『未来の年表』(河合雅司・講談社)がベストセラーになっています。将来の人口減少で、日本に何が起こるかを予測した書籍です。人口減少は地域交通にも大きな影響を及ぼしますので、鉄道輸送の「未来の年表」を作ってみたらどうなるでしょうか。日本最北の鉄道路線である宗谷線を例に取り上げてみます。
沿線12市町村の将来人口
国立社会保障・人口問題研究所(社人研)では、市町村ごとに将来人口を推計した『日本の地域別将来推計人口』(2013年3月推計)を公表しています。この数字を元に、鉄道沿線の将来人口推計を調べ、将来の利用状況がどう変わるかを考えてみます。
宗谷線は、旭川~稚内間を結ぶJR北海道の鉄道路線です。沿線自治体は旭川市、比布町和寒町、剣淵町、士別市、名寄市、美深町、音威子府村、中川町、幌延町、豊富町、稚内市の12市町村です。
社人研の推計により、これらの自治体の将来人口を見てみましょう。
宗谷線沿線の2040年人口予測
宗谷線沿線自治体の、2010年を基準とした将来人口予測です。左から2010年と2040年の総人口です。( )内は、2010年を基準にした指数です。
旭川市 347,095→249,237(71.8%)
比布町 4,042→2,238(55.4%)
和寒町 3,832→1,981(51.7%)
剣淵町 3,565→2,058(57.7%)
士別市 21,787→12,815(58.8%)
名寄市 30,591→23,412(76.5%)
美深町 5,178→3,129(60.4%)
音威子府村 995→493(49.5%)
中川町 1,907→943(49.4%)
幌延町 2,677→1,643(63.2%)
豊富町 4,378→2,511(57.4%)
稚内市 39,595→26,337(66.5%)
計 465,642→326,847(70.1%)
ご覧の通り、30年間で、宗谷線の沿線総人口は、約46万人から約32万人と約7割に減少。宗谷線の沿線人口は、30年間でその3割以上が失われることになります。
宗谷南線(旭川~名寄間)と、宗谷北線(名寄~稚内間)に分けた合計数も記しておきます。
・宗谷南線 410,912→291,741(71.0%)
・宗谷北線 85,321→58,518(68.6%)
宗谷北線のほうが人口減が進みますが、割合では大きな差はありません。
子どもは半減する
深刻なのは少子化です。子どもの人口がどうなるかも見てみましょう。同じ統計の、0-14歳人口(年少人口)の数字です。
旭川市 40,227→20,301(50.4%)
比布町 402→152(37.8%)
和寒町 400→179(44.8%)
剣淵町 385→162(42.1%)
士別市 2,584→1,054(40.8%)
名寄市 3,767→2,642(70.1%)
美深町 548→228(41.6%)
音威子府村 53→24(45.3%)
中川町 176→64(36.4%)
幌延町 328→148(45.1%)
豊富町 528→191(36.2%)
稚内市 4,807→2,513(52.3%)
計 54,255→27,658(51.0%)
0-14歳人口の減少は顕著です。2,000人を超える自衛隊員を擁し、比較的育児世代の多い名寄市でも7割程度になり、町村部では、軒並み、現在の4割程度に減少します。全体として、宗谷線沿線の子どもの人口は、30年で約半分になります。
つまり、沿線総人口は30年で7割に減るだけですが、子どもに関しては半減するわけです。
こちらも宗谷南線と、宗谷北線に分けた数字も記しておきます。
宗谷南線 47,845→24,490(51.2%)
宗谷北線 10,207→5,810(56.9%)
宗谷北線のほうが、割合としては年少人口減が進まないように見えますが、年少人口減の少ない名寄市の、全体に占める割合が高いことが影響しています。名寄市を除いた宗谷北線では、49.2%という数字になります。
2040年までの人口推移
では、ここで、2040年までの宗谷線沿線の人口推移予測をみてみましょう。総人口と年少人口のそれぞれを掲載しておきます。( )内は2010年を基準とした指数です。
年 | 総人口 | 年少人口 |
2010 | 465,642(100) | 54,255(100) |
2015 | 447,718(96.1) | 49,143(90.6) |
2020 | 427,487(91.8) | 43,365(79.9) |
2025 | 404,375(86.8) | 37,973(70.0) |
2030 | 379,428(81.4) | 33,384(61.5) |
2035 | 353,404(75.9) | 30,175(55.6) |
2040 | 326,847(70.1) | 27,658(51.0) |
輸送密度の「未来の年表」
さて、宗谷線の2016年度の輸送密度は、旭川~名寄間が1571、名寄~稚内間が403です。総人口減少の割合に応じて、輸送密度も減少していくと仮定して、その数字がどう変わるか見てみましょう。
人口の基準年は2010年度で、輸送密度の基準値は2016年度です。6年のギャップがありますが、それは考慮していないことをご了承ください。
年 | 宗谷南線 | 宗谷北線 |
2020 | 1,442 | 369 |
2025 | 1,363 | 349 |
2030 | 1,278 | 328 |
2035 | 1,192 | 305 |
2040 | 1,099 | 282 |
※輸送密度が総人口に比例すると仮定した数字です。
2020年には、宗谷南線が1,500を、宗谷北線が400を割り込みます。そこから緩やかに減少していき、2040年には宗谷南線が1,099、宗谷北線が282にまで落ち込みます。
上述の通り、これは総人口に比例して輸送密度が落ちていくと仮定した内容です。ローカル線の主たる利用者が高校生であることを考えると、実際は、年少人口に比例していくかもしれません。
たとえば年少人口に比例して、将来的に輸送密度が5割に落ち込むと仮定すれば、旭川~名寄間が786に、名寄~稚内間が202となります。
沿線人口以外の要素もあるが
宗谷線は特急運転線区ですし、ビジネス客や観光客の利用も一定割合で存在しますので、人口動態に完全に比例して輸送密度が変化するわけではないでしょう。とくに、インバウンド増による旅行者の利用客増には、ある程度の期待が持てます。
一方で、北海道縦貫自動車道の整備は少しずつですが進んでおり、今後、高速バスやマイカーとの競合が激しくなる可能性もあります。
いずれにしろ、14歳以下の人口半減はやはり衝撃的です。2040年段階では、まだ持ちこたえることができたとしても、沿線人口の減少にともなって輸送密度が落ちていくとすれば、いずれ鉄道存続が厳しい状況に追い込まれる可能性はありそうです。
今回は宗谷線を例に取りましたが、北海道の他エリアのローカル線も似たり寄ったりで、同様の人口問題を抱えていることに変わりありません。(鎌倉淳)