JR西日本が、不思議な臨時列車を運転します。寝台特急「サンライズ出雲93号」で、京都発出雲市行きです。所要時間は11時間6分。快速・普通列車を乗り継ぐよりも遅いのです。
所要時間11時間6分
「サンライズ出雲93号」は、2018年夏の増発列車として設定されました。山陰デスティネーションキャンペーンにあわせた列車で、9月21日のみ運転されます。運転区間は京都~出雲市です。
注目は、その所要時間。京都を22時14分に出て、出雲市に翌9時20分に到着するダイヤです。所要時間は、実に11時間6分。表定速度39km/hです。
比較として、定期列車の上り「サンライズ出雲」は出雲市~大阪間を5時間41分で走ります。鈍足で知られる臨時「サンライズ出雲91号」ですら、大阪~出雲市間は7時間1分です。
半分近くは停まっている
このように、「サンライズ出雲93号」は、恐ろしく遅い列車です。定期列車と比較すると、所要時間の半分近くは停まっている勘定になります。
ちなみに、京都を05時21分発の快速・網干行きに乗車し、普通列車と快速列車を乗り継ぐと、伯備線経由で15時20分に出雲市に到着します。所要時間9時間59分。つまり、「サンライズ出雲93号」は、快速・普通列車よりも遅いのです。
とはいえ、「サンライズ出雲93号」の停車駅は多いとはいえず、京都を出ると、大阪、三ノ宮、姫路、米子、安来、松江、玉造温泉、宍道、出雲市と停まるだけです。姫路~米子間は時刻表上は無停車です。それでも快速・普通列車よりも遅いわけです。
「新たな長距離列車」計画
なぜ、これほどまでの鈍足特急を運転するのか。その理由は定かではありませんが、思い当たるとすれば、JR西日本が計画している「新たな長距離列車」です。
「新たな長距離列車」は、2016年11月に、JR西日本が導入方針を示し、2017年6月10日に具体的な内容を明らかにしたリゾート列車です。
列車の概要は、「京阪神~山陰、山陽方面に、観光用の長距離列車を運転する」というもの。車両は117系を改造し、完全個室を備えたグリーン車、コンパートメントの普通車や、フルフラットの「のびのび座席」を備えます。自由に食事や歓談ができるフリースペースも設置し、定員は100人前後。2020年夏までに運転開始します。
2018年5月10日には、「せとうちパレットプロジェクト」の概要発表で、「新たな長距離列車」の運行計画として、「京阪神と瀬戸内エリアを結ぶ」と示されました。「山陽方面」の目的地が、瀬戸内エリアであることを明らかにしたわけで、今後、準備が行われていくのでしょう。
プロトタイプの試験運行?
では、「新たな長距離列車」の山陰方面の目的地はどこなのか。直流電車117系であることから、京阪神エリアから山陰に抜けるには伯備線を経由して松江・出雲市方面を目指すほかありません。つまり、「サンライズ出雲93号」と「新たな長距離列車」の運転区間は一致します。
となると、「サンライズ出雲93号」は2020年の「新たな長距離列車」誕生を見据えた、試験運行的な意味があるのでは、と想像してしまいます。いわば、プロトタイプです。1日限りの運転という、きわめて限定的な列車であることからも、試験的な雰囲気が漂います。
単に走らせるだけなのか
「新たな長距離列車」について、JR西日本では、「沿線各地の魅力を堪能していただけるように、始発駅や途中駅において、その土地ならではの食べ物やお酒などをお買い求めいただけることも検討していきます」としました。
つまり、途中駅で長時間停車することを示唆していて、「新たな長距離列車」も鈍足運転になりそうです。こうした一致点からも、「サンライズ出雲93号」が、「新たな長距離列車」のプロトタイプであることを感じさせます。
そもそも論として、快速・普通列車より遅い寝台特急を「乗ることが目的」以外の人が利用するとは思えません。「乗ることが目的」対象の列車ならば、最近の観光列車とコンセプトとして似ています。
「サンライズ出雲93号」と「新たな長距離列車」の関係は、現時点では何も明かされていません。しかし、関連があるのなら、単に走らせるだけではない仕掛けがあるのかもと、期待してしまいます。(鎌倉淳)