最近、路面電車やLRTが活気づいています。各地で線路の延伸や改良が相次ぎ、環状化や直通運転が開始されています。低床車を導入する動きも活発です。
こうした新たな取り組みはどんな効果があるのでしょうか。また、課題も考えてみましょう。
JR駅高架下に乗り入れ
富山地方鉄道富山軌道線(市内電車)がJR富山駅高架下に乗り入れたのは、2015年3月14日。北陸新幹線開業と同じ日でした。
JR駅構内に電停が組み込まれたような形です。これにより、JR線改札口を抜けて、1分もあれば路面電車に乗ることができるようになりました。
これまで、富山市内電車の「富山駅前」電停は、富山駅前の道路上にありました。それが、200mほど引き込まれただけなのですが、思っていた以上に便利で、「乗るのがラク」です。
富山の路面電車では、2009年に「富山都心線」が開業し、環状運転を開始しました。今回の富山駅乗り入れ後も、スイッチバックが含まれる形になりましたが、環状運転は継続しています。これらの施策で、駅から富山市中心部への「距離感」は、以前より間違いなく縮まったでしょう。
今後は、富山駅北口に発着する富山ライトレールも、JR駅高架下の電停に乗り入れる予定で、将来的には富山地鉄市内線との直通運転も構想されています。実現すれば、さらに利便性は上がるでしょう。
歩道から直接乗れる電停
札幌市電では、2015年12月20日に西4丁目~すすきの間の「都心線」が開業し、既存路線とあわせた環状運転(ループ化)を開始しました。札幌市のメインストリートである駅前通に、約40年ぶりに路面電車が復活したのです。
この路面電車は、道路の両端に線路が敷かれていることが特徴です。歩道のすぐ横を線路が通る形で、「サイドリザベーション方式」と称されます。利用者は歩道から直接、路面電車に乗ることができます。
日本のほとんどの路面電車は、道路の中央に線路が敷かれているため、電停に行くには道路を渡らなければなりませんが、札幌駅前通では、それをしなくていいのです。
環状運転については、「ぐるり」と乗る人が多いとは思えないルートなので効果はよくわかりませんが、駅前通から路面電車に乗りやすくなったことについては、大きな改善に見えます。
クルマは駐停車禁止に
道路の両側に線路を敷いて、クルマの通行の邪魔にならないのだろうか、との疑問も湧きます。ただ、この区間は、もともと道路両端の車線はタクシーや駐車車両で埋まっていたことが多く、車線としてはあまり機能していませんでした。
サイドリザベーション方式を導入した区間では駐停車禁止にしたため、駐車車両が排除されただけで、道路交通への影響はそれほど大きくはないという理屈のようです。
実際には、「クルマが停められないと困る」という声もあるでしょう。どう折り合いを付けていくのかは今後の課題とみられます。
路面電車と近郊電車が直通運転
福井市では、えちぜん鉄道三国芦原線の一部区間の駅ホームを低床車対応にし、福井鉄道福武線との相互乗り入れを開始しました。福武線は福井市内に併用軌道があるので、三国芦原線の列車が福井市内の路面電車区間に直通する形になります。
地方鉄道同士の相互乗り入れは珍しいですが、路面電車と近郊電車の直通運転も全国で数が少なく、二つの意味で珍しい取り組みとなっています。乗り入れるのは福井鉄道の既存車両と、両社の新型低床車が主体で、三国芦原線の既存車両は乗り入れません。
また、福武線の福井駅前への接続線(ヒゲ線)を300mほど延伸し、福井駅前のロータリーに引き込みました。これまでは、JR駅から少し離れた位置にあった福井駅前の電停が、現在はJR駅とロータリーを挟んで近接しています。JR線との乗り換えが便利になりました。
都市交通の基軸に
これら3都市に共通するのは、既存の路面電車を都市交通の基軸として捉え、それを活かす方策を探っている点です。
少し前まで、路面電車はどちらかというと道路交通の障害として扱われることが多く、「交通の基軸」という捉え方は少なかったように思えます。その点で、都市政策が大きく転換していることが感じられます。
たとえば、福井の路面電車区間は、福井鉄道の郊外電車が市内の併用軌道に乗り入れていますが、以前は「郊外電車が路面を走っている」だけの印象でした。
言葉を換えると、福井市は路面電車を都市内交通として積極的に活かしていなかった印象でした。しかし、近年は、路面電車を都市の南北軸として活用しようという姿勢がうかがえます。
札幌市のループ化も、構想はかなり昔からあったと思います。それが実施に移された点で、路面電車を見直そうという、風の変化を感じさせます。
こうした変化の先頭に立ってきたのが、富山市でしょう。富山市は、JR富山港線を富山ライトレールにして蘇らせました。一方で、市内線の環状運転を復活させるなど、既存の路面電車の拡充にも意欲的です。
物理的、心理的バリアフリー
さて、3都市で乗ってみて感じたことは、いずれの都市も「バリアフリー」にとても気を配っている、ということです。
バリアフリーには、2つの意味があります。ひとつは、物理的な段差を少なくしていること。3路線4社局とも連節低床車を導入し、小さな段差で乗り降りできるようにしています。
また、JR駅と接着したり、歩道から乗れるようにしたり、直通運転をしたりして、なるべく乗降の手間を減らす努力をしていることです。「路面電車は乗るのが面倒」という、「心理的なバリア」を減らそうという工夫です。こうした取り組みは、一定の効果があるようにみえます。
最大の課題は「遅い」
一方で、3都市の路面電車に乗ってみて感じた課題もあります。
最大の課題は、「遅い」という点でしょう。札幌市電の西4丁目~すすきの間の時刻表上の所要時間は8分。わずか400mの距離にこれだけかかるのですから、歩くより遅いと言われても仕方ありません。
札幌駅前通は混雑しますから、渋滞や乗降による遅延に備えて余裕時間を多く取っているのが原因とみられます。定時運転のためのダイヤの余裕は大切ですが、乗っていてもなかなか前に進まないので「路面電車は遅い」というイメージを植え付けないか心配です。
富山の市内電車も、都心線区間は徐行と信号待ちが多くなっていました。福井の直通乗り入れでも、接続駅の田原町での時間調整が長く感じられ、「こんなに待つなら乗り換えでもいいのでは?」と思ってしまいます。停車時間が長くなりすぎると、直通運転の効果を減殺してしまいかねません。
線形改良も必要
福井に関しては、武生方面から市役所前で折り返して福井駅に入るルートも、時間がかかる原因になっています。せっかく福井駅前を便利な位置に移しても、市役所前の線形を改良しなければ、効果は限定的になるでしょう。
市役所前を通らずに福井駅に至る短絡線を設ける計画もあるようですので、建設が待たれます。
表定速度を上げるために
3都市で路面電車に乗り、改めて感じたことは、路面電車の最大の課題は表定速度にある、という点です。月並みな意見ですが、「低床車」「環状化」「直通運転」と、同じくらい大事なのがスピードです。
路面電車が遅い理由はいくつかありますが、今回乗車して思ったことは、上述したように余裕時間を多く取り過ぎているのではないか、という点です。
また、信号待ちも多かったです。電車優先信号も一部に設置されているようですが、増設や運用改善も必要に思われます。
長い連節車に出口が一つでは、乗降時間も取られます。それを減らすためには、主要駅での改札設置や、信用乗車制度の導入も一案でしょう。
地下鉄の3分の2くらいの速さを
路面電車にどのくらいの速度を求めるかは、意見が分かれるところでしょう。「そんなに急がないから、遅くても構わない」という人もいるかもしれません。一方、通勤通学で毎日使う人は、速いほうがいいに違いありません。
少なくともバスよりは速くしないと、路面電車の存在意義が問われます。地下鉄と同等の表定速度は無理にしても、3分の2くらいの速さは目指して欲しいところです。
路面電車が見直されてきたことは、素晴らしいです。ただ、まだ改善の余地はあります。これからの地域輸送の中核として、さらに整備された路面電車システムを期待したいところです。(鎌倉淳)