JR北海道は、トマム駅において「QRコード」で乗車駅証明書を発行するサービスを始めました。JR旅客会社では初めての試みですが、他にも広まるのでしょうか。
専用サイトにアクセス
JR北海道が導入するのは、乗車時にスマートフォンで専用サイトにアクセスすることで、「QRコード」による乗車駅証明書を発行するサービスです。
具体的な利用方法としては、利用者は乗車時にトマム駅のポスターや乗車位置案内モニターに表示されているQRコードを読み取って専用ウェブサイトにアクセスします。専用ウェブサイトのアクセスには位置情報が必要で、トマム以外で乗車駅証明書を発行することはできません。
人数と行き先を入力すると、メールにてQRコード乗車駅証明書が発行されます。メールでなく、画面のスクリーンショットでも証明書として使えます。
QRコードを取得した利用者は、特急列車の自由席に乗車し、車内改札時は車掌にQRコード乗車駅証明書を提示します。きっぷを車内で購入する必要はありません。
降車時に、精算機にQRコード乗車駅証明書をかざし、画面の案内に沿ってきっぷを購入し、改札口から出場します。
精算時に利用できるのはオレンジ色の多言語対応精算機で、「トマム駅専用清算QRコード」のボタンを押し、QRコードをかざします。
現金またはクレジットカードでの精算が可能です。出てきた2枚のきっぷを改札機に通して出場します。
専用精算機が置かれているのは、札幌駅、南千歳駅、新千歳空港駅です。札幌駅や南千歳駅では、乗り換えの精算にも対応します。帯広・釧路方面に向かうときは、このサービスは使えません。
外国人利用者増加で
このサービスを導入する背景として、トマム駅の外国人利用者の増加が挙げられます。コロナ禍が広まる前、インバウンドの隆盛でトマムリゾートを訪れる外国人客が増加。しかし、トマムリゾートではJRきっぷの販売をしておらず、トマム駅も無人駅であることから、きっぷを持たない外国人への販売は、乗車した列車の車掌が行っています。
その場合、外国語での対応が必要になりますし、利用客が多いときには車掌の手が回りません。乗車駅証明書を発行すれば、車掌が対応できなくても下車駅で精算しやすくなりますし、自動精算機での精算ができれば、下車駅の係員の負担軽減にもなります。
維持コスト不要
このサービスの長所は、JRとしてはトマム駅にポスターを貼っておくだけなので、維持の手間がほとんどかからない、という点でしょう。トマム駅に機械を置いておく必要がないので、故障が起こりませんし、券売機のお金の管理や、証明書発券機の紙の補充の必要もありません。
トマムは最低気温がマイナス20度以下になることもある極寒の地です。しかも、隣の占冠駅まで21km、新得駅まで33kmも離れている孤立した駅です。そうした駅だからこそ、メンテナンス不要は重要です。
到着時に精算機を利用してもらえれば、人件費負担も小さいでしょう。ホテルなどできっぷを委託販売してもらう際の手数料もかかりません。
利用者のメリットは?
利用者からみるとどうでしょうか。まず、外国人旅行者の立場でみると、専用サイトは多言語対応なので、安心感があるでしょう。日本の鉄道事情を知らない旅行者の場合、きっぷを持たずに列車に乗ってしまうことへの不安感もあるでしょうが、それが解消されます。
日本人の立場としては、無人駅から乗車しても、クレジットカードで精算できることがメリットでしょうか。
ただ、列車の乗り方を理解している日本人なら、こんなめんどくさいサービスを使うより、これまで通りの利用方法で、車内で車掌から現金できっぷを買うことを選ぶのではないか、とも思います。
JR北海道としても、QRコード乗車駅証明書の利用を推奨しているわけではなく、各地からトマム駅へ行く場合、帰りのきっぷを同時に購入することを勧めています。その場合、このサービスを使用する必要はありません。
トラベルセンター閉鎖で
トマム発のきっぷについては、以前は、トマム駅近くの「トマムトラベルセンター」で販売していました。しかし、2015年にトラベルセンターが閉鎖。トマム駅周辺で、JRのきっぷを購入することができなくなりました。駅周辺にきっぷの委託販売ができるような商店もありません。
QRコード乗車駅証明書は、そうした事情で導入となったとみられます。ただ、上述の通り、面倒に感じる部分もあり、中途半端なサービスとの感をぬぐえません。スマホで専用サイトにアクセスさせるなら、そこでチケットを売ってくれ、と思う旅行者が多いのではないでしょうか。
理想を言えば
実際のところ、理想はチケットレスで乗車できるシステムを整えることでしょう。現状では、JR北海道の特急列車は、インターネット予約サイト「えきねっと」できっぷ購入ができるものの、きっぷを受け取れる駅が限られます。無人駅で指定席券売機もないトマム駅では、えきねっとで購入したきっぷを受け取れないのです。
しかし、チケットレスサービスを導入し、チケットデータをQRコードで表示できれば、きっぷ受け取りの問題は解決します。トマム駅に到着した旅行者は、えきねっとに接続し、きっぷを購入して、QRコードを表示し乗車すればいいので、こうした精算サービスは不要になります。
東海道・山陽新幹線では、2021年春から訪日外国人向けにQRコードによるチケットレス乗車サービスを導入します。JR北海道の在来線で導入するには、QRコードの読み取り端末を車掌が装備しないといけないといったハードルがありますが、将来的には利用可能になるのではないでしょうか。
と考えると、「QRコード乗車駅証明書」サービスは、チケットレスサービスが展開されるまでの一時的な措置、とみたほうがよさそうに思えます。
当面は有効
とはいえ、ターミナル駅で精算機を用意してしまえば、無人駅側の導入コストは低いので、当面の策としては有効です。
とくに、特急列車のワンマン化に資する策にも思えます。トマムのような特異な駅でなくても、たとえば宗谷線や石北線の末端部のような、利用者が少ない区間で特急列車での車掌削減を検討しているなら、QRコード乗車駅証明書は一つの方法にも思えます。
精算機の表示画面に、「QRコード」が大きく描かれていることから見ても、JR北海道のやる気を感じます。いっそうの経費削減を国交省から求められていることもあり、他駅でも広まる可能性はありそうです。