近鉄けいはんな線延伸

学研奈良登美ヶ丘~高の原・新祝園

近鉄けいはんな線は、長田駅から生駒駅を経て学研奈良登美ヶ丘駅まで18.8kmを結ぶ路線です。学研奈良登美ヶ丘駅から、新祝園駅または高の原駅まで延伸する計画があります。

近鉄けいはんな線延伸の概要

近鉄けいはんな線の延伸は、学研奈良登美ヶ丘~高の原間と、同~新祝園間の計画があります。近畿地方交通審議会答申第8号(2004年)では、両線並記で記載されました。

2018年の精華町の調査報告書では、新祝園ルートで鉄道案とLRT案を挙げ、高の原ルートでは鉄道案のみを挙げています。報告書を基に、概要をみてみます。

京阪奈新線延伸ルート
画像:京阪奈新線に関する調査報告書(平成30年度)


 

高の原延伸(鉄道)

高の原延伸案は、近鉄けいはんな線をそのまま延伸します。計画区間は、学研奈良登美ヶ丘~高の原間の3.8kmです。途中駅として、乾谷を設けます。

けいはんな線と同じく第三軌条方式で、運行速度は100km/h。概算事業費は約350億円、1日16,700人の利用者を想定します。

新祝園延伸(鉄道)

新祝園延伸鉄道案は、近鉄けいはんな線を新祝園に延伸します。計画区間は、学研奈良登美ヶ丘~新祝園間の6.2kmです。途中駅として、精華光台、学研中央、祝園ニュータウンの3駅を設けます。

こちらも第三軌条方式で、運行速度は100km/h。概算事業費は約570億円、1日25,200人の利用者を想定します。

近鉄けいはんな線延伸
画像:京阪奈新線に関する調査報告書(平成30年度)


 

新祝園延伸(LRT)

LRT案は、近鉄けいはんな線と直通しませんので、正確には同線の延伸ではありません。計画区間は学研奈良登美ヶ丘~新祝園間の7.0kmです。

途中駅として、鹿の台口、光台5丁目、光台4丁目、光台3丁目、けいはんなプラザ、国会図書館前、けいはんな記念公園、精華台3丁目、精華台2丁目、畑の前公園、精華町役場前の11駅を設けます。

運行速度は20km/h。基本的には道路上に軌道を敷設するため、概算事業費は約140億円と廉価です。1日12,000人の利用者を想定します。

2ルート3案のいずれも費用便益比や採算性の試算は公表されていません。事業着手の予定はなく、開業予定も決まっていません。運行計画なども未定です。

近鉄けいはんな線延伸の沿革

近鉄けいはんな線(生駒以東)は、「京阪奈新線」と呼ばれ、1982年に国土庁が発表した「関西学術研究都市基本構想」に端を発します。この構想で、生駒~高の原間と、途中で分岐して精華・西木津方面へ向かう路線が示されました。

1989年の運輸政策審議会答申第10号『大阪圏における高速鉄道を中心とする交通網の整備に関する基本計画について』では、「京阪奈新線」について、生駒~高の原間が「2005年までに整備することが適当な区間」、分岐して祝園付近までと高の原~木津方面までが「整備について検討すべき路線」として盛り込まれました。

その後、近畿運輸局、奈良県、京都府、近鉄が参加する「京阪奈新線整備研究会」が調査を実施し、1995年に中間報告を公表。全線整備での事業収支採算性確保が厳しいため、「段階的な整備も一つの有効な方策」としました。

翌1996年6月13日の近畿地方交通審議会答申第5号『奈良県における公共交通機関の維持整備に関する計画について』では、「早期に事業化を図るため、第一段階として、生駒駅から登美ヶ丘付近まで整備することが適当であり、引き続き高の原までの残る区間についても前記答申(運輸政策審議会答申第10号)の趣旨に沿って、できる限り早期に整備する必要がある」とされました。

これを受け、生駒駅~学研奈良登美ヶ丘駅間の事業化が決定。2000年に着工し、2006年3月に開業します。しかし、利用者数は伸び悩み、2010年の事後評価総括表によれば、生駒~登美ヶ丘間の開業5年目の1日あたりの利用者数は、25,000人(2009年)にとどまりました。5年目の想定利用者数が1日84,000人だったので、3割程度にすぎません。

登美ヶ丘以遠については、2004年の近畿地方交通審議会答申第8号『近畿圏における望ましい交通のあり方について』で、「中長期的に望まれる鉄道ネットワークを構成する新たな路線」として、「登美ヶ丘~高の原」「登美ヶ丘~学研中央~祝園NT~新祝園」の両区間が並記されました。

近鉄けいはんな線延伸
画像:近畿交通審議会答申第8号より

しかし、開業区間の利用状況が思わしくないこともあり、延伸は事実上凍結されています。

新祝園ルートの延伸先にあたる京都府精華町が建設運動をしており、「京阪奈新線新祝園ルート」の実現に向けて調査などを進めています。

近鉄けいはんな線延伸のデータ

近鉄けいはんな線延伸データ
営業構想事業者 近畿日本鉄道
整備構想事業者 未定
路線名 けいはんな線
区間・駅 学研奈良登美ヶ丘~高の原(3駅)
学研奈良登美ヶ丘~新祝園(5駅)
距離 約3.8km(高の原延伸)
約6.2km(新祝園延伸)
想定利用者数 16,700人(高の原延伸)
25,200人/日(新祝園延伸)
総事業費 約350億円(高の原延伸)
約570億円(新祝園延伸)
費用便益比
累積資金収支黒字転換年
種別 未定
種類 普通鉄道
軌間 1,435mm
電化方式 直流750V第三軌条
単線・複線 複線
開業予定時期 未定
備考

※データはおもに『精華町における京阪奈新線に関する調査報告書』(2018年)より。LRT部分は省略。

近鉄けいはんな線延伸の今後の見通し

近鉄けいはんな線延伸は「京阪奈新線」として、関西文化学術研究都市(けいはんな学研都市)のアクセスを担う目的で構想されてきました。学研奈良登美ヶ丘までの事業化はスムーズに進んでいます。

しかし、学研都市はバブル期に建設がはじまったことあり、バブル崩壊後は計画が思うように進まず、定住人口も伸び悩んでいます。結果としてけいはんな線の開業区間の利用状況も芳しくありません。

こうしたことから、けいはんな線の延伸には厳しい状況が続いています。これからの人口減少時代において、郊外のニュータウン鉄道的な位置づけで建設するのは、不可能といってもいいかもしれません。

延伸を強く求めている精華町では、新祝園駅で近鉄京都線と線路をつなぎ、直通運転をする計画を掲げています。けいはんな線は第三軌条、京都線は架線方式と集電方式が異なりますが、近鉄は複数集電列車の開発を進めています。

その開発がうまくいき、レールをつなげれば、京都からけいなんな線・大阪メトロ中央線を経て、夢洲まで直通列車を走らせることができます。夢洲には統合リゾート(IR)ができる予定ですので、「京都・IR直結特急」の走行路として、けいはんな線を活用できるわけです。

また、JR奈良線の平城山駅には、リニアの駅を設ける計画もあります。平城山駅は高の原駅から直線距離で2kmほど。そのため、近鉄けいはんな線を高の原経由で平城山まで延ばせばリニアに接続できます。そうすれば、学研都市は東京都内まで1時間半程度になるので、大きな整備効果が得られるかもしれません。

こうした構想の実現は見通せないものの、夢物語とまではいえません。したがって近鉄けいはんな線は、当面の延伸は厳しいものの、夢洲IRやリニアの状況によっては、動き出す可能性がなくはない、といえそうです。