黒部峡谷鉄道の先の上部軌道に乗れる! 「黒部ルート」受け入れ拡大へ。

3~5年後に実現か

黒部峡谷鉄道の欅平より先、黒部ダム方面に抜けるルートの受け入れ拡大が検討されていることがわかりました。富山県と関西電力が協議中です。

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知られざるルート

黒部観光といえば、立山黒部アルペンルートが有名です。ロープウェイ、ケーブルカー、トロリーバスなどを乗り継いで、富山県の立山から黒部ダムを経て、長野県の信濃大町に至るルートです。北アルプスを横断する、世界的にみても大規模な山岳観光コースとして知られてきました。

しかし、実は黒部ダムに至る道筋は、もう一つあります。宇奈月から欅平を経て黒部ダムへ至る「黒部ルート」です。

宇奈月~欅平間のうち、現時点で一般開放されているのは、宇奈月温泉から欅平まで。この区間は、黒部観光鉄道で乗車できます。

その先、欅平駅から黒部峡谷鉄道の工事用線(下部軌道)、竪坑エレベーター、関西電力黒部専用鉄道(上部軌道・地下トロッコ列車)、インクライン(ケーブルカー)、専用地下道バスを乗り継いで、黒部ダムまで、18kmに及ぶ地下ルートがあります。これが「黒部ルート」です。

黒部ルート案内図

黒部ルートの乗り物たち

黒部ルートの乗り物たちをご紹介しましょう。

黒部峡谷鉄道の工事線(下部軌道)。

下部軌道

竪坑エレベーター。

竪坑エレベーター

関西電力黒部専用鉄道(上部軌道)。

上部軌道

インクライン。

インクライン
インクライン

専用地下道バス。

専用地下道バス

途中には、有名な黒部川第四発電所もあります。

黒部川第四発電所

終点、黒部ダム。

黒部ダム

いろんな乗り物に乗り込んで、地底深く突き進み、発電所を経て、最後は黒部ダムに到着するというダイナミックな道のりなのですが、このルートは一般非公開。発電施設を管理する関西電力の物資輸送専用ルートとして利用されているだけです。

1996年から公募見学会

かつては完全非公開でしたが、1996年に関西電力が公募見学会を定期的に開催するようになっています。背景として、ダムの排砂が社会問題となり、地元への見返りの意味もあったようです。

それ以来、関西電力では、「黒部ルート見学会」として、平日のみ1日60人、年間34日間で2,040人を受け入れています。参加は抽選で決められ、2018年の応募倍率は1.8~9.5倍。平均すると4倍程度だそうです。

地元では見学会の参加者受け入れ拡大を長年求めてきましたが、関電では、保安上の問題などを挙げて、後ろ向きでした。

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富山県と関西電力が最終調整

ところが、風向きが変わり始めたようです。読売新聞2018年8月22日付けによりますと、黒部ダムの着工時、国は「竣工後は公衆の利用に供する」ことを条件に工事を許可した経緯があり、富山県は「これを根拠に昨年から関電との本格的な交渉を始めた」とのこと。

また、北日本新聞23日付けは、富山県と関電は「受け入れ人数や料金設定などを協議し、土日を含めて有料で開放する方向で交渉を重ねている」と報道。「関電は実現には最低3~5年の安全対策工事が必要と主張」しているとのことで、すでに受け入れ拡大の方針は固まり、条件や時期の最終調整に入っていることをうかがわせました。

富山県と関電の昨年来の交渉は、すでに報じられてきたことですが、石井隆一富山県知事も22日の会見で「何としても理解してもらわなければいけないと思い、努力している」と交渉が大詰めを迎えていることを示唆しています。となると、受け入れ拡大の可能性が高まっているのは間違いないようです。

法令に適合しない

とはいえ、課題も多そうです。なによりも、黒部ルートは設備が貧弱で、一般公開するには法令の基準を満たすのが困難という問題があります。

これまでは無料の「見学会」という体裁だったので、法令上の制限は緩かったのですが、有料公開となると話が違ってきます。

上部専用鉄道とインクラインを鉄道事業として経営し、黒部トンネルをバス事業とする場合は、鉄道営業法や鉄道事業法、道路法、道路運送法などの法律がかかわってきます。しかし、現状の施設は、これら法令の基準を満たしていません。

北日本新聞の「立山・黒部 世界へ発信」という連載記事では、「上部軌道部分はトンネルの大きさが鉄道事業法に定めた基準(高さ3.7メートル、幅3メートル)より狭く、インクラインは避難用通路の幅が狭いうえ、途中に踊り場がなく転落の危険性が大きい。黒部トンネルは、道路運送法で定める待避所や消火設備、避難誘導設備が十分でないなどの問題点がある」と指摘しています。

黒部上部軌道
黒部専用道路

さらに、「法令に合わせて旅客を輸送するには、設備を抜本的に改修しなければならないが、上部軌道が運行するトンネルの拡大だけでも数百億円の巨額な投資が必要になる」「オーストリアの山岳ケーブルが火災を起こし、邦人10人を含む155人の死者を出した事故は、トンネル内に消火設備や避難通路などがなかったため、大惨事になったとされる」とも付け加えています。

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乏しい輸送能力

輸送能力が低いという問題もあります。

上部軌道の運転本数は、時刻表を見た限りでは1日6往復の設定にすぎません。単線で交換設備も限られますから、運転本数を増やすにしても限度があります。車庫の問題もあり、旅客用の車両の増備すら簡単ではないでしょう。

また、途中のインクラインの所要時間は20分ほどで、折り返し時間を勘定に入れれば、毎時2本程度しか運転できません。定員が少ないケーブルカーですし、受け入れ拡大するには輸送力が貧弱に感じられます。

いまさら、トンネルを掘り直すわけにもいかないでしょうし、設備の大幅改善も難しいでしょう。鉄道やバス事業にならない範囲で、どう受け入れ数を増やすのか。それを含めて協議中ということなのでしょう。

毎日開放で受け入れ拡大も

ただ、現状の設備でも、ある程度の受け入れ拡大は可能です。「見学会」では各回60人に年間34日間開放しているだけですが、これをシーズン中(5~11月)に毎日開放にするだけでも5~6倍程度に受け入れを増やせます。

発電所の保守作業の少ない土日は平日より多く受け入れできるはずですから、それを勘案すれば、もっと人数を増やすことも可能でしょう。

実際、関電は別に「見学会」とは別に「社客枠」を年間最大3,000人分持っており、株主や顧客らを土休日にも招いています。この社客枠を一般に開放すれば、それだけで現状の2.5倍の受け入れが可能になります。

筆者は、一度だけ見学会に参加したことがありますが、宇奈月温泉に泊まって、翌朝に黒部ダムを目指すという道筋はダイナミックで、観光ルートとしての魅力はスイスのユングフラウ鉄道にも劣らないと感じました。

もし一般開放されれば外国人観光客にも人気が出るのは間違いなく、富山県の新たな観光の目玉になるでしょう。

課題山積でしょうが、ぜひ解決を期待して、受け入れ拡大の日を楽しみに待ちたいと思います。(鎌倉淳)

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