JR北海道が「自社単独で維持困難」とする10路線13線区を正式発表しました。今後、沿線自治体と鉄道維持に関する協議を始めるとしています。
「廃止ありき」の路線は一部で、大半は「上下分離による存続」を模索する内容ですが、ローカル線の鉄道設備を第三セクターに移管したとして、地元はそれを支えきれるのでしょうか。
JR北海道の路線分類
JR北海道は、今回の発表で、保有する路線を今後の存続方針に則して分類しています。まずは、JR北海道の分類を見てみましょう。
1 輸送密度が200人未満(片道100人未満)の線区
利用者がきわめて少なく、1列車あたりの平均乗車人員が10人前後で、営業係数が1,000を大きく超えている区間です。当該線区で得られる収入で輸送に直接必要な費用(燃料費、乗務員の費用など)を賄うことができません。老朽土木構造物の更新も必要としています。
◆札沼線 北海道医療大学-新十津川 47.6km
月形高校への通学利用を除き日常的な利用がほとんどない。老朽化したレールや橋梁等がある。運営赤字とは別に老朽土木構造物の維持更新費用として今後20年間で6億円程度が必要。冬期間には吹き溜まりが多発。
◆根室線 富良野-新得 81.7km
石勝線開通後は特急列車の運行がなくなり、現在は極端に利用が少ない。老朽化した橋梁が多く存在するほか、線区のほとんどが山間部であり、線路への立ち入り箇所が少なく維持管理が困難。運営赤字とは別に、老朽土木構造物の維持更新費用として今後20年間で22億円程度が必要。
◆留萌線 深川-留萌 50.1km
すでに極端に利用が少ない線区だが、2019年度には並行する高規格道路が全通する予定。老朽化したレールや橋梁があり維持管理に手間がかかるほか、冬期間には吹き溜まりが多発。運営赤字とは別に、老朽土木構造物の維持更新費用として今後20年間で30億円程度が必要。
JR北海道では、これらの3線区は、利用者が極端に少なく、鉄道よりも他の交通手段の方が適しているうえに、運営赤字とは別に老朽土木構造物の維持更新費用として今後20年間で58億円程度が必要になることから、バス転換を前提に地域協議を始めたいとしています。
2 輸送密度200人以上2,000人未満の線区
輸送密度2,000人未満の線区は、国鉄時代であれば特定地方交通線に指定され、原則廃止対象とされた水準です。特急列車が運行されている路線もありますが、営業係数が300から1,000程度で、JR単独では老朽土木構造物の更新など「安全な鉄道サービス」を持続的に維持するための費用を確保できないとしています。
◆宗谷線 名寄-稚内 183.2km
特急列車の運行線区。明治44年に完成した上新府川橋梁など、100年を経過した老朽土木構造物が多く存在。地質が脆い箇所があり、集中豪雨による災害も発生しやすい。輸送密度は500人未満。
◆根室線 釧路-根室 135.4km
大正6年に完成した釧路川橋梁や尾幌トンネルなど、100年を経過した老朽土木構造物が多く存在。輸送密度は500人未満。
◆根室線 滝川-富良野 54.6km
大正2年に完成した第3空知川橋梁など、100年を経過した老朽土木構造物が多く存在。山間部の除雪作業負担も重い。石勝線開通後はリゾート列車を除いて特急列車の運行がなくなり、輸送密度は500人未満。
◆室蘭線 沼ノ端-岩見沢 67.0km
輸送密度は約500人だが、複線区間など石炭輸送全盛期の過大な鉄道設備が残っている。軌道が脆弱で、冬期間には吹き溜まりが多発。
◆釧網線 東釧路-網走 166.2km
釧路湿原やオホーツク方面の観光路線として役割もある線区。輸送密度は約500人。大正14年に完成した濤沸川橋梁など老朽土木構造物が存在するうえに、湿地帯にある軌道の維持管理負担が重い。冬期間には吹き溜まりが多発。
◆日高線 苫小牧-鵡川 30.5km
日高線は苫小牧-様似間が全線だが、現在は線路災害のため鵡川までの折り返し運転。輸送密度は500人台と利用が少なく、湿地帯にある軌道の維持管理が負担。
◆石北線 新旭川-網走 234.0km
10万人都市の北見市などを結ぶ特急列車の運行線区。老朽化した特急気動車の更新が課題。大正元年に完成した女満別トンネルなど、100年経過した老朽土木構造物が多く存在。集中豪雨による土砂流入などの災害も頻繁に発生。
◆富良野線 富良野-旭川 54.8km
旭川市への通勤通学輸送や、富良野・美瑛を中心とした観光路線の役割もあるが、輸送密度が約1,500人と比較的利用が少ない。山間部の区間が多く、冬期間には除雪等の対応が負担に。
上記のすべての線区は、 福知山線の事故を受けた安全対策である新型ATSが未整備で、今後、鉄道として運営する場合は新型ATSを設置する必要があります。また、根室線(滝川-富良野)、室蘭線(沼ノ端-岩見沢)、石北線(新旭川-北見) については、貨物列車が走行しており、旅客列車のみの線区と比べ必要な設備が多くなっているとのことです。
JR北海道では、これらの輸送密度200人以上2,000人未満の線区について、鉄道を維持する仕組みを地域と協議したいとしています。具体的には、以下の内容です。
ア 設備の見直しやスリム化、利用の少ない駅の廃止や列車の見直しによる経費節減
イ 運賃値上げ
ウ 沿線住民の利用促進策
エ 運行会社と鉄道施設等を保有する会社とに分ける上下分離方式
これらの協議をしたうえで、輸送サービスを鉄道として維持すべきかどうかを検討するとしています。
3 すでに協議を始めている線区
すでに協議会などで地元自治体と話し合いを始めている線区については、別枠で扱っています。
◆石勝線 新夕張-夕張 16.1km
バス転換する方向性が確認され、JRと夕張市が協議中。
◆日高線 鵡川-様似 116.0km
2015年1月の災害によりバス代行輸送中。「JR日高線沿線自治体協議会」で地元自治体と継続的に協議。線区の多くは海岸線にあり、地質も砂質土であることから、集中豪雨や高波による斜面や護岸の災害が多い。運営赤字とは別に、列車運行を継続していく場合には、老朽土木構造物の維持更新費用として今後10年間で53億円程度が必要。海岸侵食対策として離岸堤の整備が別途必要。台風災害等による復旧費は86億円になると試算。
JR北海道は、これら2区間について、引き続き地元自治体と協議を進めるとしています。ただし、夕張線については廃止が事実上決まっています。
4 JR単独で維持可能な線区
札幌圏と、輸送密度4,000人以上の線区を加えた範囲が、今後もJR北海道が単独で維持可能な線区としています。
◆石勝・根室線 南千歳-帯広 176.2km
◆室蘭線 長万部-東室蘭 77.2km
◆室蘭線 室蘭-苫小牧 65.0km
◆函館線 岩見沢-旭川 96.2km
◆札沼線 桑園-北海道医療大学 28.9km
◆函館線 札幌-岩見沢 40.6km
◆函館線 小樽-札幌 33.8km
◆千歳・室蘭線 白石-苫小牧 68.0km
これらの線区にも老朽化した土木構造物が多数存在し、維持更新には多額の費用がかかるとしています。これらの線区で得られた収益は、当該線区の安全性、利便性の向上に活用するとしており、他路線への内部補助に否定的な姿勢を示しています。
5 北海道高速鉄道開発株式会社関連線区
JR北海道の高速化事業のために設立された第三セクターが北海道高速鉄道開発です。この関連線区は2区間で、当面はJR北海道が単独で維持するとしています。
◆宗谷線 旭川-名寄 76.2km
◆根室線 帯広-釧路 128.3km
単独で維持するとされた2区間ですが、営業損失は50億円を超えています。そのため、「安全な鉄道サービス」を持続的に維持するための費用を確保できず、JRとしては、将来的に北海道高速鉄道開発株式会社との関連で検討したいとしています。
「関連」が何を意味するのかは不明瞭ですが、将来的に費用負担協議をする、ということでしょう。
6 北海道新幹線関連線区
北海道新幹線は、2030年度末の札幌開業が予定されています。北海道新幹線札幌開業に伴う経営分離区間 (函館-長万部、長万部-小樽)については、経営分離されるまでの間、JR北海道が運営するとしています。
新幹線開業後は、第三セクターへの移管が決まっています。そのため、現地点では触れない、と言うことでしょう。
国鉄改革以来最大の路線整理
ここまでが、JR北海道の路線分類です。
「単独で維持困難」とする区間は上記の1~3で、総延長は1237.2km。同社の営業路線の約半分です。これらの路線が全て廃止された場合、1987年の国鉄分割民営化以降、最大規模の路線整理となる可能性があります。
上述しているとおり、輸送密度200人未満の4区間は、鉄道を廃止しバス転換することを自治体に提案します(石勝線夕張支線含む)。輸送密度200人以上の9区間は、自治体が鉄道施設を保有し運行をJRが担う上下分離方式などを提案します。
JR北海道は、2017年3月期決算の営業赤字が、過去最大の440億円に達するとしています。9月末の手元資金は68億円にすぎず、企業規模からすると「底をつく寸前」といっていい数字です。
島田修社長は「このままだと2019年度中に大変厳しい経営状況に陥る」と危機感をあらわにし、路線整理について早期の合意形成を求めています。
「土木構造物の維持管理」を強調
JRが発表した文書で強調されているのは「老朽化した土木構造物の維持更新」についてです。「維持困難な線区」各路線について、老朽化した橋梁やトンネルなどを例示し、近い将来、その更新費用がかかることを予告しています。
つまり、JRとして、運行にかかわる赤字もさることながら、将来的な設備の更新費用の負担を懸念している様子がうかがえます。「仮に運行費用を工面できても、橋の架け替え費用とかはどうするの?」ということです。
上下分離により鉄道設備を第三セクターに移管すれば、JR北海道は、設備更新費用の負担を免れることができます。また、設備更新のための補助金も受けやすくなるでしょう。JRが上下分離を提案するのは、そうした意味も込められているとみられます。
各自治体の反応は?
JRの発表を受けて、北海道の各市町村からは、さまざまな反応が寄せられています。
北海道新聞道東版11月19日付によりますと、小清水町の林直樹町長は、上下分離方式について「果たして負担に耐えられる金額におさまるのか。町として公共交通は何としてでも維持しなければならず、(負担が大きいからと)なくなってもいいです、とも言うこともできない。どうすればいいのか」と困惑したと述べています。
沿線市町村の代表的な意見は、このコメントに集約されるのではないでしょうか。各紙報道を見ても、「鉄道維持を求めるが、費用負担には簡単には応じられない」という姿勢の自治体がほとんどです。
どの自治体も財政的に余力がなく、鉄道維持のため新たに費用を捻出するのは困難です。とはいえ、政治家が「どうぞ廃止してください」となかなか言えません。各自治体の首長が上記のような反応をするのは、当然と言えば当然でしょう。
釧路市の蝦名大也市長は、「道から今後の鉄道のあり方に関する方針が示されないなかでは、地域個別の議論にはならない」とコメントしています。これだけ広域にわたる鉄道路線の存廃が問われている以上、市町村レベルで対応できる話ではなく、北海道や国が関与する必要があるという指摘は、そのとおりでしょう。
人口減少を乗り切れるのか
2015年度の13線区の営業赤字の総額は、157億円に上ります。上下分離をしたとしても、この赤字が雲散霧消するわけではなく、自治体とJRで負担を分ける形になるだけです。
鉄道を存続させる場合、各自治体は、年間数億円の維持費用を負担しなければならなくなるでしょう。そのうえで、鉄道設備の更新費用が、のしかかります。容易な話ではありません。
そして、赤字額や輸送密度は、今が「底」ではない、と言う難題も避けて通れません。
日本の人口減少は深刻です。国立社会保障・人口問題研究所の資料では、2015年に536万人いる北海道の人口は、2040年に419万にまで減少すると見込まれています。0-14歳人口に限れば、59万人が35万にまで減るとされています。ローカル線の主な利用者である高校生が、30~40年後には4割も減ってしまうことを示しています。
こうした数字を見ると、今後、JR北海道の路線網を維持するのに、相当な困難が伴うことが予想されます。いま上下分離をしたとしても、明るい未来を見通すことはできません。
国鉄分割の失敗
国鉄分割民営化からまもなく30年。JR北海道は再び行き詰まったといえます。
結局のところ、北海道の人口密度と自然環境で、民間企業が鉄道網を維持するのは不可能である、ということが示されたのではないでしょうか。
国鉄分割民営化は、北海道に関しては、明らかに失敗でした。今度こそ、持続可能な形での再建方法を構築してほしいところです。(鎌倉淳)