南阿蘇鉄道は復旧できるか。三陸鉄道を蘇らせた「国が負担」の枠組みを熊本地震にも適用する?

熊本地震で大きな被害が出た第三セクター鉄道、南阿蘇鉄道が、存続の危機に直面しています。被害規模は調査中ですが、トンネルや橋に重大な損傷が複数確認されており、全線復旧には少なくとも30億円程度かかるとされています。

東日本大震災で被災した三陸鉄道は92億円を投じて復旧されましたが、全額公費によるものでした。南阿蘇鉄道はどうなるのでしょうか?

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売上高は1億1200万円

南阿蘇鉄道は、立野駅~高森間17.7kmの鉄道です。1928年に豊肥線の前身である宮地線の一部として開業、後に高森線として独立しました。1981年に特定地方交通線に指定され、1986年に三セク化。2016年4月14日の熊本地震発生後、全区間で運転を見合わせています。

同社の2015年度の売上高は1億1200万円で、経常収支は345万円の赤字。復旧費用は地震直後の概算で30億円ですが、今後の調査によっては大きく膨らむ可能性もあるとしています。売上規模に比べて復旧費用が大きすぎるため、自社単独での復旧は不可能とみられています。

南阿蘇鉄道

鉄道軌道整備法の災害復旧補助

東日本大震災で被災した三陸鉄道の売上高は、震災前の2010年度で4億2000万円、経常収支は1億3000万円の赤字でした。東日本大震災の三陸鉄道の復旧費用は92億円で、自力で復旧費用が調達できなかったという点で、南阿蘇鉄道と同じでした。

三陸鉄道は、復旧に際し、鉄道軌道整備法の災害復旧補助スキームを活用しました。これは、復旧費用の4分の1を国と関係地方自治体が負担し、残り2分の1を鉄道事業者が負担する枠組みです。

しかし、2分の1を鉄道事業者が負担する制度では、ローカル線の復旧は不可能です。そのため、東日本大震災後に新たな制度が設けられました。

新制度では、自治体が被災した施設を復旧の上保有した場合、国と自治体の補助率が2分の1ずつとなり、鉄道事業者は復旧費用を負担する必要がなくなります。これにより、三陸鉄道は施設を自治体に移したうえで、自社負担なしで復旧することが可能になりました。

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自治体負担分をどうするか

南阿蘇鉄道が同じ枠組みを適用できれば、被害総額が30億円を大きく上回っても、復旧は可能になるでしょう。ポイントとなるのは、「2分の1」の自治体負担です。被災して弱っている自治体が30億円もの巨費を負担することは難しいので、この枠組みだけで南阿蘇鉄道の復旧はできません。

三陸鉄道では、「2分の1」の自治体負担について、東日本大震災復興特別交付税により手当てされました。震災復興特別交付税は、復興特別所得税や復興特別法人税などを財源とし、東日本大震災にかかわる災害救助等関係事業に対し、国から地方に交付されるものです。これを三陸鉄道に適用しました。

要するに、事実上国が全額負担する仕組みで、三陸鉄道は蘇ったわけです。

震災復興特別交付税を熊本地震にも措置すれば、南阿蘇鉄道は蘇ることができるでしょう。しかし、震災復興特別交付税は東日本大震災に対するものです。

熊本地震の震災復興計画はこれから立てられます。そこにどういう財源が充てられるのかはまだわかりません。とはいえ鉄道会社への支援も当然考慮されるはずで、東日本大震災と似た支援スキームができる可能性はありそうです。

輸送機関というより観光産業

巨費を投じてまで南阿蘇鉄道を復旧させる必要があるのか、という指摘もあるでしょう。南阿蘇鉄道の輸送密度は、近年500人/キロ程度で推移しています。輸送密度が500を下回ると、廃線も視野に入る水準です。

しかし、被災前の南阿蘇鉄道で、廃線論は耳にしていませんでした。近年の南阿蘇鉄道は、トロッコ列車を目玉とする観光路線の色合いが強く、輸送機関というよりは、地元の観光産業の色合いが濃くなっていました。収支もほぼ均衡しており、廃止が論じられる段階ではなかったとみられます。

義援金も受付中

南阿蘇鉄道は現在全線運休中です。しかし、比較的被害の軽かった中松~高森間の約7.2kmについては、復旧工事に着手すれば1カ月程度で完了できそうで、この区間だけ先行して運転再開することも検討しているそうです。幸い車両への被害はなく、10両全てが高森駅で健在です。

南阿蘇鉄道では、専用口座を開設し義援金の受け付けを始めています。たくさんの義援金が集まれば、復旧の後押しになるでしょう。(鎌倉淳)

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