業者が有する最新かつ専門的な情報・知見に基づく技術的な協力・支援」としています。

要は、将来の社会状況や建設技術・運行技術の進歩を見込んで、建設費圧縮や工期短縮方法のアドバイスを、鉄道・運輸機構と埼玉高速鉄道に求めた形です。

本来の手順でいえば事業化要請後に調査する内容を、その前におこなうことになります。鉄道・運輸機構と埼玉高速鉄道は2月2日までに要請を受諾しています。

埼玉高速鉄道延伸フロー
画像:さいたま市
広告

蓮田延伸を断念も

今回示された報告書の重要な指摘として、「蓮田までの延伸を考慮した構造物の再検討(中略)により、概算建設費の低減や概算工期の短縮の余地がある」という一文があります。

これは、岩槻駅の構造を「蓮田延伸」を考慮しない形にすれば、少し安く、早く建設できることを示唆しています。

岩槻駅は地下に建設する計画です。「蓮田までの延伸を考慮」しない形が何を指すのかは定かではありませんが、たとえばコンコース階を省略するために頭端式にするといったことであれば、蓮田延伸を永遠に断念することになります。

もともと、蓮田延伸は採算性で難があり、実現は難しいと見られています。実現性の低い延伸構想を「やめる」と決め、建設費を圧縮する判断は合理的といえます。ただし、市長が政治的にそれを決断できるのかは、また別の話です。

広告

開業は2040年代に?

さいたま市は、岩槻までの延伸計画については諦めておらず、計画を練り直して、事業化要請を目指します。ただし、その時期は未定です。

従来見通しの工期7年の場合、2023年度中に事業化要請をすれば、環境アセスなどを含めて、2030年代半ばに開業できる計算でした。しかし、概算工期が11年増えるとなると、早くても2040年代半ばになります。事業化決定に手間取れば、さらに後ろ倒しになる可能性もあります。

一方、計画を強く推進してきた清水市長の任期は2025年5月までです。市長は4期目であり、任期内にメドを付けてしまいたいところでしょう。となると、残された期間はあと1年程度です。

それまでに建設費と工期の圧縮案をまとめあげ、事業化要請を実現できれるかが、当面のカギとなるでしょう。その場合でも、2030年代の開業は難しそうで、実現する場合でも、早くて2040年代前半になりそうです。(鎌倉淳)

広告