新空港線は、東急蒲田駅と京急蒲田駅を連絡し、羽田空港へのアクセス向上を実現する空港連絡鉄道の構想です。ふたつの蒲田駅を結ぶことから、「蒲蒲線」と呼ばれることもあります。
東急多摩川線を延伸し、東急蒲田駅から京急蒲田駅の地下を経由し、京急大鳥居駅に至る計画です。このうち東急蒲田~京急蒲田間について、2030年代の開業を目指して事業が進められています。
新空港線の概要
第1期区間
第1期区間
新空港線は、東急多摩川線の矢口渡駅付近から、東急蒲田駅、京急蒲田駅付近の地下を経由して、京急空港線大鳥居駅に至る鉄道新線計画です。
大鳥居駅で東急多摩川線と京急空港線をつなぎ、羽田空港までの直通運転も模索されています。
大田区の案では、第1期として東急矢口渡駅~京急蒲田駅(地下)を狭軌で建設し、東急多摩川線の全列車が京急蒲田の地下新駅まで乗り入れます。
矢口渡~京急蒲田間の距離は約1.7km。この区間に地下路線を建設します。矢口渡~東急蒲田0.9kmが既存線(東急多摩川線)の地下化、東急蒲田~東急蒲田間0.8kmが地下新線整備という位置づけです。
第1期のルートと運転計画
2022年10月に公表された『蒲田駅周辺地区基盤整備方針』には、新空港線の想定ルートが記されています。蒲田駅東口駅前広場南側から区道を東進します。
2022年に6月に公表された『新空港線及び沿線まちづくり等の促進に関する協議の場における検討結果』によりますと、京急蒲田駅は、駅南側の区道直下に地下駅を設ける予定で、京急蒲田駅での乗り換え時間は約6分です。東急多摩川線の蒲田駅も地下化され、JR線との乗り換え時間は5分20秒かかります。
2016年度の大田区の調査によれば、田園調布~羽田空港間が2回乗り換えで約30分、中目黒~羽田空港間が2階乗り換えで約37分になります。
開業後の運転計画は未発表ですが、東急多摩川線のすべての列車が京急蒲田駅まで乗り入れるとみられます。東急多摩川~京急蒲田間の所要時間は13分程度です。
総事業費と採算性
2022年6月の調査結果によりますと、1日あたり約5.7万人が利用し、うち航空旅客が約1.5万人、都市内旅客が約4.2万人となっています。
総事業費は1,360億円です。費用便益比は2.0、累積資金収支黒字転換年数は17年で、ともに国が新線建設に対して補助をおこなう基準をクリアしています。
新空港線は上下分離で建設され、大田区と東急電鉄が出資する「羽田エアポートライン」が鉄道施設を保有する第三種鉄道事業者となります。羽田エアポートラインから鉄道施設を借りて運行する第二種鉄道事業者が東急電鉄となる見込みです。
開業時期は未定ですが、着工までの準備に5年、建設に10年と見積もると、2030年代後半になりそうです。
第2期
新空港線の第2期は京急蒲田~大鳥居間です。大鳥居駅で接続し、東急多摩川線と京急空港線が直通運転を実施します。
ただし、東急多摩川線は狭軌(1067mm)、京急空港線は標準軌 (1435mm) と軌間が異なるため、現在の車両では乗り入れることはできません。
そのため、京急空港線を複数の軌間に対応する三線軌条にする方式と、フリーゲージトレインを導入する方式が想定されています。
直通運転が実現すれば、東京メトロ副都心線・東横線・目黒線方面からの直通列車を東急多摩川線経由で運転し、渋谷や新宿などから羽田空港まで乗り換えなしで直結できます。
ただし、第2期はまったくの構想段階で、実現に向けた動きはありません。
新空港線の沿革
新空港線(蒲蒲線)の調査が始まったのは1987年です。地元大田区が東西鉄道網の整備に関する調査を開始しました。1989年には、『大田区東西鉄道網整備調査報告書』を公表しています。
その後、2000年1月の運輸政策審議会答申第18号で「京浜急行電鉄空港線と東京急行電鉄目蒲線を短絡する路線の新設」が盛り込まれ、2015年までに整備着手することが適当である路線と位置づけられました。
2006年1月には、大田区が『大田区東西鉄道「蒲蒲線」整備計画素案』をまとめました。さらに、関係各社による勉強会なども立ち上げました。しかし、このときは事業化には至りませんでした。
東京都が2015年7月10日に発表した『広域交通ネットワーク計画について≪交通政策審議会答申に向けた検討のまとめ≫』では、蒲蒲線は「整備について検討すべき路線」とされました。「優先的に整備を検討すべき路線」には入らなかったので、優先順位としてはやや下に位置づけられた形です。
これを受けた2016年4月20日の交通政策審議会答申第198号『東京圏における今後の都市鉄道のあり方について』では、「国際競争力の強化に資する鉄道ネットワークのプロジェクト」として盛り込まれました。
答申では、「矢口渡から京急蒲田までの事業計画の検討は進んでおり、事業化に向けて関係地方公共団体・鉄道事業者等において、費用負担のあり方等について合意形成を進めるべき」とされました。
一方、大鳥居までの延伸については、「軌間が異なる路線間の接続方法等の課題」があるとされました。
答申後も大田区は事業へ向けた活動をつづけ、2022年6月6日に、大田区と東京都が「新空港線(矢口渡~京急蒲田)整備事業について」合意しました。
この合意により、国交省の都市鉄道利便増進事業の補助を利用し、国、自治体、事業者がそれぞれ3分の1ずつを負担するスキームが固まりました。大田区が事業を推進する主体となり、地方負担分の負担割合を東京都3割、大田区7割と決めました。
2022年10月14日には、整備主体となる羽田エアポートラインが設立されました。大田区が61%、東急電鉄が39%を出資しています。
新空港線のデータ
営業構想事業者 | 東急電鉄 |
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整備構想事業者 | 羽田エアポートライン |
路線名 | 未定 |
区間・駅 | 矢口渡~東急蒲田~京急蒲田~大鳥居 |
距離 | 約1.7km(矢口渡~京急蒲田) 約1.4km(京急蒲田~大鳥居) |
想定利用者数 | 57,000人/日 |
総事業費 | 1360億円 |
費用便益比 | 2.0 |
累積資金収支黒字転換年 | 17年 |
種別 | 第2種鉄道事業 |
種類 | 普通鉄道 |
軌間 | 1,075mm |
電化方式 | 直流1500V |
単線・複線 | 複線 |
開業予定時期 | 2030年代半ば |
備考 | — |
※データはおもに『新空港線及び沿線まちづくり等の促進に関する協議の場における検討結果』(2022年)より
新空港線の今後の見通し
新空港線は2000年の18号答申で「2015年までに整備着手することが適当な路線」とされ、建設が有力視されてきました。
しかし、なかなか着工できなかったのは、軌間の異なる東急と京急を直通させるという構想に無理があったからでしょう。3両編成の多摩川線に8両編成の東横線を乗り入れさせる目標にも難がありました。
東横線直通列車は多摩川線内無停車にするしかありませんが、そうすると途中で待避設備が必要になります。こうした問題を早期に解決するのは困難です。
こうしたことから、大田区は東急蒲田駅と京急蒲田駅間の区間に絞って建設をする姿勢に転換しました。京急蒲田駅で乗り換えは生じるものの、東急東横線方面から羽田空港へのアクセスが改善するため、それだけでも一定の効果があります。
ちょうど、東急蒲田駅ビル(東急プラザ)が老朽化し、建て替えのタイミングを迎えていることも、事業には追い風となりました。駅ビル建て替えの再開発と連動する形で、東急多摩川線を蒲田駅付近で地下化し、駅東への延伸へのメドを付けたのです。
2022年6月に東京都と大田区が事業化に向けたスキームで合意し、10月には事業主体となる第三セクターも設立されたので、第1期の矢口渡~東急蒲田~京急蒲田間に関しては、実現する見通しが立ちつつあります。
大田区では2030年代の開業を目標にしています。距離の短い路線でもあり、順調にいけば2030年代後半には開業できそうです。
運行形態は明らかではありませんが、3両編成の多摩川線が多摩川~京急蒲田間を各駅停車で運行することがベースになりそうです。
計画では東横線との直通も想定していますので、東急蒲田駅と京急蒲田駅を8~10連対応のホームで建設し、東横線から急行など優等列車を走らせる可能性もあります。ただ、東横線の線路容量の問題もあるので、実際に渋谷~蒲田間の急行を走らせられるかは定かではありません。
第2期に関しては、京急と東急の軌間が異なるため、接続させても直通乗り入れができないという大問題があり、実現の見通しは立ちません。
2010年代前半は、西九州新幹線へのフリーゲージトレインが開発中だったこともあり、その導入が第一選択肢として想定されていました。しかし、現在は開発自体が中断しています。
仮にフリーゲージトレインが実用化したとしても、高額な車両になるため通勤電車に大量投入するのは困難という指摘もあります。
フリーゲージトレインが無理なら、京急線の三線軌条化という方法もあります。しかし、三線軌条は維持の負担が重いため、線路を保有する京急が後ろ向きです。
そもそも、京急は新空港線との直通に消極的です。京急は都内からの空港アクセスで自社の品川~蒲田間と競合するため、積極的にはなりにくいようです。こうしたことから、京急への直通運転のメドは全く立っておらず、第2期の実現は見通せません。
なお、第1期の終着駅は「京急蒲田駅」となっていますが、東急の駅が「京急蒲田」となると混乱します。そのため、開業時には「新蒲田」などの呼称になる可能性もありそうです。