交通政策審議会の地域公共交通部会が、赤字ローカル線を含めた地域公共交通の再構築を促す施策の草案を示しました。ローカル線の上下分離を支援し、自治体が公共交通の維持とまちづくりとを一体的に進めやすくします。
2つの提言を受けて
国土交通省では、赤字ローカル線問題を議論する「鉄道事業者と地域の協働による地域モビリティの刷新に関する検討会」が、2022年7月に提言を取りまとめました。また、地域交通の再構築を議論する「アフターコロナに向けた地域交通の『リ・デザイン』有識者検討会」が、2022年8月に提言を取りまとめました。
これら二つの提言を受けて、制度の具体化を審議する場が、交通政策審議会交通体系分科会地域公共交通部会です。11月18日に開催された会合では、地域公共交通の再構築に向けた施策の草案(たたき台)が示されました。
事業者間・分野間共創
草案では、「事業者間・分野間共創」「官民連携」「交通DX・GX」の3つが柱として掲げられました。
「事業者間・分野間共創」では、医療、介護、観光など、分野の垣根を越えた多様な地域関係者が「共創」して、交通と地域の課題を同時解決するプロジェクトに対して支援します。
貨客混載などがわかりすい例ですが、医療と交通をセットで支援する、子どもの習いごとの送迎サービスに公共交通を組み合わせる、といったことも含まれます。
そのために、事業者間でのリソースシェアのしくみや、タクシーと自家用有償旅客運送(市町村やNPOによる有償運送)の活用のしくみなどを検討します。独禁法特例法の活用も促進します。
官民連携
「官民連携」では、長期民託(エリア一括長期運行委託)に対する支援をおこないます。
エリア一括長期運行委託は、地域公共交通政策の新たな施策です。これまでは、鉄道やバスなどを路線ごとに支援してきましたが、今後は公共交通をエリア全体で支援する形態に軸足を移します。具体的には、エリア全体で交通改善を促す予算を創設し、インセンティブ付与により事業者の参入を促進します。
重要になるのが、地域公共交通計画です。これを立地適正化計画と連携させる取り組みを推進します。公共交通政策とまちづくり政策とを融合させることを意味し、それぞれの予算による事業を連携させていきます。
上下分離を推進
公共交通事業の資産保有に取り組む自治体に対しても支援を強化します。端的には、鉄道の上下分離を支援する施策です。上下分離により自治体が負担をして鉄道を維持する場合、まちづくりと連携した予算で支援します。
具体的には、まちづくりに関係する社会資本整備総合交付金を、鉄道の上下分離にかかる費用に活用できるようにするようです。ただし、必ずしも鉄道の維持を推進するしくみではなく、バス転換時に必要な社会資本の整備費用も同交付金でまかなえるようにします。
ローカル線の扱い
ローカル線については、広域的な性格を持つ路線について、必要な場合には、国の関与を強化し、事業者と自治体間の連携・協力を促進します。
これは、「地域モビリティの刷新に関する検討会」の提言で、輸送密度1,000人未満の路線について、国が「特定線区再構築協議会(仮称)」を設置できる方針を示したことを受けたものです。
ローカル線の再構築に向けた鉄道事業者と沿線自治体の協議の場の設置し、関係者の合意形成のための支援を行うとともに、合意に基づく規制・運用を緩和します。
ローカル線の扱いについてまとめると、鉄道を地域の社会資本と位置づけ、上下分離を実施し、まちづくりと連携し、真剣に路線維持に取り組む自治体に対しては、支援を強化するということです。
逆にいえば、自治体が負担をしない場合、赤字ローカル線の維持は難しくなりそうです。
交通DX・GX
「交通DX・GX」とは、交通事業におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)、脱炭素化に向けたGX(グリーントランスフォーメーション)の推進による、経営効率化や持続可能性の向上を意味します。
ややわかりにくいですが、DX化の例としては、広域連携や分野間共創のためのMaaSの実装、AIオンデマンド交通、GTFS(標準的なバス情報フォーマット)によるバス情報標準化、運行管理システム・配車アプリの導入、自動運転などが含まれます。
GX化の例としては、EVバス・タクシー導入、太陽光パネル設置、蓄電池・充電設備の共同利用などがあります。こうした取り組みを推進します。
審議会では、今回の草案を基に、2023年1月に中間取りまとめを公表する予定です。国交省は2023年度予算案に関連経費の計上を目指します。(鎌倉淳)